限りある「人材」「お金」をどこに投入する? DX実践における中国企業の選択はアンケート調査結果に見る中国企業のDX推進トレンド(2/2 ページ)

» 2023年06月14日 08時00分 公開
[周 逸矢野経済研究所]
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中国企業はDX予算をどう確保している?

 では、DXの予算を確保するために、中国企業はどのような取り組みをしているのか。下記に一例を紹介する。

 広州汽車集団では、データ情報本部がグループ会社および各主要子会社(広汽研究院、広汽乗用車、広汽埃安の3社。3社合わせて「G3」と呼ぶ)のDX需要をまとめて総合的に企画したり予算を立てたりした後、DXサービス業者と年度計画を立てた上で契約を結ぶという、グループ全体で一括した購買活動を実施している。

 DX予算は、段階的に子会社に責任を負わせるよう工夫している。

図5 広州汽車集団におけるDX実装予算の立て方(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図5 広州汽車集団におけるDX実装予算の立て方(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 こうして広州汽車集団ではそれぞれ関連企業の売り上げ収入や経営原価、従業員人数、業種、デジタル推進度合いにフィットしたDX実装資金の投入体制を整えている。

 では、資金を投入後、やらなければならないことは何だろう。筆者は下記2つの努力が重要だと考える。

1.従業員向けDX研修

 トップレベルのDX人材を複数採用することが重要だ。ただし、従業員全体のDXへの意識を高める方が大切であることは、アンケートに回答した企業に共通する認識のようだ。そこで、2019〜2020年にDX関連の研修費用と研修期間がどのように変化したかをみてみよう。

図6 2019〜2020年のDX研修費用とDX研修期間の変化(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図6 2019〜2020年のDX研修費用とDX研修期間の変化(N=123)(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 図6によると、「0~50%増」した企業は「研修費用」では約67%、「研修期間」では約59%と最も高かった。「50%以上増」した企業も「研修費用」では約11%「研修期間」では約18%で3位に食い込んだ。つまり「従来よりも研修期間を延長して研修費用を増やす」という手法は広く採用されているといえる。

 では、研修内容は具体的にどのようなものなのか。下表で3例挙げる。

図7 有力企業のDX研修概況(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図7 有力企業のDX研修概況(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

2.製品・サービスの購買

一方、外部から調達する製品やサービスに関して、中国の有力企業は次のように投資している。

図8 2018〜2020年におけるDX実装投資の使い道(N=123)※複数回答(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図8 2018〜2020年におけるDX実装投資の使い道(N=123)※複数回答(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 投資する企業の割合が高い順にみると、「ソフトウェアの導入」(93.5%)、「ハードウェアの構築」(65.0%)、「専門性サービスの購入」(53.7%)がトップ3で、どれも半数以上の企業が実施している。特に目立つのが9割以上の企業が実施した「ソフトウェアの導入」だ。当たり前のようだが、「ソフトウェアの導入」「ハードウェアの構築」はDX実装に不可欠だ。

 では、どのようなDX技術が実際に活用されているのか。下表でみてみよう。

図9 活用されているDX技術(N=123)と成果を上げたDX技術(N=123)※複数回答(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図9 活用されているDX技術(N=123)と成果を上げたDX技術(N=123)※複数回答(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 「活用されているDX技術」「成果を上げたDX技術」ともに「ビッグデータ」が最も多く、クラウドコンピューティングとAI(人工知能)が続いた。クラウドコンピューティング技術の応用に積極的なのは中国企業の特徴の一つだ。以下、クラウドコンピューティング技術の応用事例を幾つか紹介する(図10)。

図10 中国企業で活用されているクラウドコンピューティング技術の事例(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》) 図10 中国企業で活用されているクラウドコンピューティング技術の事例(出典:「中国企業におけるデジタルトランスフォーメーション研究報告書」《2021》)

 なお、次回(最終回)は下記の3つの視点から「DX実践」の成果をまとめ、「アンケート調査結果に見る中国企業のDX推進トレンド」の連載を締めくくる。

  1. 売り上げに占めるDX実装由来収入の割合
  2. ビジネスモデル改善に対するDX推進の効果
  3. 清華大学グローバル産業研究院が見る「中国企業DX実装の10の方向性」の2020年・2021年比較

(注1)清華大学グローバル産業研究院は2018年から「中国DXパイオニア企業ランキング」と「中国企業におけるDX研究レポート」を年1回発表している。3回目の発表となる2021年版は、123社を対象として2021年9〜11月の間に実施されたアンケート調査および個別ヒアリングの結果をまとめたものだ。調査に回答した企業のプロフィールはこちらにまとめている。

筆者紹介:周 逸 (矢野経済研究所)

2005年矢野経済信息諮詢(上海)入社。約300分野の合計約400件の調査案件を幅広く経験し、中日両国企業のビジネスマッチングも担当。xEVや自動車サプライチェーン、IT全般、商業施設および不動産、電子機械、化学素材などの調査を実施。ニッチな調査ニーズへの対応を得意とする。日本語学習歴は30年。


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