日本企業のDXはどこまで進展しているか――ITRの最新調査から探るWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2022年11月21日 12時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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DXで「少しでも成果を上げている」日本企業は25%

 図5は、DXのテーマごとの取り組み状況と成果獲得の現状を示したグラフだ。

図5 DXのテーマごとの取り組み状況と成果獲得の現状(出典:ITR「国内IT投資動向調査報告書2023」記者説明会資料)

 ITRはDXを16項目のテーマに分け、それらを「従業員エンパワメント」「顧客エンゲージメント」「オペレーション最適化」「製品・サービスの競争力向上」の4つに分類して取り組み状況を把握できるようにしている。

 16項目の中で取り組む企業が多いテーマは「ワークスタイルの変革」(43%)と「業務の自動化」(40%)だった。この2つについてはいずれも21%の企業が「成果も出ている」と答えている。

 筆者がこのグラフで着目したのは、多くの企業が取り組んでいるものの成果の有無の差が大きいテーマだ。「人事・組織管理の最適化」に取り組む企業(36%)のうち、「成果は出ていない」と回答した企業(22%)が「成果も出ている」と回答した企業(14%)よりも8ポイント多かった。「顧客サポートの高度化」は34%の企業が取り組み、「成果は出ていない」と回答した企業(20%)と「成果も出ている」と回答した企業(14%)の差は6ポイント、「スケジューリング・需要予測の高度化」は34%の企業が取り組み、成果は出ていない」と回答した企業(20%)と「成果も出ている」と回答した企業(14%)差は6ポイントだった。すなわち、これらは「取り組む企業は多いものの成果が出にくい難しいテーマ」だといえそうだ。

 図6は、2021〜2022年におけるテーマごとの取り組みと成果獲得比率の変化を表したグラフだ(報告書への記載はなく、記者説明会のみで公開)。

図6 DXのテーマごとの取り組みと成果獲得比率の変化(出典:ITR「国内IT投資動向調査報告書2023」記者説明会資料)

 棒グラフは進行中・実施済み比率、折れ線グラフは成果獲得比率の変化を示している。図6で目立つのは、「コミュニケーション/コラボレーションの高度化」と「業務の自動化」だ。進行中・実施済み比率、成果獲得比率ともに伸びが大きく、2022年の成果獲得比率がそれぞれ56%、52%と高い水準となっている。

 図7は、ITR独自の「DX実践度スコア」によって、企業のDXへの取り組み状況をグラフ化したものだ。

図7 DXテーマの取り組み状況とDX実践度スコア(出典:ITR「国内IT投資動向調査報告書2023」記者説明会資料)

 同スコアは図5および図6で紹介した16項目のDXテーマについて、企業の回答内容に応じた点数を割り振り、それを集計した点数(100点満点)を回答者ごとに導き出したものだ。回答が「進行中・実施済みで成果も出ている」は5点、「進行中・実施済みだが成果は出ていない」は3点、「社内承認中、または企画中」は1点、「未着手、またはわからない」は0点とした。

 ITRはDX実践度スコアが70点以上を「半分以上のDXテーマで成果が上がっている段階」、50〜70点未満を「多くのDXテーマでプロジェクトが実施され、そのうちの一部では成果が上がっている段階」としている。2022年調査でDX実践度スコアが70点以上の企業は9%、50〜70点未満の企業は16%だった。

 50点未満の企業は「多くのDXテーマでプロジェクトが実施されているが、成果は上がっていない段階」(30〜50点未満)、「多くのDXテーマで企画化が進むとともに、そのうちの一部ではプロジェクトが始まった段階」(10〜30点未満)、「一部のDXテーマで企画化が始まった段階」(10点未満)のため、50点以上の「現時点でDXによって少しでも成果を上げている日本企業」は25%だった。

 図8は、DX実践度スコアの全体平均と分布の変化を示したグラフだ。

図8 DX実践度スコアの全体平均と分布の変化(出典:ITR「国内IT投資動向調査報告書2023」記者説明会資料)

 2021年から2022年にかけて、DX実践度スコアの全体平均が30.5点から33.0点へとアップした。DXによって少しでも成果を上げている日本企業の割合(50点以上)は2021年の20%から25 %へと5ポイントアップした格好だ。これを受けて、ITRは「日本企業におけるDXの取り組みは着実に成果が出始めている」という見解を示している。

 以上の調査結果から、日本企業のDXがどこまで進展しているか、感触をつかんでいただけたのではないか。加えて筆者がお勧めしたいのは、図5に掲げられた16項目からなるDXテーマに基づいて、自社の取り組み状況と成果獲得についてチェックすることだ。図6と合わせて見れば、自社の「現在地」を推し測ることもできそうだ。その意味でも、この調査結果は多くの企業にとって貴重な道しるべとなるだろう。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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