東京電力の挑戦 レガシーシステムを抱えつついかにDXを進めるか【後編】「DXリーダーに聞く」 エネルギー×DX(1/3 ページ)

日本における電力関連データの約3分の1を保有する「データソースカンパニー」である東京電力は、膨大なデータをいかに生かしてDXを進めるか。また、DX推進を阻む課題とその解決法とは。

» 2022年01月27日 07時00分 公開
[田中広美ITmedia]

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 日本の産業を土台から支えるエネルギー業界においてデジタルトランスフォーメーション(DX)はどのように進むのか。DX推進における課題は何か。そして、DXが進展するエネルギー業界はどのような様相になるのか。

 「エネルギー×DX」の第1回目となる今回は、東京電力ホールディングス(以下、東京電力)常務執行役で最高情報責任者(CIO)と最高情報セキュリティ責任者(CISO)を務める関知道氏に話を聞く。

 東京電力グループは膨大な設備と顧客数を誇るエネルギー業界の「巨人」であるがゆえのレガシーシステムという課題を抱える。また、2011年の東日本大震災直後に起きた福島第一原子力発電所事故で被害を受けた人々への賠償責任も負う。こうした中で東京電力がDXに関してどのような展望を描き、足元でどのような課題を抱え、それを解決するためにどのような施策を打つのか――これらを把握することで、今後のエネルギー業界におけるDX進展の道筋が垣間見えるのではないか。

 前後編の後編となる本稿では、同社のデジタル人材育成における課題と「稼ぐ力」を追求する理由に迫る。

参考記事・東京電力の挑戦 レガシーシステムを抱えつついかにDXを進めるか【前編】

カイゼン活動からTEPCO DXへ

東京電力ホールディングス 常務執行役CIO兼CISO 関 知道氏 東京電力ホールディングス 常務執行役CIO兼CISO 関 知道氏

 東京電力におけるDX推進について、関氏は「当社のDXはカイゼン活動と切り離せない」と語る(以下、特に断りのない会話文は関氏の発言)。東京電力は2015年 、トヨタ自動車元常務の内川晋氏を特別顧問として招聘して以来、「トヨタ式カイゼン」を取り入れて業務改善に取り組んできた。

 関氏が「カイゼンの対象は業務と人だ。内川顧問の指導を受けて、われわれの考え方は全く変わった」というように、「カイゼン」は、単なる業務改善にとどまらず、従業員のマインドセットも変えた。その後も、テクノロジーを活用して業務改善を加速させる「TEPCO式カイゼン」、近年は「TEPCO DX」として継続している。

「粘土層」の意識をいかに変革するか

 DX推進というと、デバイスの入れ替えやデータやAI(人工知能)の活用が連想されるが、関氏は「テクノロジーを入れるだけでは現状が踏襲されてしまう」と危機感を募らせる。同社は他企業と協業したり、外部人材を新しく受け入れたりしているが、業務変革は外部のコンサルティング会社や新規雇用の人材ではなく、同社で長く業務を担ってきた従業員でなければ難しいという。「それを担う人材が当社に不足している」と人材育成面における課題を語る。

 同社は人材育成プログラムとしてDXを推進するデジタル人材の育成に努めており、プログラム受講者の70%以上を20〜30代が占める。「DXを進めるに当たって重要なのは、DX推進の取り組みを全ての従業員に広げることだ。『粘土層』や『岩盤』などと呼ばれる、中間マネジメント層の意識を変えるのが特に課題だ」と話す。

 では、人材育成の課題をどう解決するか。関氏が打開策として挙げたのが次の3つだ。

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