中小企業でERPへの「ステップアップ」進む理由 最もシェアが大きい製品、サービスは?

ノークリサーチの調査によると、中堅・中小企業向けERP市場は伸長が見込まれる。中堅・中小企業向けに大企業向けの「2層ERP」と異なる訴求がITベンダーには必要になるとノークリサーチは提言する。具体的な内容を見ていこう。

» 2022年11月02日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。

 ノークリサーチは「中堅・中小企業向けのERP(基幹業務システム)市場に関する調査」を実施した。同調査は、国内の中堅・中小企業におけるERPの利用実態を探るため、年商500億円未満の全業種の企業を対象に2022年7〜8月に実施し、1300社から有効回答を得た。回答者は情報システムの導入、運用、管理または製品やサービスの選定、決済の権限を有する職責者だ。

中堅・中小企業で最もシェアが大きいERP製品、サービスは?

 10分野(ERP、生産管理、会計管理、販売・仕入・在庫管理、給与・人事・勤怠・就業管理、ワークフロー・ビジネスプロセス管理、CRM《顧客関係管理》、BI《ビジネスインテリジェンス》、文書管理・オンラインストレージサービス、コラボレーション)のITアプリケーションについて、「導入済み/導入予定のERP製品/サービス」を尋ねた結果の社数シェア上位を抜粋したのが下の図だ。

 「導入済み」の上位5社(5位は同率のため、計6社)については、導入予定から導入済みを引いた増減幅も記載している。

導入済み/導入予定のERP製品/サービス(複数回答可)(社数シェア上位の製品/サービスのみを抜粋)(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 中堅・中小企業が導入済み、あるいは新規に導入を予定しているERP製品、サービスの中で最もシェアが大きいものは何か。

 首位の「SMILE」シリーズは、増減幅もプラスであることから、ノークリサーチは「今後も導入済みの首位を維持する可能性が高い」とみる。

 「SAP Business All-in-One」(SAP ERP/A-One)は、サポート終了の影響から今後も減少が続くと予想される。SAP ERP/A-Oneの代替としての導入が進んできた「SAP Business One」(SAP B-One)は「導入済み」では4位に位置している。ただし、増減幅はマイナスであることから、代替需要も一巡しつつある可能性がある。

 「GLOVIA シリーズ」と「OBIC7」が増減幅でおおむね横ばいとなる中、「奉行V ERP」はプラスとなっている。

 また、新規に導入を予定している企業の年商別の集計結果によると、年商5〜50億円の中小企業層が有望だ。同年商帯では基幹系統合によるERPへのステップアップが進みつつある。ノークリサーチは「今後は中小企業層の基幹系システムで実績の豊富なベンダーがシェアを伸ばしやすい状況だ」と指摘している。

大企業向けの「2層ERP」とは異なる訴求が必要

 ノークリサーチは同調査結果を基に導入済み、あるいは導入予定の主要なERP製品、サービスの運用形態(オンプレミス/クラウド)についても分析した。

主要なERP製品/サービスの運用形態(複数回答可)(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 導入予定(新規予定)から導入済みを差し引いた値を見ると、「パッケージ」(IaaS/ホスティング利用)は10.6ポイント減少した。ERPにおけるIaaS/ホスティング利用は、IT活用が比較的進み、アクセス数や処理量の変動が大きいユーザー企業で多く見られる。ノークリサーチは「この結果は、リソース変動への対応を求めるユーザー企業層での導入が一巡しつつあることを示している」と分析する。

 昨今は「会計や販売、人事給与、生産などの基幹系システム全てを網羅するわけではないが、何らかの業務基盤としての役割を担うことを目指すSaaS」を「クラウドERP」として訴求する動きも活発化している。

 冒頭に挙げた社数シェアでも、マネーフォワードの「マネーフォワード クラウドERP」やfreeeの「クラウドERP freee」などが上位15位以内に位置している。上記のグラフでも導入済みの「SaaS利用」が20.8%に達していることから、「クラウドERPの動向を注視していくことが重要だ」とノークリサーチは指摘する。

 ただし、「導入予定」の「SaaS利用」は17.1%と、「導入済み」よりも低い値となったことから、ERPにおけるSaaS利用をどう捉えるべきかは判断が難しい状況だ。

 その答えのヒントとなるのが、ERPの運用形態を尋ねた上記の結果を自己クロス集計した結果の中から「SaaS利用」のケースを抜粋した下記のグラフだ。

最も主要な製品/サービスの運用形態(複数回答可)(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 「SaaS利用」でも21.2%が「パッケージ」(社内設置)を選んでいる。「社内設置パッケージのERPか、クラウドERPか」の二者択一ではなく、「両者の併用が現実解である」と考えるユーザー企業が多いことが分かる。

 以前、大企業を中心に、本社では社内設置パッケージのERPを導入し、拠点ではクラウドERPを導入する「2層ERP」が注目を集めた時期があった。

 しかし、中堅・中小企業における社内設置パッケージとクラウドERPの併用は2層ERPとは違い、「業務内容に応じて両者を使い分ける形態」と捉えるのが適切だ。例えば、富士通のGLOVIAシリーズやNECの「EXPLANNER」シリーズは、以前から基幹系システムのモジュールごとに社内設置パッケージとSaaS利用を選択することができる。大塚商会のSMILEシリーズも2021年7月からSaaS形態の「SMILE V Air」を展開している。

 ノークリサーチは、中堅・中小企業向けERPでは社内設置パッケージとクラウドERPを対立軸で捉えるのではなく、適材適所で併用する選択肢として提供することが重要だとしている。

今後はノーコード/ローコード開発ツールやWeb会議サービスとの連携も

 ノークリサーチは中堅・中小企業における導入済みERP製品/サービスに関する「課題」や「評価/満足している機能や特徴」「今後持つべきと考える機能や特徴」(今後のニーズ)についても分析した。

 以下のグラフは、ERPにおける「今後のニーズ」を尋ねた結果を「導入済み」と「導入予定」で比較したものから抜粋したものだ。いずれも「導入済み」と比べて「導入予定」における値が高いことから、ノークリサーチは「今後のニーズ増加が予想される」としている。

最も主要なERP製品/サービスが今後持つべきと考える機能や特徴(複数回答可)(一部の項目のみ抜粋)(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 「クラウドサービスの組み合わせでERPを構築できる」は、前述の「クラウド併用」から一歩進んで、「クラウドサービスの組み合わせでERPと同等の環境を構築しようとするニーズ」だ。ノークリサーチによると、「導入済みのERPでは難しいが、業務基盤の新規構築や全面刷新の場合は不可能とは言い切れない」としている。

 「プログラミングをせずにデータ連携を実現できる」製品については、大塚商会の「SMILE V」の「Custom AP Builder」、富士通の「GLOVIA iZ」の「ファーストビュー」など、セルフカスタマイズ機能を備えたERPも既に存在する。昨今ではクラウドERPにも入力項目、画面、帳票をノンプログラミングで作成できる仕組みを持つものが登場している。

 一方で、ノーコード/ローコード開発ツールにも注目が集まっており、ERPと併用/連携して自由度や柔軟性を高めようとする取り組みも見られる。ミロク情報サービスのERP「Galileopt DX」とSCSKのノーコード開発ツール「CELF」の連携ソリューション「CELF拡張オプション for Galileopt」などがその例だ。

 ノークリサーチは「セルフカスタマイズの仕組みをどのように持たせるかという観点もERPにおける今後の重要な差別化要素の一つだ」と指摘する。

 また、「Web会議の画面上でデータを参照/共有できる」については、コロナ禍を通じてWeb会議サービスが主要なコミュニケーション手段の一つとなったことが影響している。現段階ではERPのデータ(マスター情報など)をWeb会議サービス上で参照/共有するレベルだが、「今後はWeb会議サービスで得られた結論をその場でERPに反映するといった入力系の連携が求められる可能性もある」とノークリサーチは分析する。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ