アサヒ飲料とNEC、AIによる需要予測の実証実験 「ベテランしかできない業務」を7割再現

NECは、AIによる新商品需要予測と予測精度マネジメントによる収益拡大に向けた戦略立案高度化の実証実験をアサヒ飲料と実施した。机上評価で年間3億円の損失削減を見込むなどの成果を確認できたという。

» 2023年12月25日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 NECは2023年12月20日、独自のAI(人工知能)技術を活用した実証実験をアサヒ飲料と実施したと発表した。予測精度マネジメントによる収益拡大に向けた戦略立案の高度化をもくろむ。

難しい「新商品の需要予測」 経験の少ない従業員が実施する方法は?

 近年、食品ロスは世界で年間約13億トン、国内では年間約612万トンに及ぶ。食品ロスの原因の一つは需要と供給のミスマッチだ。食品や飲料メーカーの在庫と生産の最適化や業務効率化の実現によって、過剰な生産や期限切れによる返品、売れ残りといった課題の解決が期待できる。

 現在、食品や飲料メーカーにおける商品の需要予測はデマンドプランナーの属人的な知見やノウハウに基づくことが多い。しかし、新商品の需要予測は誤差が生じやすく、欠品や過剰在庫の発生可能性が高くなる。需要予測結果における根拠の透明性や再現性の低さ、発売前にトレンドの変化や季節性を考慮した中長期的な需要予測を実施する難度の高さが課題になっている。

 NECとアサヒ飲料による今回の実証実験は、こうした課題の解決を目指した。

 実証実験では、NECの独自AI技術と需要予測のプロフェッショナル知見を組み合わせて、3段階の予測を試みた。アサヒ飲料の新商品発売前の時点で、需要予測のカギとなる「類似性判断」(ベンチマーク商品の選定)、「類似品との差異分析による需要予測」「需要予測オペレーション管理のための仕組み構想」を実施した。

実証実験の実施詳細 2段階目までしめした(出典:NECのプレスリリース)

 類似性判断(ベンチマーク商品の選定)では過去に発売された新商品とベンチマーク商品の組み合わせについて、商品マスタや過去実績、マーケティング施策情報などを使って分析した。その結果、類似度ランキングトップ10では、過去に人によって選択された商品の7割程度を再現すると同時に、デマンドプランナーが考慮しているもののデータ化できていない要素が明確になった。これにより、データ収集や整理の負荷なく、業務知見の少ないデマンドプランナーでも一定レベルの類似ベンチマーク商品の選択が可能になるという。

 類似品との差異分析による需要予測では過去発売品の実績やマーケティング施策、天候情報などを用いて、新商品ごとに需要の因果関係を推定し、AIが販売開始から一定期間の需要を予測した。その結果を現行オペレーションでの予測精度と比較したところ、条件を見極めることで同等の精度を実現した。

 商品別にみると発売5週間前時点で3〜4割、発売翌日時点では4割の商品でAI予測が現行オペレーションの予測精度を上回った。今後も分析と推測を継続することで、現行の同等以上の予測精度と、新商品需要予測業務のスピード向上や組織パフォーマンスの再現性向上が期待できる。需要の因果関係を可視化することで、さらなる需要創出に向けた戦略立案の高度化や各種ステークホルダーとのコミュニケーションの円滑化を促すとしている。

 需要予測オペレーション管理のための仕組み構想では、高度な需要予測の標準化に向けた管理指標の定義や業務プロセスの設計を実施した。具体的には、アサヒ飲料の現行の予測精度管理指標とNECの知見を融合し、未来の業務プロセスを整理し、ダッシュボードイメージを構築した。その上で出荷量や購買データなどを基に作成する需要変動アラートをシミュレーションし、アサヒ飲料のデマンドプランナーによる評価を実施した。需要変動をアジャイルに捉えるアラートの仕組みを設計することで、早期に市場の変化を捉えて需要予測を修正できる他、必要に応じて需要予測ロジックを見直すことで売上管理や在庫・生産管理、調達・物流計画などに反映できるようになる。

 今回の実証実験を通じ、NECはアサヒ飲料における需要変動の可能性の想定や早期の察知により、SCM(Supply Chain Management)やファイナンス部門における事前のリスクヘッジ策の検討と、営業やマーケティング部門における納得感のある因果関係情報を基にした需要拡大アクションの検討を実現し、売り上げと利益のさらなる拡大を支援するとしている。

 実証実験は2023年6月〜10月の5カ月間実施された。実証の結果、主に以下の成果を確認できた。

  1. これまで需要予測専門家であるデマンドプランナーの知見や暗黙知で実施していた新商品の需要予測を、類似性判断によって7割程度再現
  2. 判断材料やノウハウなど、属人的でデータ化できていない要素の可視化
  3. 売り上げ機会損失、棚卸資産、在庫保管費、物流費削減など机上評価で年間3億円の削減見込み

 NECでは、今回の実証を基に2023年12月からアサヒ飲料との連携を強化するとともに、これまで人手が担っていた業務をAIにより効率化する。さらなる需要の創出と収益拡大に向けた高付加価値業務に注力することで、商品の欠品や余剰在庫を防ぎ、消費者に安心して商品を届けられるプロセスの構築を目指すとしている。

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