「お役所DX」「お墨付きDX」に背を向けよう お役所の意向を汲んだ“革新”って何?「不真面目」DXのすすめ

DXに取り組む企業は年々増えており、特に大企業は軒並み「DX推進企業」に仲間入りしている状況です。しかし、多くの企業が「DXガイドライン」「DX推進指標」など中央省庁が定める指針に従ってDXを推進しようとしている状況に、筆者は「何か変」と疑問を抱きます。

» 2023年04月07日 09時00分 公開
[甲元宏明株式会社アイ・ティ・アール]

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この連載について

 この連載では、ITRの甲元宏明氏(プリンシパル・アナリスト)が企業経営者やITリーダー、IT部門の皆さんに向けて「不真面目」DXをお勧めします。

 「不真面目なんてけしからん」と、「戻る」ボタンを押さないでください。

 これまでの思考を疑い、必要であればひっくり返したり、これまでの実績や定説よりも時には直感を信じて新しいテクノロジーを導入したり――。独自性のある新しいサービスやイノベーションを生み出してきたのは、日本社会では推奨されてこなかったこうした「不真面目さ」ではないでしょうか。

 変革(トランスフォーメーション)に日々真面目に取り組む皆さんも、このコラムを読む時間は「不真面目」にDXをとらえなおしてみませんか。今よりさらに柔軟な思考にトランスフォーメーションするための一つの助けになるかもしれません。

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 いまや、ほとんどの日本の大企業がDXを推進しています。筆者が所属するアイ・ティ・アールの最新調査では年間売上高300億円以上の国内企業の92%がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでおり、DXに取り組む予定がない企業はわずか1%にすぎません(注1)。

「誰でもDX」って、何か変……

 まさに「誰でもDX」の時代となっています。

 しかし、日本でDXが話題になって久しく、大多数の大企業がDXを推進しているにもかかわらず、日経平均株価は1989年の最高値をいまだに超すことはなく、世界で活躍する日本企業も少ない状況が続いています。何か変だと思いませんか。DXと言っても、昔の「IT」や「OA」(オフィス・オートメーション)と変わらないコンピュータによる作業効率化の取り組みが多くを占めています。筆者が考えるDXの定義である「デジタルテクノロジーを駆使してこれまでなかった新しいビジネスや業務を創ること」とはかけはなれている試みが国内企業に溢(あふ)れかえっています。いま一度、DXの真の価値を振り返る必要があるのではないでしょうか。

「お役所主導のDX」って、何か変……

 DXがはやるきっかけの一つは経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート 〜ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開〜」であることは間違いありません。日本の多くのお役所(中央省庁)はDXに積極的な姿勢を持っており、「DXレポート」の他にも「DXガイドライン」「DX認定制度」「DX銘柄」「DX推進指標」など、多方面にわたってDX推進活動を実施しています。

 しかし、DXと役所の相性は非常に悪いのではないでしょうか。お役所関係のITシステムに満足している人がどれだけいるでしょうか。利用者の使い勝手を考慮していないUI(ユーザーインタフェース)を持つITシステムや相互連携に欠けたITシステム群の現状を見れば、お役所が旗を振るDXにどれだけ説得力があるのかは疑問です。

 そもそも革新的な企業活動であるべき「DX」と、お役所が定めた「ガイドライン」「認定」「銘柄」「指標」という組み合わせに違和感を覚えない方が不思議といえます。

「誰かのお墨付きが必要なDX」って、何か変……

 筆者はご多分に漏れず大河ドラマや朝ドラを楽しんでいます。昔の人々を取り上げたこれらのドラマの主人公には、政府や幕府などの権威に逆らって新しい時代を切り開いてきた偉人が多く、彼ら彼女らが創った道をいまわれわれが歩いていることに気付かされます。現代に比べて、コミュニケーションや移動手段に制約が多く、テクノロジーも未発達な時代に偉業を成し遂げた人たちを心から尊敬します。

 コミュニケーションや移動手段もテクノロジーも格段の進歩を遂げた現代において、お役所の意向を気にしすぎる企業や人々が多くいるのは悲しいことです。お役所や外部の権威といった自社以外の組織や人がお墨付きを与えるDXは「革新」や「創成」というDX本来の思想からかけはなれているように感じるのは筆者だけでしょうか。

 もちろん、日本には「DX」などという看板を掲げず、お役所の意向など気にせず、先進的デジタルテクノロジーを駆使して自らが発想したユニークなアイデアに基づき、革新的なビジネスを創成している企業も多く存在します。しかしそのほとんどはスタートアップです。筆者は、日本経済をけん引すべき大企業にこそ、お役所の意向など気にせず、自由奔放な発想と破天荒な行動で革新的なビジネスを創生するDXを進めていただきたいのです。

お役所の意向を気にしない、自由奔放なDXを目指そう

 そもそも、お役所の意向に従ったり、権威のお墨付きをもらったりするDXは「楽しくない」と思うのです。世界を大きく変えたといわれるGAFA(Google 、Apple、Facebook 《現・META》、Amazon)が国や州のガイドラインに従ったり権威者のお墨付きをもらったりしているでしょうか。むしろそれらに反発して、時には国や州と戦っていまの地位を築いてきたといえます。

 「誰でもDX」になった現在、「DX」という看板の価値はなくなったといってよいでしょう。経営戦略や企業理念にDXの文字を入れても、誰も感動しない時代になっています。むしろDXという文字が溢れる企業ほど、凡庸というイメージを持たれる時代になったといえます。

 「DXなんて知ったことか」「お役所のガイドラインなんて無視無視」「自分が思い付いた新しいアイデアをデジタルテクノロジーで実現したい」「先進的なデジタルテクノロジーでこれまでの業務を根底から変革するぞ」という気概のある人や企業がどんどん登場してほしいと筆者は心から願っています。

(注1)出典:ITR「クラウドに関する調査」(2023年2月調査) 

筆者紹介:甲元 宏明(アイ・ティ・アール プリンシパル・アナリスト)

三菱マテリアルでモデリング/アジャイル開発によるサプライチェーン改革やCRM・eコマースなどのシステム開発、ネットワーク再構築、グループ全体のIT戦略立案を主導。欧州企業との合弁事業ではグローバルIT責任者として欧州や北米、アジアのITを統括し、IT戦略立案・ERP展開を実施。2007年より現職。クラウド・コンピューティング、ネットワーク、ITアーキテクチャ、アジャイル開発/DevOps、開発言語/フレームワーク、OSSなどを担当し、ソリューション選定、再構築、導入などのプロジェクトを手がける。ユーザー企業のITアーキテクチャ設計や、ITベンダーの事業戦略などのコンサルティングの実績も豊富。

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