花王が実践する「スモールマス」マーケ、店舗にいない顧客のデータを追うための地道な実務の中身は(1/2 ページ)

「これからはスモールマスマーケティングの時代だ」と言葉にするのは簡単だが、これを実践するには多数の「人」を介した地道な努力の積み重ねが必要だ。積み重ねさえあればその効果を最大化するためのITを使えばうまくいくことも多い。花王グループの場合はこの点にどんな手を打っているだろうか。同社が実践する新しい顧客接点の作り方について実務担当者が語った。

» 2020年10月29日 10時00分 公開
[原田美穂ITmedia]

 洗剤やトイレタリー製品で知られる花王のマーケティングといえば、2019年3月まで花王で専務を務めた吉田勝彦氏が提唱した「スモールマス」戦略が思い起こされる。スモールマスは従来の大量生産大量消費時代のマーケティング手法を改め、多様性ある消費者個人と向き合うマーケティング施策への転換といえる。吉田氏が切り開いた新しいマーケティングの考えは、グループ全体の方針として直近のマーケティング施策に受け継がれているようだ。

 セールスフォース・ドットコムが2020年10月14〜15日に開催した小売り業界向けのイベント「Salesforce Live: Retail & Consumer Goods」の講演「ツール導入時に描いたビジョンを実現するために〜花王が選んだ定着化へのロードマップ」は、花王グループの異なる2つの部門がそれぞれスモールマスマーケティングに向けてどのような施策を打っているかを紹介した。1つは自社ブランドマーケティングにおけるSNSの高度化、もう1つはオフラインでの対面販売の強みをオンラインに展開するOMOマーケティングの実践だ。

「スモールマス」に寄り添うために必要な、地味だがとても強い作戦

 これからはスモールマスの時代だ、といわれても、どんな施策を打てばいいのかは分かりにくい。マスマーケティング活動の文脈の中で消費者の「個人」を感じるにはどうしたらよいかこう考えたとき、SNSのような1対1のコミュニケーションツールは非常に効果的なツールになり得る。双方向性があり、一元的なコミュニケーションでありながら個別の接点を持てるためだ。対面せずにダイレクトに個人のアカウントにメッセージを伝えられるのは、デジタル化の恩恵に他ならない。

 花王ほどの規模の企業となると、取り扱う商品やブランドの数だけでも膨大だ。加えて、日々変わる顧客のニーズやトレンドに合わせて次々に新しい商品も開発される。

 個々の商材はターゲットも利用シーンも異なることから、統一したSNSコミュニケーションルールを敷くのは難しく、従来はブランドごとにそれぞれのマーケティング施策を組み、そのの中で運用してきた。当然ブランドごとに施策は異なり、場合によってはオンラインコミュニケーションについてのみ外注するといった運用をするブランドもあった。

 スモールマスを考えたとき、SNSの細かなコミュニケーションにも柔軟性が求められる。個々のアカウントの個性に則したコミュニケーションをとりながらも、ソーシャルリスニングや分析については科学的な手法で標準化して運用した方が得られる知見は多くなる。柔軟な運用と同時にガバナンスやリスク対策も考えていく必要がある。誤った投稿(いわゆる「誤爆」)によるブランドイメージ毀損は避けなければならないし、運用者の誤ったコミュニケーションや炎上リスクを察知する必要もある。

 もう1つは「対面販売を前提とするカウンセリング商品について、店舗にいない顧客と同接点を持つか」という問題だ。1to1コミュニケーションのきっかけが個客の来訪のみ、という状況を打開し、接点情報を増やせれば、よりきめ細かなサービスを提案できる。「言うは易し」だが、オフラインで積み上げてきた個客との接点をオンラインに持ち込むには、魔法のような方法はない。その実践手法は、花王が非常に地道な施策によって組み立てたものだ。以降でそれぞれの詳細を見ていく。

80ブランド、130アカウントを一元管理、グローバルで一貫した運用体制を構築

 花王におけるSNSマーケティング施策の改革について語ったのは、花王の高嶋智也氏(マーケティング創発部門コンシューマーリレーション開発部 プラットフォーム戦略室)だ。

花王 高嶋智也氏 花王 高嶋智也氏

 高嶋氏は花王でBtoC領域のブランドのWebマーケティングやキャンペーンサイト、アプリ対応、SNS運用プラットフォーム管理などを担当する人物だ。2019年にSalesforce.comの「Social Studio」を導入し、現在は130ものアカウントを運用する。

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