DX先進国の米国にも存在する「抵抗勢力」 彼らをやる気にさせる“魔法の言葉”とは「2023年自動化のトレンド」をUiPathに聞いてみた(2/2 ページ)

» 2023年03月14日 09時00分 公開
[田中広美ITmedia]
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従業員を「やる気」にさせる魔法の言葉

――ここまで日本企業の状況を見てきましたが、貴社は世界中でサービスを展開されていますね。日本よりもDXが進んでいる国の企業でテクノロジーによる自動化はどのように進められているのでしょうか。

鷹取 おそらく日本ではここ数年、「米国はDXやテクノロジーを用いた自動化が進んでいる国」と認識されてきたと思いますが、実はDXに協力的な従業員ばかりではないんです。日本と一緒で「抵抗勢力」はたくさんいる(笑)。人間の本質はそんなに変わらないようですね。

――それは意外です。この記事の読者は社内で「DXをどんどん進めましょう」「自動化のツールをどんどん活用しましょう」と呼び掛ける立場にいる人も想定しているのですが、「抵抗勢力」をやる気にさせるために米国企業はどのような施策をとっているのでしょうか。

鷹取 「これをやって何が得なのか」という認知体験をさせることです。そのために、IT部門自身が自動化などのツールを自分で触ってみて、「どのように得するのか」を体感する必要があると思います。そうすることで「このテクノロジーを使いこなすことができるようになれば、金曜午後に休みを取れるよ」と、具体的に伝えることができます。メリットが理解できれば、変化を受け入れやすくなりますよね。

――「金曜午後が休みになる」は皆に“刺さる”魔法の言葉ですね。

鷹取 もう一つが全体のサポートをする仕組みを整えていることです。

 事業部門が「じゃあ、やってみましょう。まず何からやればいいですか」となったときに、プログラミングの知識がない従業員向けのマニュアルや解説動画がきちんと用意されている。サポートする仕組みを整えている企業が多いですね。

――そうやって米国企業はDXを進めてきたのですね。

UiPathのトマ氏 UiPathのトマ氏

トマ ただし、米国企業も日本企業と共通する課題を抱えています。IT部門が現場の業務を知らないことが多いというのもその一つです。

 本来的には、IT部門が自社のビジネスを理解して、それに効果的に寄与するシステムを作る必要があります。営業部門や販売部門の全ての業務内容を完璧に把握することは難しくても、ある程度は知っておくべきですが、それがなかなか難しいのです。

 スーパーマーケットを運営しているある企業ではIT部門の担当者は店舗業務にほとんど携わったことがありませんでした。だから、商品の陳列担当者や掃除担当者、発注担当者が何を必要としているのか、どのようなシステムを使いどう操作しているかを全く把握していなかったんです。

 そうすると何が起きるか。店舗のスタッフからしてみると、全く価値の分からないソリューションが新しく導入されるわけです。自分たちにとってメリットがなさそうだし、「使いたくない」という反応になってしまいます。

――「古いシステムでそれなりにやってきたのに、新しいシステムを覚えるという余計な仕事を増やしやがって」という恨み節が聞こえてきそうです(笑)。

トマ 他にも、「自動化したら自分の仕事がなくなるのではないか」という心配も現場には根強いようですね。

 こうした事態を防ぐためにも、現場の業務内容をきちんと理解して、課題を解決するソリューションを導入し、現場で働く従業員にそれを活用するメリットを丁寧に説明することは重要なのです。

 そうしたことに取り組むことで「自動化したら自分の仕事がなくなるのではないか」という心配を、「自動化したら残業がなくなって早く帰れる」「私もDXに参加したい」という意識に変えることができます。

――IT部門と現場部門との隔たりはなかなか根深い問題のようですが、何か解決法はあるのでしょうか。

トマ 1日だけでいいので、スーパーマーケットであればスーパーマーケットの店頭の仕事を体験し、現場で働く人にインタビューして業務内容を教えてもらう、あるいは現場経験のある人を集めて皆で意見を出し合ってみることが効果的だと思います。

鷹取 システムと連携する業務などがある場合には、今はプロセスマイニングというツールが出ているので、そうしたツールによって可視化することも重要です。「どの業務に時間がかかっているか」「何が要因で待機時間が生まれているか」を数字で理解できるようになります。

 そうして業務内容や課題を把握することで、IT部門がどのように現場を支援すればよいかが分かります。

 その後は仮説を立てて、業務プロセス自体を変更したり、自動化に必要なテクノロジーを実際に導入し、その後はまたプロセスマイニングで可視化して改善点が見つかれば改善していく。

トマ 現場で働く従業員が新しいツールに戸惑うという点は、企業全体の自動化が進むことで、ある程度解消できると思います。

 RPAを単体で活用するという初期の段階から、それだけでは物足りないのでAPIで連携して業務全体をオートメーションするという段階に進みます。そうなると、ユーザーが操作する画面の“裏”で自動化ツールが動くので、現場のユーザーはむしろ自動化を意識することなく、作業の負担が軽減されたと感じるはずです。

――自動化が進めば進むほど、「会社がDXを進めているせいで新しく覚えることが多くて面倒だ」ではなく、むしろ「いつの間にか作業の手間が減ってラクになったな」と感じるようになるわけですね。

鷹取 ここまで業務単体での自動化、業務全体の自動化、企業全体の自動化についてお話ししましたが、それらを全て包括するのがUiPathが提供する自動化プラットフォーム「UiPath Business Automation Platform」です、ということを最後にお伝えしたいと思います。

 近年、世界に比べて日本におけるDXの遅れが指摘されることが多い。今回のインタビューを通じて、DX先進国と認識されている米国企業でも日本企業と同じような課題を抱えていることが分かった。

 どの国でも新しいツールの導入に積極的な従業員ばかりではないというのは変わらないようだ。「これを習得することでメリットがある」と呼び掛けることで、新しいツールの導入時に少なからず発生する「面倒なものを押し付けられた感」を納得感に変換することが可能だという提案は、どの国でも受け入れられるのではないか。メリットを具体的に示すことで「むしろ積極的に習得したい」と思わせるというのも個人的には有効であるように感じた。

 自動化が単一業務を対象としたRPAやAIの導入による「点」から、それらを組み合わせて連携する自動化プラットフォームによって「面」となりつつある今、業務の進め方はどう変わっていくのか。今後も注目していきたい。

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