NTT東日本と東大が協創協定を締結 「地域と同じ目線」で地域循環型社会を実現できるかWeekly Memo(2/2 ページ)

» 2024年04月22日 15時15分 公開
[松岡 功ITmedia]
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世の中へのインパクトについて両者トップは何を語ったか

 今後の展開としては、地域が循環していく上で必要な、自律型・分散型の地域を支える次世代デジタルネットワーク基盤の構築と社会起業家の創出について、フィールド実践型で取り組んでいく構えだ。

 分散型の次世代情報インフラについては、高品質なネットワークやコンピュートアーキテクチャの検証を、東京大学が先端研究を進めるバイオ分野におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)やローカル5Gなどの次世代ワイヤレス技術実証で実践し、地域に分散する多様な人材の育成に向けて取り組んでいく。

 また、自律型の地域については、東京大学の先端的なまちづくり研究やNTT東日本の地域活性化事業の知見を用いて、次世代ワイヤレス技術などのデジタル技術を活用した社会起業家の育成プログラムなどをフィールド実践していく(図2)。

図2 地域循環型社会を支える次世代ネットワーク基盤にはNTTが提供する「IOWN」が適用される(出典:NTT東日本の会見資料)

 以上が、両者による発表の概要だ。ユニークな組み合わせによる産学協創の動きだが、地域循環型社会の実現に向けて、果たして世の中にどれだけのインパクトを与えるのか。会見の質疑応答で両者トップにこの質問を投げかけたところ、まず、東京大学の藤井氏は次のように答えた。

 「今回の協創事業のキーワードの一つが『レジリエンス』だ。これからのデジタル社会においては、これまでにも増して頑強なネットワーク基盤を構築しなければならない。その上で、地域それぞれの事情や特徴に合わせてサービスなどの新たな価値を創出し、ウェルビーイングを追求しながら、社会全体として多極分散の多様性を維持しつつ、レジリエンスな仕組みをどう形成していくか。これは今後の日本の在り方を考える上で重要な視点だ。産学協創はその意味で、最初に決めたことを推進するだけでなく、今取り組んでいることそのものがどうあるべきかを探るところも大きな目的だ。今回の活動を通じてそうした論議と実践が大きく動き出すことを期待している」

 そして、NTT東日本の澁谷氏は次のように答えた。

 「私が印象深いのは、両者で今回のテーマをもとに協創の話を進めていく中で、東京大学がフィールド実践型で取り組みたいという強い意思を持っておられたことだ。NTT東日本はネットワークを生業として、その維持をはじめ、それを地域で生かすために日々フィールドで地道な活動を続けている。そんな当社と協創する形で学生さんを含めてどんどんフィールドに出て行って、地域循環型社会の実現に貢献したいと。日本の『知』を代表する東京大学がこのように動き始めたということが、今回の協創事業が世の中にもたらす最大のインパクトだと確信している」

 ただ、次のようにも話した。

 「とはいえ、フィールド実践型での取り組みはそう簡単に進められるものではない。当社が長年、各地域で事業を進めてきて最も大事にしているのは、地域ごとの特性を熟知し、地域の方々と同じ目線で話をすることだ。『援助してやろう』といった『上から目線』が少しでも出てしまえば、コミュニケーションは成り立たなくなる。これからいろいろな議論をして物事を少しずつ進めていく上で、フィールドで揉まれる経験を積むことが、とりわけ学生さんには貴重な機会になるだろう。そんなプロセスを踏むことで、地域が、そして社会が変わっていくのではないか。今回の協創事業がそのきっかけになればと願っている」

 振り返ってみると、失礼な質問でもあったが、お二方の熱のこもった回答に意を感じたので、ここに書き記した次第である。

共同記者会見は東京大学・安田講堂で開かれた

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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