サッカーW杯日本代表から学ぶ「DXのポイント」「不真面目」DXのすすめ

サッカーとITは大きく異なる分野ですが、筆者は今回のサッカーW杯における日本代表の在り方にDX推進のポイントがあると言います。さまざまな名言が飛び出した今回の戦いを振り返りつつ、DX推進との関連がどこにあるのかを見てみましょう。

» 2022年12月09日 09時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

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この連載について

 この連載では、ITRの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)が企業経営者やITリーダー、IT部門の皆さんに向けて「不真面目」DXをお勧めします。

 「不真面目なんてけしからん」と、「戻る」ボタンを押さないでください。

 これまでの思考を疑い、必要であればひっくり返したり、これまでの実績や定説よりも時には直感を信じて新しいテクノロジーを導入したり――。独自性のある新しいサービスやイノベーションを生み出してきたのは、日本社会では推奨されてこなかったこうした「不真面目さ」ではないでしょうか。

 変革(トランスフォーメーション)に日々真面目に取り組む皆さんも、このコラムを読む時間は「不真面目」にDXをとらえなおしてみませんか。今よりさらに柔軟な思考にトランスフォーメーションするための一つの助けになるかもしれません。

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウド・コンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手がける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

 読者の皆さん、サッカーワールドカップ(正式名称は「FIFAワールドカップ カタール2022」、以降「W杯」と略します)での日本代表のゲームを見られたでしょうか。熱心なサッカーファンではない筆者も予選の3ゲームと決勝トーナメント初戦をリアルタイムで見ました(ドイツ戦は前半の雰囲気から、後半開始前に別チャンネルに切り替えてしまったのはないしょです)。

 決勝トーナメント1回戦(対クロアチア)でPK戦で負けたことは本当に残念でしたが、多くの人々に感動と勇気を与えてくれた代表チーム全員にエールを送ります。

 今回は、W杯人気にあやかって、W杯日本代表から学ぶDXのポイントについて解説したいと思います。

ポジティブ思考を続ける

 今回、日本代表は数多くの名言を残しました。中でも筆者が最も好きなのは、ファインセーブを連発したゴールキーパー 権田修一氏の「『負けたら終わり』ではなく、『勝ったら次がある』と考えるようにしている」という言葉です。

 DXプロジェクトでは、これまで誰も考えつかなかったような新しいビジネスアイデアに挑戦する必要があります。きっと多くの人が不安を抱くだろうと思います。誰にも正解は分からないし、やってみないと分からないことが多いのも実情です。このような状況で失敗が頭によぎると、足がすくんで活動が停滞したり後退したりすることもあります。

 DXプロジェクトでは、メンバー全員がいつもポジティブに考えた方が良い成果が得られることが多いのです。もちろん、いつもポジティブに考えることは容易ではありません。人間は生き物ですから、へこむこともあるでしょう。ネガティブになっていそうなメンバーを見つけたら、ポジティブな考え方に方向転換できるように、さり気なく勇気付けると良いでしょう。

ずっとチャレンジし続ける

 W杯日本代表チームにとって初めての日本人監督である森保 一氏はクロアチア戦でPKキッカーに名乗りを上げた選手について、「プレッシャーがかかる中、勇気を持ってチャレンジする姿を見せてくれました。たたえたい」と語ったそうです。DXプロジェクトでもチャレンジは重要ですし、「チャレンジしないDXはDXではない」と言っても過言ではありません。

 現在ほとんどチャレンジしなくなった人でも、これまでの人生において何度かチャレンジしたはずです。しかし、チャレンジに失敗した経験からか、チャレンジに消極的な人が多いのも事実です。

 重要なのは「チャレンジしたことがあるかどうか」ではなく、「いまもこれからもチャレンジし続けられるか」です。DXプロジェクトでは常にチャレンジが必要ですし、良い成果が得られていなくても、新しいことにチャレンジし続ける必要があります。

チーム全員で考える

 森保監督は選手やコーチなどのスタッフの意見を柔軟に取り入れるそうです。フォーメーションの決定に当たっても、選手の意見を尊重すると聞きます。

 DXプロジェクトでは環境の変化や、顧客やユーザーの要求に柔軟かつ迅速に適応するためにアジャイル的な手法で進めることが多くあります。その中で、メンバーの意見は極めて重要です。

 カリスマ的リーダーシップを持つ人がぐいぐい引っ張っていく手法では、他のメンバーは当事者意識を持ちづらく、プロジェクトが「自分ごと」ではなく「他人ごと」になってしまいがちです。

 このような姿勢のメンバーが集まっているチームで、画期的な取り組みができるはずがありません。DXプロジェクトでは、関係者全員が自分ごととして考え、意見を自由闊達(かったつ)にチーム内でぶつけ合うことが重要です。

熱い情熱を持つ

 今回のW杯における流行語の一つが、長友佑都氏が多用した「ブラボー」です。「日本人なのになぜイタリア語なのか」と感じる人もいたようですが、明るくポジティブに元気づけるこの言葉を喜ぶ人が多かったのも事実です。長友氏は「『ブラボー』と言い続けてチームに闘魂を注入するのが自分の役割だと思っている」という趣旨の発言をしています。

 本連載では、「DXプロジェクトではワクワクしながら取り組むことが重要」と繰り返し訴えてきました。ワクワクするためには熱い情熱を持ってDXに取り組むことが大切です。

 トップからの指示で仕方なくDXに取り組んでいる企業も少なくありませんし、「DXで何をやったらよいのか分からない」と嘆く人も多くいます。ただ、どのような背景や事情があるにせよ、情熱を傾ければ何らかの道が開けてくるはずです。

外野の声に惑わされない

 日本代表は強豪ドイツに勝った後、FIFAランキングが日本(24位)より低いコスタリカ(31位)に負けました。その後、日本代表は多くの人々から批判を受ける中で、自分たちの力を信じて批判に惑わされないようにメンタルコントロールに努めたそうです。

 堂安 律氏はスペイン戦の前に「批判してくれている方も含めて全員で喜んでいるイメージはできている」と発言しました。

 DXプロジェクトでも、チームメンバーでない人々からいろいろな意見を聞かされると思います。批判的な意見も多いでしょう。それらの人々はDXプロジェクトに何も関与していないのですから、建設的な意見以外に耳を貸す必要はありません。外野席の人々の意見を尊重すれば、本稿で書いてきた「ポジティブ思考」「チャレンジ」「チーム全員で考える」「熱い情熱を持つ」を実行できなくなります。

 自分たちを信じ、自分たちの未来を想像しながら、DXプロジェクトでの素晴らしい成果を挙げていただきたい。筆者は心からそう願っております。

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