中堅企業のIT投資意欲は「減退傾向」 ノークリサーチ調査で明らかに

コロナ禍以降、拡大傾向が続いていたIT市場。しかし、ノークリサーチによると、2023年の中堅企業のIT投資額は減少した。その理由は何か、またその中でも投資額が伸びている分野とは。

» 2024年02月21日 07時00分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 ノークリサーチは2024年2月13日、中堅・中小向けIT市場規模に基づく顧客セグメントと商材、ソリューションの選別に関するレポートを発表した。

 同レポートは、2024年2月末に刊行予定の同社の調査レポート「2023年版 中堅・中小企業のIT支出と業務システム購入先の実態レポート」のダイジェストだ。調査は、国内全業種の中堅・中小企業(年商500億円未満)1300社を対象に2023年7月〜8月に実施された。

中堅企業で投資額が減少 それでも投資されている分野は?

 まず全体の市場規模を見ると、2022年は約2兆700億円だったが、2023年は約1兆6500億円に減少している。

グラフ1 年間IT支出額に基づく市場規模(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 1年間で4000億円以上減少した理由は何か。ノークリサーチは要因を探るため、市場規模を年商別(グラフ2)とIT商材・ソリューション別(グラフ3)で集計した。

グラフ2 年商別でみた年間IT支出額に基づく市場規模(出典:ノークリサーチ発表リリース)
グラフ3 IT商材/ソリューション別でみた年間IT支出額に基づく市場規模(出典:ノークリサーチ発表リリース)

 年商別に細分化した市場規模(グラフ2)を見ると、中堅上位企業(300〜500億円)や中堅中位企業(100〜300億円)の減少幅が大きいことが分かる。一方、中堅下位企業(50〜100億円)は微減、小規模企業(5億円未満)は増加と、企業規模が大きくなるほどIT投資額が減っていることが分かった。

 IT商材・ソリューション別の集計(グラフ3)を見ると、ハードウェアやクラウドサービスといったITインフラは横ばい、または微減にとどまる一方で、DX関連や業務アプリは明確に減少していることが分かった。

 合計市場規模は2022年から2023年にかけて減少しているが、ユーザー企業の年商規模やIT商材・ソリューションの分野によって傾向が異なることが浮かび上がった。

 今回の調査レポートでは、IT商材・ソリューションの主要な委託先、購入先に対して実際に支出した金額を元に中堅・中小企業におけるIT市場規模を算出した。

 中堅中位企業層(年商100〜300億円)や中堅上位企業層(年商300〜500億円)で2022年から2023年にかけての市場規模の減少幅が大きい要因は何か。ノークリサーチは次の3つを挙げる。

  1. 他の年商帯と比べて早期に始まったDXの取り組みが一巡して、導入割合が下がった
  2. 他の年商帯と比べて早期に始まったDXの取り組みが一巡して、支出金額が下がった
  3. IT商材の多様化や内製化によって、最も主要な委託先や購入先に対する支出が減った

 「DXへの取り組みが一段落した可能性が考えられる」というのがノークリサーチの見立てだ。

 表1が示すように、中堅中位企業層や中堅上位企業層の企業数は他の年商帯と比較して少ない。その一方で、企業当たりの支出額は大きいため、傾向の変化が市場規模全体の増減に反映されやすいといえる。

表1 国内民間企業の社数(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

DX関連ソリューションや業務アプリケーションが減少

 IT商材・ソリューションの5つのカテゴリー「DX関連ソリューション」「業務アプリケーション(パッケージ/クラウドの双方を含む)」「ハードウェア」「クラウドサービス」「その他のサービス」ごとにまとめた市場規模を2022年と2023年で比較した(グラフ4)。

グラフ4 IT商材/ソリューション別にみた年間IT支出額に基づく市場規模(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 ハードウェアやクラウドサービスといったITインフラの市場規模は、2022年と2023年で大きな変化が見られない。一方、DX関連ソリューションや業務アプリケーションの市場規模は2022年から2023年にかけて減少している。

 つまり、ITインフラは更新需要を主体として2022年と同程度の規模を維持している一方、DXや業務アプリケーションの新規導入や更新/刷新については一段落しているといった状況が読み取れるとノークリサーチは分析する。

 だが、年商別の傾向に触れたように、上記の結果を年商別、業種別、地域別で細分化した場合には上記とは異なる傾向を示すセグメントも多々あるという。

 ベンダーや販社/SIerが今後の施策を練る上では、グラフ4で示した5カテゴリーに含まれるIT商材/ソリューションを28項目に細分化した分析結果を基に具体的な支出額や市場規模の動向を把握しておく必要があるとノークリサーチは説明する。

中小企業の中で「低迷期」に入っているソリューションは?

 グラフ5はIT商材・ソリューションに関する詳細分析の一例だ。年商5億円未満の企業におけるDXソリューションのカテゴリーに属する12項目のIT商材・ソリューションの年間支出額(左側のブルーのグラフ)と市場規模(右側のオレンジのグラフ)を並べた。

グラフ5 中堅・中小向けIT市場におけるDX関連ソリューションの年間支出額(左)と市場規模(右)(出典:ノークリサーチのプレスリリース)

 IT商材/ソリューションの市場規模は「実企業数×導入割合×年間支出額」によって算出される。ここから、どのような特徴のある中小企業がどの分野に投資しているかが見えてくる。

 グラフ5の「自動化・システム連携・開発ツール」「コミュニケーション改善・データ共有」「ペーパレス化」は、市場規模が他の項目と比べて大きいものの、年間支出額はいずれも30万円未満にとどまる。いわゆる普及期にあるソリューションで、多くのユーザー企業が導入することによって市場規模が大きくなっていることが分かる。

 一方で、「ドローンの活用」「3Dプリンタの活用」は、年間支出額は相対的に高い値が、市場規模は小さい。一部の先進的なユーザー企業がドローンや3Dプリンタの活用に取り組んでいる状況だ。ノークリサーチによると、新たなデバイス導入を伴うDXソリューションはこうした傾向を示しやすいという。

 「センサー+AIによるデータ分析」のように、年間支出額と市場規模がともに低い値になっている項目もある。こうした項目は、現段階では低迷期に入っている可能性が高い。

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