「業界の巨人」が大規模リストラ フードデリバリー業界が学ぶべき教訓とは?Restaurant Dive

コロナ禍でフードデリバリー事業者は記録的に売り上げて、多くの人材を採用した。コロナ禍の影響が薄れてきた現在、ビジネスモデルが抱える問題を直視せざるを得ない状況となっている。

» 2023年01月13日 09時00分 公開
[Julie LittmanRestaurant Dive]

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Retail Dive

 フードデリバリー大手DoorDashのCEOトニー・シュー氏は、2022年11月末、同社Webサイトで約1250人の従業員をレイオフしたと発表した。「Restaurant Dive」が記者会見前に同氏にコメントを求めたところ応じなかったが(注1)、会見終了後に次のように述べた。

 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生した際、当社は事業の成長に合わせて急速に採用を強化して多くの新規事業を立ち上げたが、チームのマネジメントにまでは手が回らなかった。不安定な組織体制で立て続けに採用したことによって営業費用は増加した。ただし、そうでもしなければ当社の事業は赤字に陥っていただろう」(シュー氏)

 コロナ禍の影響が低減する今、業界大手のDoorDashが大規模レイオフを実施するほどフードデリバリー業界は冷え込んでいる。アナリストが指摘する、フードデリバリー業界が今回の大規模レイオフから学ぶべき教訓とは。 

DoorDashの大規模レイオフから学ぶべきこととは

 シュー氏は今後も、採用以外の営業費用を削減する意向を示している。DoorDashが実施した今回のレイオフは、会社の規模を適正化し、事業の優先事項に戦略的に取り組んでいくためだという。シュー氏は今後の方針について以下のように語った。

 「まずは今の組織の規模感で十分に機能するような体制を築く。スタートアップ時代のハングリーさや効率性、創造性を大切にしたい。加えて、業界のリーディングカンパニーとして責任を持って市場をけん引したい。人材採用においても、今後はターゲットを絞った厳格な方法で従業員を採用する」(シュー氏)

 同社の年次報告書によると、2021年末時点の従業員数は全世界で約8600人だった。今回のレイオフ前の従業員数はおよそ2万人で、6%の人員を削減したことになる(注2)。レイオフ前の従業員数2万人の中には、同社が2021年6月に買収した、同じくフードデリバリーを展開するWoltに在籍していた3700人以上の従業員も含まれるようだ(注3)(注4)。

 2022年9月30日締めの四半期報告書によると、今回発表されたレイオフの結果、DoorDashの大半は勤務年数2年未満の従業員で構成されることになったという。

 同社は技術や顧客サービス、営業やマーケティングのインフラシステムに多額の投資を行っている。同社は「今回のレイオフによって特定の部署が影響を受けることはなく、サービスが停止することもない」と述べている(注5)。

 データ分析を行うGlobalDataのニール・サンダース氏(マネージングディレクター)は「Restaurant Dive」に対して、次のようにコメントした。

 「サードパーティーデリバリー事業(注6)を展開する他の企業と同様、DoorDashはコロナ禍のピーク時に記録的な売り上げを計上したが、その後急激に縮小した。多くの中小企業は依然として売り上げを確保するのが難しい状況だが、業界最大手のDoorDashには復調の兆しが見えており、注文数、売り上げともに上がり続けている」(サンダース氏)

 さらに、「小売業者との契約件数が増えたのも、売り上げ向上の一因と思われる。ただし、業界全体として利益が上がりづらいことは大きな課題だ」とサンダー氏は付け足した。

 DoorDashの第2四半期報告書によると、減価償却費を除いた売上原価は、2022年1〜9月は前年同期比51%増の25億ドル超となった。その中には、人員増加による人件費とそれに関連した間接費の総額1億5000万ドルも含まれている。営業損失は、前年同期の2億9800万ドルから7億5400万ドルと2倍以上に膨らんだ(注6)。

レイオフ後も黒字化せず レイオフの狙いは?

 このように損失は大きいものの、売り上げは直近5回の四半期にわたって増加を続けており、第3四半期には前年同期比33%増に跳ね上がった。調整後EBITDA(償却前営業利益)は8700万ドルで、市場の総受注量の約0.6%を占めている。しかし、この増収にはコストがかかっており、2022年会計年度開始時に41セントだった注文1件当たりの損失は、約70セントまで増加したという。サンダース氏は次のように話す。

 「DoorDashは今回のレイオフによって黒字化はしない。レイオフは、拡大する損失を抑制し、投資に対する見識が高まっている投資家に自信を持たせるだろう」(サンダース氏)

 サンダース氏はDoorDash以外のデリバリー事業者についても言及した。「今回のレイオフは、デリバリー事業者にとって良い教訓になるはずだ。DoorDashには厳しい状況を乗り切るための体力と資金力があるが、多くの中小企業は持ち合わせていない。もし中小企業がDoorDashのように急に採用を増やせば、コロナ禍の影響が収まったときに、ビジネスモデルの脆弱(ぜいじゃく)さが露呈することになるだろう」(サンダース氏)

 インフレ圧力や2023年に訪れると言われる景気後退に向けて経済状況は厳しさを増している。DoorDashが実施したようなレイオフは2022年に入ってから頻繁に実施されている。同業のChowNowも今年初めに100人近い従業員を解雇したが、CEOのクリス・ウェッブ氏は、以前「Restaurant Dive」の取材に対して次のようにコメントした。

 「フードテック業界では、一見ビジネスが好調で財務状況が安定しているように見える企業でも、さらなるレイオフを実施することが予想される。フードテック関連株は史上最低水準で取り引きされており、企業は資金不足を懸念し始めているようだ」(注7)

(注1)Tony Xu’s Message to DoorDash Employees(DoorDash)
(注2)UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION(SEC、米証券取引委員会)
(注3)Wolt makes it incredibly easy for you to discover and get what you want. Delivered to you quickly, reliably and affordably. And by doing so, we make cities better places to live.(Wolt)
(注4)DoorDash Completes Acquisition of Wolt(DoorDash)
(注5)UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION(SEC、米証券取引委員会)
(注6)他の事業者が運営するレストランの商品を消費者に届けるデリバリー事業者のこと。

(注7)UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION(SEC、米証券取引委員会)
(注7)ChowNow CEO: More restaurant tech industry layoffs are coming(Restaurant Dive)

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