主要なクラウドベンダーが目指す未来は実現するのか 有識者の意見は

AWS re:Invent 2022を通してAWSはどのようなメッセージを伝えたのか。他ベンダーとは違ったアプローチをするOracleの「クラウドベンダー同士の連携」は実現するのか。ITジャーナリストのアーロン・タン氏に聞いた。

» 2022年12月06日 13時09分 公開
[関谷祥平ITmedia]

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 Amazon web Services(以下、AWS)は2022年11月28〜2022年12月2日(現地時間)の間、同社の年次イベントである「AWS re:Invent 2022」を米国ネバダ州ラスベガスで開催した。コロナ禍で直近3年間は縮小されて開催された同イベントだが、2022年は多くの規制が緩和され、約2000を超えるセッションに対して約4万人が世界から集まった。

会場の周りの街並み(筆者撮影)

 世界各地から取材に訪れた記者の数も約200人に上り、イベントに対する注目度は非常に高いものがあったと言える。3大クラウドベンダーの一つであるAWSの変化を、海外メディアの有識者はどのように見たのか。TechTarget Singaporeでエグゼクティブエディターを務めるアーロン・タン氏に聞いた。

AWSと他ベンダーの違いは? Oracleが目指す「連携」の未来は来るのか

アーロン・タン氏

 タン氏はインタビューの冒頭、「AWS re:Invent 2022のようなイベントは、企業にとって『新たなサービス』や『組織が目指す方向性』『成長のための戦略』などを示す重要な機会だ。特にAWSは、2021年にアダム・セリプスキー氏をCEO(最高経営責任者)として迎え入れたばかりで、組織としての戦略を明確に発信したいと考えている。そして、パートナーやユーザーにとってもここが重要になる」と話し、イベントの重要性を強調した。

 同氏はAWSと他のクラウドベンダーの違いについて「現場へのアプローチ」を挙げる。インフラの強化やクオリティーの高さを強調することは、現代においては全てのクラウドベンダーが行っているが、AWSはその中で「現場への意識を強めている」という。

 「クラウドベンダーとして長い歴史がある分、サービスの幅広さやクオリティー、ユーザー数などは他のベンダーと比較してもトップクラスだ。だからこそ、AWSは他のベンダーよりもより現場のユーザーの使いやすさや利便性を重要視している。今回のイベントでは現場のエンジニアやアナリストの業務を簡便化するものが多く、これがAWSのメッセージとして協調されている」(タン氏)

 また、タン氏は注目の基調講演にアダム・セリプスキー氏のものを挙げ、その理由として「AWSは世界で50%近いクラウドシェアを持っており、AWSの目指す目標が他のベンダーをはじめユーザー企業、パートナー企業に大きな影響を与える」と述べた。

クラウドの差別化は簡単ではない? 「連携」にシフトするのか

 主要なクラウドベンダーがそれぞれの特徴をアピールするが、一方で「差別化は簡単ではない」というのがタン氏の意見だ。「差別化をどのように実現するか」を模索するメガスケーラーなベンダーとは異なる角度で組織の方向性を示しているのがOracleだ。

 OracleでCTO(最高技術責任者)を務めるラリー・エリソン氏は、同社の年次イベント「Oracle CloudWorld 2022」(開催期間:2022年10月17〜20日)において「主要なクラウドがつながれば、ユーザーは1つのクラウドに縛られることがなくなる。閉鎖的なサービスではなく、オープンなものが求められている」と話し、「ユーザーの利便性」「クラウドベンダー同士の協力」を基軸とした同社の目指す道を示した。これは他のクラウドベンダーのメッセージと比較しても一線を画すものだ。

 MicrosoftのCEO(最高経営責任者)を務めるサティア・ナデラ氏は、日本マイクロソフトが2022年11月17日に開催した「Empowering Japan's Future」において、「Do more with less」(より少ない労力で多くを成し遂げる)を前面に押し出し、AWS同様に組織が持つサービスの強化や簡便さをベースにユーザーの利便性を高めることを強調した。

 Googleも2022年10月7日、印西市(千葉県)にデータセンターを開設すると発表しており、サービス提供品質の高度化への投資を本格化させている。Googleはこれらのインフラへの投資と並行してエンドユーザー拡大に向けた取り組みも推進しており、例えば日本の中小企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する「Grow with Google」プログラムは、2022年までに1000万人にトレーニングを提供することを目標に掲げ、既に700万人超がトレーニングを受けたという。

 このように、主要なクラウドベンダーがそれぞれの差別化ポイントでユーザー獲得に取り組む中、Oracleが目指す「連携」の未来は本当に来るのか。

 タン氏は「現時点で確実なことは述べられない。しかし、クラウドを使う企業が一つの組織に依存することを嫌うのは事実で、彼らは常に『どのようにリスクを下げるか』を考えている。このような観点からもOracleが示した方向性はとても興味深い。ユーザーが複数のベンダーを自由に使うことができれば、それぞれの業務をそれぞれのサービスの特徴に合わせて選定できるからだ。また、日本のようにオンプレミスの利用が依然として人気の国ではハイブリッドのような形態が好まれ、Oracleのように『連携』を強調する戦略は良いかもしれない」と話し、インタビューを終えた。

(取材協力:アマゾン ウェブ サービス ジャパン)

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