中だるみを感じる水曜日を乗り越えようとしている皆さまに向けて、今週もデータ活用のための思考術をお届けします。「顧客ニーズ」を探るのによく選ばれる“あの方法”について、筆者は「使えるデータは得られない」と言います。顧客ニーズを正確に把握するために筆者が勧める“手っ取り早い手法”とは。
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今やデータ分析はある特定の専門職だけでなく一般のビジネスパーソンに求められるスキルの一つとなりつつあります。
「そうは言っても、何から手を付ければ良いか分からない」「意気込んでデータ活用の本を買ってみたものの、“積読”(つんどく)になっている」という方に向けて、“やる気をスキルに変えるための思考術”をお届けします。
「思考なんて回りくどいものではなく、データ活用を実践するためのツールを教えてほしいんだ」とおっしゃる方にこそお薦めしたい連載です。目まぐるしく新製品が登場したりアップデートが繰り返されるツールを上手に活用するためにも、一度身に付ければなかなか錆びることのない思考方法に接することで、スキルとともにご自身の仕事の進め方をアップデートするすべが見つかるかもしれません。
ITmedia エンタープライズの読者の皆さん、こんにちは。
今回は、新たな事業や製品開発に関わる話をしようと思います。
最近、大手企業で「企業内起業」をテーマにお話ししました。現在のような変革期においては、どのような立場の方も関心を持つテーマではないかと思います。特に新たなサービスや事業の立ち上げ、あるいはその推進に関わっている読者の参考になるのではないでしょうか。
筆者自身、新規事業の立ち上げや新サービスのリリースに携わってきました。そうした経験から、最も重要なのは「顧客ニーズの理解」だと考えています。顧客ニーズを深く理解し、その解決策が提示できていなければ、バリューは提供できませんので。
では、どのようにしたら顧客ニーズが理解できるでしょうか。
「ターゲットとする顧客の行動を観察する」「ダイレクトに顧客からニーズを聞き出す」という方法もありますが、もっと手っ取り早い方法として「PMF」(Product Market Fit)があります。
スタートアップや小さなベンチャー企業では、事業開発のために大きな投資はできません。そのため何をするかというと、可能な限りコストや時間をかけずに「試作品」ともいえるプロダクトやサービスを立ち上げます。スタートアップ業界では、これを「MVP」(Minimum Viable Product)と呼んでいます。これは優れた人を指すMVP(Most Valuable Player)ではなく、「最小限の機能を持った製品」のことです。
MVPは、製品のアイデアが市場に受け入れられるかどうかを確認するために制作されます。そして、顧客がMVPのどの機能に価値を見いだすかを調査することで、その後より効果的な投資が可能になります。このように、プロダクトを顧客のニーズ(市場)に合わせるプロセスであるPMFは、事業構築の初期段階で最も重要だと筆者は考えます。
MVPを使ったPMFの流れは次の通りです。
特に5のサイクルを速く回すことが大切です。フィードバックにおける改善スピードが速ければ、顧客はさらなる期待を持てます。プロダクトへのエンゲージメントが高まり、本格投入した際には顧客がエバンジェリストになるという展開もあり得るでしょう。
こうしたPMFで事業がうまく成長できた例を3つ紹介します。
初期版 現在の主要機能はすべて搭載された多機能なUI
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改善点 顧客からのフィードバックを基にシンプルな機能に絞り込み
結果:ストレージにファイルをドラッグアンドドロップできるというシンプルなインタフェースに絞り込むことに成功し、急成長
初期版はチャネルやDMが混在するして混沌としたUI
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顧客からのフィードバックを基に、リアルタイムメッセージングに絞り込み
結果:機能別に分離させ、シンプルなリアルタイムメッセージルールになり、ビジネスにおける主力のコミュニケーションシステムとして確立
スタート時は、あらゆる宿泊施設を提供
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実ユーザーからの意見を基に、個人が所有する家や部屋のレンタルに絞り込み
結果:バケーションレンタルという新たな価値を生み出すことに成功。現在は、体験型をさらに追加して成長中
もちろん、PMFはやみくもに改善すればよいというものではありません。「多くの顧客が価値を感じるポイントは何か」「改善にかかるリソースに対して、改善によって生まれる満足度は十分か」などを見ながら取捨選択する必要があります。
さて、今回のお題目は「データドリブンな事業開発」でした。PMFの際に注意すべきデータにはどのようなものがあるでしょうか。
一つは顧客満足度をアンケート調査して得られるデータです。この方法では、顧客ターゲットがずれていると非常に低い値が出てしまいます。これは顧客ロイヤルティーを測るための指標であるNPS(Net Promoter Score)も同様です。
事業開発リーダー自身が顧客と向き合ってフィードバックをもらうことは絶対に必要です。ただし、アンケートのような定量的な調査は設計次第でブレが大きくなるため、「使えるデータ」が得られるとは筆者には思えません。
では、筆者が考える、実態に合っているデータを得るためには何をすべきか。顧客が製品やサービスを継続利用しようとするかどうかという行動を数字で見ることだと思います。
SaaS(Software as a Service)であれば継続率や解約率、商品購入であればリピートオーダー数などがこれに当たります。「売り上げの基盤となるロイヤルティーの高いユーザーがどの程度確保できるか」を把握することが最も大事です。
初期段階では、利用にかかるコストのハードルを可能な限り下げて、顧客の継続利用意欲を測ることが、ロイヤルティーの高いユーザー数を正確に把握するための手法となるでしょう。ソフトウェアビジネスでよくある、基本的なサービスを無料で提供して、高度なサービスを課金対象とするフリーミアムモデルなどにも同様の狙いがあると筆者は考えています。
初期段階には無料で幅広い層に利用してもらい、機能追加版や大容量版、法人限定版などに課金する手法もあります。これらも、「無料版でPMFを実施しつつ、課金分はロイヤルティーの高いユーザーでまかなう」のが狙いです。幅広いユーザーに利用してもらうのは、有料版を開発、運用するために必要なロイヤルティーの高いユーザーを確保するために必要な母数を得るためだけではありません。データドリブンな事業開発になくてはならない、顧客の商品やサービスに対する評価を実数で把握するために欠かせない貴重なプロセスだと筆者は考えています。
1. 顧客ニーズを理解するために最も手っ取り早い方法は「PMF」(Product Market Fit)
2.PMFを 6つのステップ(目標顧客の明確化、顧客ニーズの抽出、競合分析、MVP作成、製品やサービスの改善、マーケティング戦略の策定)で実施する
3.「売り上げの基盤となるロイヤルティーの高いユーザーがどの程度確保できるか」を継続率や解約率、リピートオーダー数などから把握する
知的生産研究家、起業家、上場企業の経営者。現在、DX支援クラウドを提供する株式会社ショーケース(東証3909)とリユースモバイル事業を運営する日本テレホン株式会社(東証9425)、2社の上場企業の経営者。
企業経営と並行し、新規ビジネス開発、働く人の生産性向上をライフワークとした執筆、講演活動などを行う。
自著に『知的生産力が劇的に高まる最強フレームワーク100』(ソフトバンククリエイティブ刊)、『頭がよくなる「図解思考」の技術』(中経出版刊)、『会社では教えてもらえない仕事がデキる人の資料作成のキホン』(すばる舎刊)がある。
著書一覧:https://www.amazon.co.jp/s?k=%E6%B0%B8%E7%94%B0%E8%B1%8A%E5%BF%97
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