生成AI「だけ」では業務は回らない 「OCI Generative AI」はエンタープライズのユースケース網羅をねらう

ミッションクリティカルなエンタープライズアプリケーションと生成AIエンジンの両方を持つことが強み――。Oracleがデータベースとアプリケーション、買収したAI Techを生かして事業をドライブさせようとしている。

» 2024年02月05日 08時00分 公開
[齋藤公二インサイト合同会社]

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 日本オラクルは2024年1月24日、パブリックとオンプレミスのクラウド環境で生成AI(Generative AI)を活用できる「OCI Generative AI」サービスの提供を開始した。Oracleが提供する「OCI」(Oracle Cloud Infrastructure)とオンプレミス環境「OCI Dedicated Region」において、Oracleがサービスを管理するフルマネージドサービスとして利用できる。生成AIの大規模言語モデル(LLM)として「Cohere」と「Meta」の2つのモデルを選択でき、企業の生成AI活用における幅広いユースケースに対応するとしている。

 発表に際し、米Oracle CorporationのAIプラットフォームおよび生成AIサービス担当ヴァイスプレジデント ヴィノード マムタニ(Vinod Mamtani)氏は、新たに生成AIサービスを提供する狙いを語った。

米Oracle Corporation AIプラットフォームおよび生成AIサービス担当ヴァイスプレジデント ヴィノード マムタニ(Vinod Mamtani)氏

 「この半年ほど、さまざまな企業の経営層と会話したが、その中で最も多く寄せられた声が『生成AIをもっと活用したい』『データを活用してビジネス成果を得たい』だった。ただ、学習モデルを最初から作るのか、事前に構築したモデルをチューニングしていくのか、さまざまな選択肢がある中で戸惑っている。自社のシステム環境にどう組み込むのかについても同様だ。それに対し、Oracleは、テクノロジースタックの全てのレイヤーで、高効率で高パフォーマンスなAIサービスを提供できる。Oracleだからこそ、データ管理、セキュリティ、ガバナンスを確保して生成AIサービスの活用を進めることができる」(マムタニ氏)

OCI Generative AIサービス(出典:日本オラクル発表資料)

RAGでビジネスアプリケーションの情報とAIの能力をどう組み合わせるか

 OCIはこれまでAIサービスとして画像認識(Vision)や自然言語(Language)、音声(Speech)、文書解析(Document Understanding)、デジタルアシスタントなどを提供してきた。OCI Generative AIサービスは、Oracleクラウドが提供するAIサービスの一つとして提供される。

 今回の発表では、一般提供(GA)を開始したOCI Generative AIサービスに加え、AIの信頼性確保で必要となるRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)機能を備えたAIエージェント「OCI Generative AI Agents」サービスのベータ提供(Preview)と、各種AIサービスやオープンソースLLMとノーコードで連携できる「OCI Data Science AI Quick Actions」の新機能のベータ提供も発表された。

 RAGは、生成AIの学習結果だけでなく必要に応じて外部データベースなどの情報源を探索して回答を生成する仕組みを指す。企業情報全体を生成AIに学習させるのではなく、すでにある情報を生かすため、組織個別の情報を組み合わせやすい。

 OCI Generative AIサービスの特徴は、MetaとCohereによる高品質な事前構築済みモデルを提供すること、ニーズに合わせたモデルのカスタマイズが可能なこと、OCI内で完全にホストされたサービスであること、プライベートで安全にAIを活用できる点にあるという。

 全ての処理とデータを蓄積するストレージはOCI内で完結させる。リージョンをまたいだ通信や、クラウド間の通信も行われない。さらに、顧客によるAIトレーニングの結果や推論データも他の顧客からは参照ができない仕組みになっている。OracleからCohereやMetaに顧客データやそれに基づいて生成されたデータを送信することもない。

 OCI Generative AIサービスはユースケースを重視して提供される。各業務領域での最適なAIの使い方をプリセットした形で提供するため、顧客側が労力をかけずにベストプラクティスを利用できるように設計されている。提供するユースケース例としては、顧客オペレーション(カスタマーサービスやコンタクトセンター)やマーケティング(eコマース向けコンテンツの生成やパーソナライズ化)、販売(スライドや資料の生成やバーチャルエージェントによる案内)、製品開発(データ分析、ラベル付け、コーディングやテストの自動化)、リスクと法務(契約書作成、ドラフト作成、質問への回答)、戦略と財務(決算説明会やアナリストレポートからの要約、コンテキストに沿ったプロセス自動化、競合他社や顧客情報の横断検索、監視)などがある。

ビジネス機能全体の生成AIユースケース(出典:日本オラクル発表資料)

 ベータ提供されたOCI Generative AI Agentsでは、第一段のエージェントとして「RAG Agent」が提供される。RAG Agentを利用すると、例えば社内のナレッジベースに接続された情報を検索する際に、チャットbotに対して自然言語で質問を投げかけるだけで、生成AIを活用した適切な回答を得るといったことが可能になる。質問の中で社内のドキュメントへのリンクを生成したり、追加の質問に対してコンテキストを把握しながら追加の回答を返したりできるという。

 RAGエージェントのベータ版では、社内のナレッジベースへのアクセスで、OCIで提供する全文検索システム「OpenSearch」を利用できる。一般提供を開始するタイミングまでに「Oracle Database 23c」で提供する「AI Vector Search」やMySQLの「HeatWave Vector Store」にも対応する予定だ。

 これにより、クラウド環境のオブジェクトデータベースやリレーショナルデータベースなどのさまざまなデータリソースを対象に、AIを使ったナレッジベースの検索などが可能になる。

 AIエージェントの機能拡充も予定されており、情報検索タスクにとどまらず、APIを使ったさまざまなタスクの自動化に対応した「アクションエージェント」や、原因分析やプラニングを行う推論エージェント、過去の記録を基にコンテキストに応じた豊かな回答を行うマルチターンエージェントなども提供予定だ。

 マムタニ氏は、Oracle AIの差別化要因と利用メリットを改めて次のように強調した。

 「Oracle AIは、エンタープライズのユースケース向けに設計された、効果的でカスタマイズ可能なモデルだ。生成AIの機能とサービスは、インフラやデータ、データプラットフォーム、SaaSアプリケーション、AIパートナーといった技術スタックのあらゆるレイヤーにまたがって組み込まれており、エンタープライズAIのユースケースに不可欠なデータ管理やセキュリティ、ガバナンスを優先したサービスだ。企業の独自データによるモデルを簡単にカスタマイズでき、複雑なタスクの実行の自動化、そして責任を持ってアプリケーションを構築し、デプロイするためのセーフガードを備えている。Oracleは顧客がビジネス上の問題をよりスマートかつ迅速に解決するために、事前構築済みのGenerative AIサービスと機能の強力なスイートを提供する」(マムタニ氏)

Oracle Cloudエコシステム全体のAI(出典:日本オラクル発表資料)

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