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» 2023年12月06日 08時00分 公開

ANAシステムズは「システム運用の自動化」をいかに実現したか

レガシーシステムのモダナイゼーションを運用負担が軽減される形でいかに進めるか。航空システムという「絶対に間違いが許されない」領域の運用を「No-Ops」で自動化したANAシステムズの事例を見てみよう。

[指田昌夫ITmedia]

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 レガシーシステムのモダナイゼーションが進む中、運用管理の負担を軽減したいと考える企業は多い。新旧多数のシステムが混在してシステム管理が複雑化していたANAシステムズはこの課題を「運用の自動化」という手段で解決した。

本稿はServiceNow Japan主催イベント「ServiceNow World Forum: Tokyo」(2023年10月18日に東京で開催)のセッション「システム運用のDX化〜ServiceNowを運用基盤としたNo-Opsへの取り組み〜」の講演を基に編集部で再構成した。

新旧システムの混在で複雑化が進む運用管理

 ANAシステムズは、1980年代に設立した2社のシステム会社が2013年に統合して誕生した。1980〜90年代のメインフレーム時代から一貫して、ANAグループ全体のITを運用管理している。

 2000年代以降はオープン化時代に入り、さまざまなOSやアーキテクチャが混在する状態となった。ANAシステムズはその対策としてITサービス管理の標準フレームワーク「ITIL v2」(Information Technology Infrastructure Library version 2)を導入してシステム運用プロセスの標準化を進めた。以降はクラウド化の流れが進み、稼働しているシステムはさらに増えて複雑化している。

 まず、ANAシステムズの白土和彦氏(運用サービスマネジメント部部長)は、ANAグループのシステム運用全体を統括する立場からシステム運用の現状と課題を説明した。

 同氏は新旧多数のシステムが混在する同社のシステム運用の難しさを、次のように語る。「システム運用はメインフレームからオープンシステムを経て、クラウド中心の時代に移っている。問題は、新しいシステムの導入を進めても、古いシステムを一掃することは難しいことだ。そのためどうしても古くから残っているシステムに運用が引きずられる。その結果、人の手による対応が増えていた」

 ニーズがある部門に新しいシステムを導入した結果、各システムの“つなぎ”の部分にも人手が必要になっていた。一方で運用全体をつかさどるシステムの検討は後手に回ってしまっていた。

 「運用担当が個別対応していたため、個別システムの投資効果は説明できるが、システム全体にかかわる投資判断が難しい状況だった」(白土氏)

 システム運用が属人化されていたため、新しいシステムを入れるたびに担当者をアサインしなければならないことも問題だった。約250ある各システムに運用スタッフを用意しなければいけない悪循環に陥っていた。

 システム運用の現場では、従来のウオーターフォール型の開発スタイルと運用サイクルが踏襲され、運用担当者の仕事の進め方も、万が一に備えた保険的な考えや、前例を踏襲する古い文化にとらわれていた。

 ITILは単純に運用するだけでは多様化するシステムに対してプロセスが固定化される弊害を露呈した。「1つのルールに縛られて、身動きが取れなくなっていたところもあった」と白土氏は話す。

 こうした課題を抱えていたシステム運用の現場を、2020年以降に深刻化したコロナ禍が直撃する。運用部門は出社を前提とした勤務体制であったため感染者のクラスター発生が懸念され、運用業務に支障をきたしてしまった。

 人に依存した運用の継続が不可能な事態に陥った運用サービスマネジメント部は根本的かつ長期的な視点に立った運用の対策に着手した。

 運用対策の基本方針は「人を前提にした運用からの脱却」、つまり「No-Ops」の実現とした。「運用の効率化、自動化によって人手を解放し、その余力をANAグループとしてシステムが価値を生み出す領域にシフトすることを目標にした」(白土氏)

運用のブループリントで現状を把握

 No-Opsとは具体的にどのような取り組みなのか。

 入社以来、オープン系インフラの開発を担当し、ITSM(IT Service Management)ツールや監視ツールの導入などを主導し、今回のServiceNow導入プロジェクトでは主担当を務めたANAの西田哲也氏(運用サービスマネジメント部テクニカルマネージャ)は「プロジェクトの開始に当たってシステムの全体像と、サービスオペレーションで自動化が可能な範囲を把握することが必要だと考えた。その結果、No-Opsの『ブループリント』を作成した」と話す。

 サービスオペレーションの流れは、ユーザーのリクエストと障害発生時の対応に二分される。各プロセスにおいてさまざまな業務システム間を情報が伝わっていることがブループリントで可視化された。さらに深掘りし、「主にどれだけ人手をかけているか」を中心に各オペレーションの対応状況を確認して、個別にNo-Opsを実現する方策を書き出した。

 例えばユーザーからのリクエスト管理は、電話や電子メールによる対応が主体で、全体の25%を人が受け付けている状況だった。これをNo-Opsのアプローチによって、セルフサービスポータルを構築することで自動受付できるようにした。

 「基本的な方針として、人が受け付ける、人が監視する業務を極力自動化することを目指している。個々の管理業務を洗い出してどこを自動化できるのかを整理し、どんなソリューションが当てはめられるのかを一つずつ検討した」(西田氏)

 同社のシステムでは可視化やRPA(Robotic Process Automation)などのさまざまな自動化ツールが既に動いていた。多様なツールを連携させるためには、運用基盤となるITSMツールが必要だった。同社では、ここにServiceNowを採用した。

 同社はなぜ、No-Opsの基盤にServiceNowを選択したのか。西田氏は「ServiceNowは標準的なITSMの機能を持ち、しっかりとした作り込みがされているため、すぐに使える点が魅力的だった。多くのツールと連携できるインタフェースを備えていることもメリットだ。ITSMの基盤としてだけでなく、100以上のサービスから機能を追加することができる拡張性の高さにも期待している」

カスタマイズをしない「OOTB」がコンセプト

 ANAグループでは、2008年からITインフラの運用をDXCテクノロジー・ジャパンにアウトソーシングしている。今回のServiceNow導入に際しても同社の支援を受けている。

 DXCテクノロジー・ジャパンの栗本義一氏(ServiceNow プラクティス・コンサルティング ディレクター)は「長年の支援実績を背景にしたパートナーシップによって簡素化、近代化などの段階を踏んでオペレーション改革を進めてきた。その一環としてNo-Opsを位置付けている」と語る。

 DXCテクノロジー自身もServiceNowのユーザーだ。自社が顧客向けに提供しているサービス基盤「DXC Platform X」の中で、ワークフロー機能としてServiceNowを使用している。

 今回のANAシステムズのServiceNow導入プロジェクトに際して、両社が定めた基本方針は「カスタマイズをせず、ServiceNowの標準機能を極力使うこと」だった。「OOTB」(Out of the Box)と呼ばれる利用が可能だったのは、ServiceNowが標準で豊富な機能を備えているからだ。

 OOTBの徹底によって導入工数の削減と時間短縮を実現した。その結果、運用サービスマネジメント部の業務を導入準備や業務効率改善に振り分けることができたという。

 西田氏は「一般的にOOTBとは『設定について標準から外れない範囲で導入すること』をいうが、ServiceNowでOOTBを採用して分かったのは、設定だけでなく『使い方の標準』を理解した上で導入するのが重要だということだった」と語る。

 運用に必要な機能を見直して、無理にツールに実装しないことも心掛けた。「ServiceNowだけで全てを作ろうとせず、機能を整理して、場合によっては他ツールも組み合わせている」(西田氏)。ServiceNowの導入を契機に、従来の標準化ルールの一部を見直した。

 現在、同社のServiceNowを使ったNo-Opsは導入直前の段階にある。約800人に上る運用担当者への教育を実施している最中だ。

 導入時のNo-Ops対象業務はITSMのうちリクエスト管理、オペレーション管理、イベント管理の3つに絞っている。導入後、障害対応の自動化や変更リリースの管理などに管理対象を拡大する予定だ。「運用を1つのプラットフォームにまとめていくことで、スキルの標準化も進めていきたい」(西田氏)

 今後の展開についてはどうか。ServiceNowを運用管理の領域から開発(DevOps)、セキュリティ運用などでも利用したいと考えているという。「ServiceNowでワークフローを効率化できる範囲は非常に広い。プラットフォームの可能性を感じている」(白土氏)

 さらに白土氏は将来の期待として、ServiceNowを使った海外の航空アライアンス企業との連携に触れた。

 「ServiceNowが開催している年次イベント『Knowledge』の会場で、当社のアライアンス先の航空会社の方と出会い、お互いにServiceNowを使っていることを知った。チケットシステムの共有化など、サービスのシームレスな連携について盛り上がった。国内外のパートナーとServiceNowを介した連携が可能になれば、システムの世界観は大きく変わると思う」

 ServiceNowはシステム運用管理というバックオフィスの基盤としてだけでなく、フロントのサービスをシームレスにつなぐプラットフォームとしても使える。この拡張性の高さが、ANAグループのビジネスを“上昇気流”に乗せるかもしれない。

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