「空気でなくモノを運ぶ」ためにITは何ができる? 業界・業種を超えた物流データ基盤構築への道【特集】物流Techのいま(2/2 ページ)

» 2023年03月31日 15時00分 公開
[田中広美ITmedia]
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SIP 物流・商流データ基盤はどう活用される?

 こうして開発されたSIP 物流・商流データ基盤は具体的にどのように活用されるのだろうか。国土交通省の鶴田浩久氏(公共交通・物流政策審議官)によると、次の2つの活用方法が想定されているようだ(「SIPスマート物流サービス 最終成果報告書」)。

  1. サービスプロバイダーとして物流・商流データ基盤を活用したサービスを新たに創設する。セイノー情報サービスや流通経済研究所、帝人などが先行して実施
  2. ユーザーとして1のサービスを利用する

 国土交通省によると、日本の物流業界の99.9%は中小企業が占めている(国土交通省「物流を取り巻く動向について」)。おそらく多数の企業は2を選択することになるだろう。

 なお、SIPスマート物流サービスのプロジェクトは2023年3月で終了し、事業化、社会実装のフェーズに入る。国土交通省の鶴田氏によると、同年4月以降は「開発された各業種別モデルやデータ自動収集技術はそれぞれの社会実装責任者が引き続き推進する」「成果全体の普及拡大とガイドラインの維持管理は、『フィジカルインターネットセンター』(代表理事 荒木 勉氏)が実施する予定」だという。

要素技術以外のスマート物流サービスプロジェクト

 なお、SIPスマート物流サービスのプロジェクトでは要素技術開発以外にもさまざまな取り組みが実施された。以下に物流・商流データ基盤と自動データ収集技術の研究開発に分けて簡単に紹介する(かっこ内は担当した企業や組織を示す)。

物流・商流データ基盤に関する技術

  • データ標準化(物流情報標準ガイドライン)(野村総合研究所):物流・商流データ基盤を共通のプラットフォームとして活用できるよう、基盤でやりとりするデータの標準形式を規定する「物流情報標準ガイドライン」を策定。納品伝票や物流情報の電子データ形式が統一され、サプライチェーン全体での全体最適実現を図る
  • リテール(日用消費財・コンビニ)データ基盤(流通経済研究所):「物流オペレーションデータ連携システム」「共同輸配送支援システム」「コンビニ共同配送システム」を開発。納品伝票の電子化や着車バース予約システムによる効率化の実証、荷主マッチングシステムの有効性の検証などを実施した
  • 地域物流データ基盤(セイノー情報サービス):サプライチェーンを構成する企業間のPSI(生産・販売・在庫計画)連携を支援する商流需給OPF(オープンプラットフォーム)と、協働輸配送を支援する物流需給OPFを構築した
  • 医療機器データ基盤(日本電気、米国医療機器・IVD工業会、日本通運):医療機器に望まれるトレーサビリティーを実現するために医療機器物流システムを開発した。医療機器メーカーからディーラーに対して「製品・出荷情報」を物流データ交換システムを通じて提供し、自社に必要な情報を活用する。RFID技術を活用することで製品情報の収集、確認だけでなく検品をはじめとする物流作業効率の向上を図る
  • 医療材料データ基盤(帝人):複数の医療機関が共同で医療材料を保管する共同院外倉庫による配送合理化に取り組んだ。共同院外倉庫からは受注情報や出荷情報、マスタ情報を、医療機関からは入荷予定情報や消費情報、発注情報、マスタ情報をやりとりする仕組みを構築した。医療機関や共同院外倉庫からのデータは要素基礎技術の「個別管理データ抽出・変換技術」を、物流・商流データ基盤とのやりとりは要素基礎技術の「他プラットフォーム連携技術」を利用した。
  • アパレルデータ基盤(日本アパレル・ファッション産業協会《JAFIC》):複数企業の貨物集約化により混載を実現し、工場出荷時点で店別納入状態にすることで中継地点での開梱を不要にし、国内倉庫を保管型からTC型(中継型)にすることで店別配分作業の削減を目指した。これらの目標を実現のために必要な物流情報のデータ連携を図るアパレル情報共有システム(FALCO)を開発した
  • 横断的ビッグデータ利活用技術(Ridgelinez、ascend、アイディオット、Matrix Flow、東京大学):分析共通プラットフォームとサンドボックスプラットフォームを構築。ビッグデータ解析モデルの検証や、物流・商流データ基盤の中でさまざまなビッグデータがつながる可能性を検証した。

 物流・商流データ基盤の実用化によって常時収集されるデータに、多領域のさまざまなオープンデータを加えたビッグデータを解析することによってオンデマンド、トレーサビリティ、シェアリングなどの分野で新たなサービスが創出され、新たなテクノロジの実装などイノベーション創出効果を期待する。

自動データ収集技術の研究開発

  • スマート物流を支援するスマホAIアプリケーション基盤技術(Automagi):市販のスマートフォンで荷物情報を取得し、積載効率の上昇やドライバーの生産性向上につなげる。単眼(2D)カメラの映像から自動でサイズを計測すること、多くのスマートフォンに組み入れられているLiDARセンサーを活用したサイズ計測機能を開発することに新規性がある。Googleが開発した拡張現実アプリケーションを使用するARcore版もある。
  • 荷物データを自動収集できる自動荷下ろし技術の開発(佐川急便、Kyoto Robotics、フューチャーアーキテクト、早稲田大学)

「総論賛成、各論反対」を繰り返さないためにすべきこと

 今後は、スマート物流サービスを通じて構築された物流・商流データ基盤や自動データ収集技術が社会実装され、物流の全体最適化を目指すことになるだろう。

 一方で、物流に関わる企業が取り組まなければならない足元の課題も存在している。坂本氏は、「今までもデータ標準化についての必要性は散々議論してきて、『総論賛成、各論反対』を繰り返してきました。同じことを繰り返さないためにも、まずは今回SIPで公開された『物流情報標準ガイドライン』への理解推進と、可能な範囲からでもデータ標準化への具体的な取り組みをスタートすることが重要。手書き伝票を使うなど、データをデジタル化していない企業もまだ多く存在しています」と述べ、他社・他業界と協力して人手やトラックなどの有限のリソースを有効活用するために、現在デジタル化していない企業も含めてデータ標準化を実現する必要性を強調した。

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