職員高齢化に悩む旭川市が“日本一のデジタル都市”を目指す理由「Cybozu Media Meetup vol.11」レポート【前編】(2/2 ページ)

» 2023年01月26日 14時30分 公開
[指田昌夫ITmedia]
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「日本一のデジタル都市」を目指す旭川市の業務改革

 旭川市は、北海道のほぼ中央に位置する人口約32万人の自治体だ。旭山動物園やスキーリゾート、道内1位の生産量を誇る米などの農業生産物で知られる。

旭川市の水沢氏 旭川市の水沢氏

 同市において、人口減少と少子高齢化は全国平均を上回るスピードで進行している。旭川市の水沢 悠氏(総務部行政改革課)は「市役所職員の高齢化も進んでいる。将来的には育児や介護に携わらずに制約なく働ける職員の数は少なくなる見込みだ。業務効率化とサービス向上のための取り組みは不可欠だ」と説明する。

 旭川市はDXをこうした課題を解消する手段の一つとして位置付けている。今津寛介市長は2022年4月に「日本一のデジタル都市に挑戦する」と宣言して改革に乗り出した。

 「DXを進めるためには庁内の組織風土の改革が必要だ」との認識の下、同市が重視したのは職員が自らデジタルを使って業務を変革することだった。

 水沢氏は「CDO(最高デジタル責任者)やIT部門がただツールを提供するだけでは活用が進まない。職員が自ら考え、自身の業務をデジタルで変えていく必要がある。そのためには、ノーコードツールの活用が必要だった。Kintoneの1年間無料キャンペーンを見て、すぐに応募した」と導入の経緯を語る。

 同市のkintone導入は2022年6月から始まった。アカウントを配布して積極的な職員にどんどん使ってもらうとともに、サイボウズが開催するハンズオン形式のセミナーに参加したり庁内での研修も実施したりした。同年10月には要領やマニュアルを策定して、職員が安心して利用してセキュリティも十分に確保するという運用方針を固めていった。同年12月にアプリの本運用を開始した。

 「気を付けているのは押し付けないことだ。現場の理解を得ることを最優先に考えて導入を進めた」(水沢氏)

スキルを持たなかった職員が2カ月間でアプリ開発

 旭川市のDXチームは操作を分かりやすくするために、チーム単位のコミュニケーションに利用するkintoneの「スペース」画面のデザインを工夫した。

図2 旭川市の kintoneスペース画面(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料) 図2 旭川市の kintoneスペース画面(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料)

 「ユーザーがやりたいことに直感的にアクセスできるようにした。迷ったときはホテルのフロントデスクをイメージした『フロント』ボタンを押して問い合わせられるようにした」(水沢氏)

 旭川市で現在プレ運用中なのが「就学相談アプリ」だ。

図3 就学相談アプリの概要(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料) 図3 就学相談アプリの概要(出典:「Cybozu Media Meetup vol.11」投影資料)

 特別支援学級に子どもを通わせるべきかどうか悩む親と、相談員や教育委員会、学校を連携させることで、複雑な調整や紙ベースの連絡のほとんどを排除した。支援が必要かどうかに関する相談結果の伝達をはじめ、面談の申し込みや日程の調整などがオンライン処理されることで業務を簡素化した。

 旭川市は、同アプリの本運用開始後は業務時間が4割削減されると見込んでいる。なお、このアプリは、kintoneのスキルや知識がなかった1人の職員が業務の合間を縫って2カ月間で開発したという。「今もアップデートを繰り返しながら本運用の準備を進めている」と水沢氏は語る。

 旭川市ではその他にも、COVID-19対策として開発された「外国人向け健康観察アプリ」(多言語対応)や「医療費、公費負担申請アプリ」「ホテル療養希望アプリ」が既に本運用を開始した。市営墓地の管理アプリは、20年間利用してきたデータベース管理システム「Microsoft Access」からの置き換えを目指して開発中だ。「難病履歴管理アプリ」「公用車管理アプリ」も作成中だ。

ノーコードツールは「DX人材育成に役立っている」

キャリアシフトの森本氏 キャリアシフトの森本氏

 kintoneをはじめとしたノーコードツールの導入を主導したのは、キャリアシフトの森本 登志男氏(代表取締役)だ。森本氏は旭川市のデジタル都市宣言と同時にCDO(最高デジタル責任者)として同市に招聘(しょうへい)された。同氏は「kintone導入によって、市役所の組織には3つの効果がもたらされた」と、以下のように紹介した。

  1. 業務の変化に合わせてスピーディーなバージョンアップができるようになった
  2. 小さな成功体験を重ねて自信を付けた
  3. DX人材の発掘と成長

 森本氏は2については「自分自身で業務を改革する意識が芽生え、若手の自立とモチベーション向上につながった」、3については「DXは研修やスキルの習得で実現するものではない。業務を分析し、デジタルをどう使うかを考えられる人材が求められている。ノーコードツールはDX人材が育つために役立っていると評価している」と付け加えた。

 旭川市では、DXの進捗(しんちょく)を業務分野ごとに把握している。業務フローの確認や課題の分析を経てアプリ化される案件が続々と生まれているという。

 森本氏は「全国の中核市の中で、旭川市はDXにおいて後塵(こうじん)を拝している。しかし、2022年4月から開始した取り組みで、市役所の組織風土がDXに向けて変わり始めた。若い職員を中心に改革を進めていけば、ごぼう抜きも夢ではない」と語り、DX日本一に向けた決意を示した。

後編“紙まみれ”“残業盛りだくさん”だった下妻市が得た「予想外の効果」では、映画の舞台として有名な下妻市が、いかに紙ベースの旧態依然な業務の進め方から抜け出したかを紹介する。

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