「やってるつもりニューノーマル」の落とし穴、Web会議の生産性を再確認半径300メートルのIT

急な変化になんとか対応する時期を過ぎ、組織が本格的な変革を遂げるべき段階に入りつつあります。他社の事例を参考に、自社の事例も積極的に発信して、ビジネスコミュニケーションのニューノーマルを探りましょう。例えばWeb会議は移動時間がなく、オフラインより気軽に設定できるのはメリットですが……?

» 2020年07月07日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在も私たちの生活に大きな影響を与えています。緊急事態宣言下の“ステイホーム”を経て、社会がその先のステージに変化しつつあることを感じている人は多いでしょう。ITはCOVID-19対策ツールとして非常に有効に機能しており、IT分野は他産業のお手本になっているように思います。

TOP 「よく頑張ったなあ」という気持ちになっている方もいるのではないでしょうか?

 アイティメディアも先日、新たな働き方の制度を発表しました。多くの企業で緊急避難的なテレワークのための技術導入が一段落し、これからは「ありものの土台の上で、どう効率良く業務をこなしていくか」というステージに移るのではないかと思います。ハードウェアというより、ソフトウェアをどうするか——。これからこそが正念場なのかもしれません。

だから気になる「お隣さんの台所事情」

 この難局において印象的だったのは、多くの企業がノウハウやスキルを独占せずに、積極的に共有する動きをしていたことです。例えばセキュリティ企業のセキュアスカイテクノロジー(SST)の技術ブログでは、CTOのはせがわようすけさんがIT組織の対応事例を発表されています。

 多くの経営者が、他社のIT組織がどう対応したのか、何に悩んでいるかを知りたがっています。そのような中で自社の事例を公開することは、決して「貴重なノウハウを流出させる行為」にはなりません。

 自社の対応を堂々と公開することは、先日紹介したコインチェックの件と同様に組織が持つ力をアピールし、信頼を生む「最強の広報活動」になり得ます。良質な情報は、情報を出し続ける人のもとにしか集まってこないのです。

 できれば読者も、現場から上がってくる「共有したい」という声を生かしてください。

大切なのは「どのコラボレーションサービスを使うか」ではない

 COVID-19対策事例の中で筆者が個人的に気になっているのが、コミュニケーションツールに関する情報です。マカフィーの「クラウドの採用とリスクに関するレポート(在宅勤務編)」によると、在宅勤務の拡大に伴って「Zoom」や「Webex」「Microsoft Teams」といったコラボレーションサービスの利用が加速し、利用の増加率は最大600%に上ったそうです。

マカフィー「クラウドの採用とリスクに関するレポート」 コラボレーションサービスの利用は2020年2月ごろから急増している(出典:マカフィー「クラウドの採用とリスクに関するレポート(在宅勤務編)」)

 ここで筆者が注意を呼びかけたいのは、「コミュニケーションの質の確保」についてです。前述したはせがわようすけ氏も、COVID-19終息後について「これからもコミュニケーションを重視するという価値観そのものは変わりませんが、その意味するところは変わっていくように思えます」と述べています。これまでは「量」に頼っていたコミュニケーションの評価を、質的変化させる方法を考える必要が出てきているのです。

 個人的には「Web会議が多すぎるのではないか?」という印象を持っています。テレワークの普及によってコミュニケーションのための移動時間が無くなり、「会議できる時間」が増えました。マネジメント層の中には、朝から晩までWeb会議が詰め込まれてしまったという人もいるのではないでしょうか。これは果たして、健全な状態なのでしょうか。

 コラボレーションサービスの利用が600%増加したとして、それらは本当に全て、必要な会議だったのでしょうか。

 リアルでもWebでも、会議は大勢の時間を拘束するコミュニケーション手法です。「Webだから気軽にできる」と詰め込まず、本当に必要な会議なのかを見直してみてもいいでしょう。

テキストベースの会議じゃダメなのか

 筆者は、できればWeb会議の次に「テキストベースの会議」を考えてほしいと思っています。つまりチャットツールの活用です。テキストコミュニケーションの最大のメリットは「非同期性」にあります。参加者の時間をなるべく拘束せずにコミュニケーションを取る方法として検討の価値はあるはずです。

 テキストベースのチャットツールは、どれを選んでもさほど違いはないでしょう。ただしシャドーITにならぬよう、できる限り「組織が認めたビジネス向けサービス」を利用するべきだと思っています。むしろ課題はその使い方。とかく“既読無視”のチェックを考えがちなコンシューマー向けチャットとは頭を切り替えて、例えば「要件は短くまとめて1回で送る」「期限が必要なものはしっかり記載する」といった使い方の工夫が重要になるかもしれません。

 テキストベースの会議は、特長をつかんで慣れてしまえばWeb会議よりも円滑な面が出てきます。リアル会議やWeb会議のように「1時間単位で人を拘束すること」を当たり前にせず、依頼したい項目をよく考えてテキストを作れば、会議で拘束されるよりも短い時間で作業が完了できてしまうことがほとんどのはずです。

 Web会議のようなコラボレーションサービスを使えばCOVID-19対策が完了するわけではありません。この状況において、私たち自身の働き方の質をどう変えていくかも、大きな課題であるといえるでしょう。

 とはいえ実は、現状の非合理的なWeb会議を歓迎している人もいるはず。デキる人たちはそろそろ「Web会議中にいかにバレずに、他の作業をするか」のスキルを磨き上げている頃です。それはそれで、非常に効率のいい時間の使い方かもしれません。


著者紹介:宮田健(みやた・たけし)

『Q&Aで考えるセキュリティ入門「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』

元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追いかけている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。

2019年2月1日に2冊目の本『Q&Aで考えるセキュリティ入門 「木曜日のフルット」と学ぼう!〈漫画キャラで学ぶ大人のビジネス教養シリーズ〉』(エムディエヌコーポレーション)が発売。スマートフォンやPCにある大切なデータや個人情報を、インターネット上の「悪意ある攻撃」などから守るための基本知識をQ&Aのクイズ形式で楽しく学べる。


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