市場競争力が“失われる”IT投資の特徴は? ガートナーが「2027年までに見直すべきこと」を提言

ガートナーによると、日本企業が進めるDXの多くは、ビジネス価値を高めるものではない。また、「ある特徴」のあるIT投資は死に金になるだけでなく、企業の競争力を失わせるという。「生きた投資」にするために何を見直すべきか。

» 2024年04月12日 12時55分 公開
[金澤雅子ITmedia]

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 ガートナージャパン(以下、ガートナー)は2024年4月9日、DX(デジタルトランスフォーメーション)を成功させるための取り組みに関する見解を発表した。

ある特徴を持つIT投資の「9割」は競争力を失わせる

 ガートナーの調査によると、世界の経営者が最大の関心を寄せているのはビジネスをいかに成長させるかだ。ビジネスを成長させるためには、競争力のあるビジネス価値をタイムリーに顧客に提供して、顧客に選んでもらう必要がある。

 そのために何が必要なのか。

 ガートナーの川辺謙介氏(シニア ディレクター アナリスト)は、「企業の資源は有限だ。不確実性が高まり続ける将来に備えるには、安易な増強ではなく、ビジネス価値を生み出す過程の見直し、言い換えると、さまざまな業務をサポートするアプリケーションの見直しや刷新に取り組むことが重要だ」と述べる。

 DX推進に当たる役員を配置し、組織を整備する企業は増加している。一方で、競争力のあるビジネス価値を創出する抜本的な「トランスフォーメーション」を自社が成功させると考える企業の割合は依然として少ない状況だ。ガートナーは、その主な原因は、属人的な業務の継続や縦割り型組織による連携の不足にあるとみている。日本企業は老朽化したシステムの刷新や人手不足解消のための自動化ソリューションの導入といった方法でDXを推進することが多い。顧客に価値を提供するためというよりは、目前の課題解決に主眼が置かれる結果、現行業務のデジタルへの置き換えにとどまる傾向がある。

 「デジタルテクノロジーを活用した業務改革による競争力強化のポイントとしては、業務間あるいはシステム間のインテグレーション、顧客応対チャンネルの拡大、顧客情報の収集と活用、顧客に価値を提供するまでにかかる時間の短縮、『エクスペリエンス』『共感』『信頼』といった新たに生み出される付加価値を可視化することによる意思決定支援などが挙げられる。業務改革の取り組みに際して、対象市場(顧客や競合状況)の変化やテクノロジーの進展を十分に考慮せずに、顕在化した業務上あるいはシステム上の課題のみに着目し、短期間かつ低コストで対処しようとすると、急場をしのぐ現行業務の再現に終始することとなる。その結果、将来を見据えた戦略的で計画的なDXが遠のいてしまう」(川辺氏)

 変化に敏感で必要な対処を着実に施してきた企業は、デジタルテクノロジーを適切に活用し、CX(カスタマーエクスペリエンス)のように可視化や定量化の難しいものも含めて、効果的なビジネス価値を創出し、顧客に提供するようになるとガートナーは予測する。

 一方、変化に対処しきれず、競合他社から後れを取る企業は、現行業務のデジタル化だけでは不十分だ。さらなる投資が必要だと気付いた時点で既に大差がついている。その結果、サービスや商品を市場に投入するスピードや顧客への影響力といった観点から、競争力を失う結果になるというのがガートナーの見立てだ。

 2027年にかけて、「現行業務のデジタル化」にとどまるIT投資の90%は、迫り来る変化に対応できず、市場競争力を失う主因となるとガートナーは警鐘を鳴らす。

 その状況を避けるにはどうすべきか。「社内業務の改善が最終的に顧客に価値を提供するという観点から、業務改革によってもたらされるビジネス成果、つまり顧客にどのような価値がもたらされるかについて再確認することが重要だ。顧客に価値を提供するまでの時間を短縮するために、エンド・ツー・エンドでプロセス全体を見渡し、ボトルネックを見極めるとともに、煩雑な業務を強いられる従業員のエンゲージメントレベルの向上に努めるべきだ。これらは業務効率の改善や労働生産性の向上のみならず、顧客にも好影響を及ぼす」(川辺氏)

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