遅れている? エネルギー業界のDX推進を阻む「壁」を乗り越えるにはエネルギー×DXの将来像(1/3 ページ)

近年、大変革が起きているエネルギー業界でDXはどう進んでいくのか。DX推進を阻むエネルギー業界特有の壁は存在するのだろうか?

» 2021年11月19日 13時30分 公開
[田中広美ITmedia]

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 19世紀以来、電気やガスはあらゆる産業と人々の生活を支えてきた。近年ではガソリン車から電気自動車にシフトしつつあったり、さまざまな製造機械やオフィス機器、家電製品などがIoTでつながることでより便利に使えるようになったりするなど、電気を利用する場面は増える一方だ。

 現在、さまざまな業界でデジタルトランスフォーメーション(DX)が進む中、経済成長を支えてきたエネルギー事業者もまたDXに取り組んでいる。エネルギー業界の中でDXがどのように進展しているのか。何が課題で、それを解決するために何が必要なのか。環境・エネルギー分野のデジタル化推進を支援するコンサルティング企業RAUL代表の江田健二氏に話を聞いた。

エネルギー事業を取り巻く大きな変化

 江田氏は、「エネルギー業界におけるDXは、2016〜2017年に実施された電力・ガスの小口全面自由化後、進んでいる」と話す(以下、特に断りのない会話文は江田氏の発言)。

 エネルギー業界ではこの数年間、大きな変化が起きている。

 1つ目が電力自由化だ。戦後、東京電力をはじめとする大手電力会社(旧一般電気事業者)は、いわゆる「9電力体制(注1)」のもと、供給地域の顧客向けに自社が発電した電気を独占販売してきた。しかし、1995年に始まった電力自由化による発電事業の自由化を皮切りに段階的に独占解体が進み、江田氏が指摘する2016年の小売全面自由化によって旧一般電気事業者の地域独占体制は終了した。小口全面自由化でオープンになった市場には「新電力」と呼ばれる新規事業者が参入して競争が激しさを増している。

 2つ目が2013年にスタートした電力システム改革だ。旧一般電気事業者の発電、送配電、小売部門を分社化する発送電分離をはじめとする一連の改革が進んだ。なお、先ほど触れた電力小口全面自由化は電力自由化の総仕上げであると同時に、このシステム改革の一環でもある。このあたりの経緯については、江田氏が執筆した記事が詳しい。

RAUL代表 江田健二氏 RAUL代表 江田健二氏

 さらに、世界的な脱炭素の潮流や再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大など、エネルギー事業を取り巻く環境は内外で大きく変わっている。

 こうした中、エネルギー供給事業者は「最も重要な社会的使命」と位置付けられてきた安定供給を維持しつつ、魅力的な料金プランの策定やエネルギー供給以外の新しいサービス創出など、これまであまり顧みてこなかった「顧客に選ばれるためのサービス提供」をいかに両立するかが課題になっている。

欧米のエネルギー業界でDXが進む理由

 さまざまな課題が山積する中、大手電力会社をはじめとするエネルギー事業者がここ数年、熱心に取り組むのがDX推進だ。

 「ただし、日本のエネルギー業界のDX化が世界のエネルギー業界と比べて進んでいるかと言うと、自動車やエレクトロニクスなどグローバル競争にさらされている業界に比べて遅れていると言わざるを得ない。また、エネルギー業界同士でも、欧州やアメリカの方が進んでいる」

 江田氏は、欧州やアメリカのエネルギー業界でDXが進む理由として以下の2点を挙げた。

  • 欧州やアメリカでは日本に比べて約10年早く小売全面自由化した
  • 欧州やアメリカにはデジタルネイティブ企業が数多く存在し、既存のエネルギー事業者との協業が活発化している

 「ただ、欧米に比べればまだ少ないが、現在は日本にもデジタルネイティブ企業が約100社あり、資金流入も続いていることから増加傾向は続くだろう」。その背景として江田氏が指摘するのが、デジタルネイティブ企業への投資意欲が高いベンチャーキャピタルの増加と、クリーンテックやクライメートテック、エネルギーテックといった環境、エネルギー×テクノロジー関連銘柄への注目度の上昇だ。

 「大手電力会社の他社との協業に関する意識も変わりつつあるように感じる」

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