社会インフラ特化型アプリをSaaSで提供 「経営全体の最適化」をどう実現する?

AI(人工知能)技術が進展する今、計画立案業務も自動化の対象となっている。電力などの社会インフラ領域における計画立案はその複雑性から熟練の従業員以外には難しいとされてきたが、グリッドが独自開発したAI支援サービスによって誰もが計画立案できる世界が訪れるかもしれない。同社が考える「経営全体の最適化」とは。

» 2023年03月22日 13時40分 公開
[田中広美ITmedia]

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 AI(人工知能)技術が進展する今、これまで人間しかできないと考えられてきたさまざまな業務がAIによって代替されるようになってきた。

社会インフラ特化型アプリをSaaSで提供する理由は?

 計画立案業務もその一つだ。特に電力やサプライチェーンにおける計画立案はその複雑性から熟練の従業員以外には難しいとされる属人性が高い業務だった。グリッドは、電力や海運の適切な運用に欠かせない計画立案(プランニング)の自動化、最適化に関するAI支援サービスを提供してきた。

 そのグリッドが2023年3月13日に開発完了を発表したのが、社会インフラ特化型SaaS(Software as a Service)「ReNom Apps For industry SaaS」だ。これまで同社が提供してきた「ReNom Apps」をSaaS(Software as a Service)で提供することでシステム導入を迅速に実施するとしている。

ReNom Apps For industry SaaS(出典:グリッドのプレスリリース) ReNom Apps For industry SaaS(出典:グリッドのプレスリリース)

なぜ熟練者でなければ難しい? 社会インフラ事業における計画立案の複雑性

グリッドの曽我部社長 グリッドの曽我部社長

 グリッドの曽我部 完社長は社会インフラ事業における計画立案業務の難しさをこう話す。「複雑な制約が多数ある。膨大な組み合わせの中から限られた時間、限られたリソースの中で複雑な計画を立案しなければならない」

 同社が提供する「ReNom POWER」は電力需給計画を、「ReNom VESSL」は海運における配線計画を自動化、最適化するソリューションだ。

 電力需給計画であれば、時々刻々と変化する需要に合わせてどの発電所をどのぐらいの出力で運転させるかを、天気予報をにらみつつ、発電所の点検などによる休止状況や太陽光発電システムによる発電量などを考慮しながら立案しなければならない。需要家に電気を滞りなく供給する「安定供給」を実現するためには、需要量と発電量が常に一致する「同時同量」が保たれなければならないからだ。

 電力需給計画立案が電力会社における重要業務の一つであることは、四国電力がグリッドの「ReNom Power」を導入した際に公開したこちらの記事(四国電力が電力需給計画にAIを活用 「予測はそもそも外れるもの」という考え方に基づく計画立案とは?)でも、その複雑性や自動化の意義とともに触れた。

 曽我部氏は「これまで社会インフラにおける計画立案業務では、熟練者が長時間かけてシナリオを作成してきた。当社が提供するReNom POWERを利用すれば、熟練者以外でも短時間で複数のシナリオを作成できる」と語る。

 同氏が「複数のシナリオ」を強調するのは「予測精度がどれだけ高まっても、シナリオを100%的中させることは困難」だからだ。「外れるのが当たり前」という前提に立った立案が重要だと同社は考えている。また、人手による計画立案では限られた時間内に精度の高いシナリオを多数立案するのは困難だ。これも立案業務を自動化する意義の一つといえるだろう。

 さらに複数のシナリオを作成することで、状況の変化に合わせて最良のシナリオを選択することや、「利益最大化」「CO2排出削減量を重視」などさまざまなパターンに合わせたシナリオを選択することも可能になる。

 「これまでは利益最大化を追求する考え方が強かったが、SDGs(持続可能な開発目標)に配慮してCO2排出量を削減することもKPI(重要業績評価指標)の一つとされるようになってきた」(曽我部氏)

 今回SaaSで提供することで、コロナ禍を受けたテレワーク移行にも対応する。「社会インフラ事業者にはオンプレミスを中心とするレガシーシステムを利用している企業も多い。テレワーク中に社外からも利用できるSaaSで提供することでわざわざ出社せずとも計画立案業務を遂行できるようにした」(曽我部氏)

「経営計画はExcelでゴリゴリ作っている」企業が「ReNom VALUATION」のターゲット

 今回、グリッドがSaaSでの提供を発表したアプリには「ReNom VALUATION」というサプライチェーンに携わる企業の中期経営計画や予算策定を支援するアプリが含まれている。なぜ、電力需給計画(ReNom POWER)や配船計画(ReNom VESSEL)といった社会インフラに特化したソリューションを手掛けてきたグリッドが、経営戦略の最適化ソリューションを提供するのだろうか。

 「現場レベルでのDX(デジタルトランスフォーメーション)は、経営全体からみると小規模な改善活動にとどまる。当社は現場レベルではなく経営レベルのDXに取り組むことでお客さま企業の価値を最大化できると考えた」(曽我部氏)

 グリッドはReNom VALUATIONのターゲットを大企業としている。大企業は中堅・中小企業に比べてDXに取り組む企業の割合が比較的大きいが、「DXを進める中でも『経営計画はExcelに数字を入力してゴリゴリ作っている』という会社も多い」と曽我部氏は分析する。

 ReNom VALUATIONは、企業価値を最大化させる前提シナリオをAIによって複数策定する。「各シナリオの財務KPI結果を瞬時に確認し、さまざまな指標から分析できる。同業他社との比較も可能だ」(曽我部氏)

ReNom VALUATIONが作成する複数のシナリオのイメージ(出典:グリッドの提供資料) ReNom VALUATIONが作成する複数のシナリオのイメージ(出典:グリッドの提供資料)

 ReNom VALUATIONはReNom POWERやReNom VESSELに比べると汎用性の高いアルゴリズムを利用しており、潜在的な導入対象企業の数も多いため、後者に比べて安価での提供を予定しているという。

 「ReNom Apps for Industry SaaS」は2023年3月から販売を開始し、3年間で100社の販売が目標だ。グリッドは今後、陸上輸送をはじめとする対象分野の追加も視野に入れている。

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