生成AIを活用する企業が増えている。経営トップの肝いりで生成AIの活用を進めている日立の取り組みの中から、技術継承と業務効率向上の2つのソリューションを紹介する。
この記事は会員限定です。会員登録すると全てご覧いただけます。
生成AI(人工知能)をいかにビジネスに活用するかについて、さまざまな企業が取り組みを進めている。日立製作所(以下、日立)が「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」(2023年9月20〜21日開催)で発表した取り組みの中から、技術継承と業務の高度化を支援する2つのソリューションを紹介する。
高齢化に伴い、将来的な労働人口の減少が確実視される中、社会インフラをはじめとした機器や装置の保守・管理の現場は労働力不足に悩んでいる。また、ベテラン世代からの技術継承も重要な課題となっている。「インダストリアルメタバースによる鉄道設備保全の高度化」は、これらの課題の解決に向けた日立の提案だ。
社会インフラの3D空間(仮想空間)の構築に加えて、1D(時間軸)と1D(部門間)を超えたナレッジを蓄積し、シームレスな情報共有空間を構築する。従来、社会インフラの保守、点検などの業務はそれぞれの現場でベテランから直接指導を受ける必要があった。同ソリューションを利用することで、長距離を移動することなく研修を受けられる他、点在しがちな知見を集約して管理することで情報検索の迅速化を図る。日立は「拠点や部署を超えた知見の共有と継承が可能になる」としている。
イベント会場では3台のモニターにメタバース空間が表示されていた。
鉄道車両の設備保全のデモでは、口頭で生成AIに指示を送り、「チェックリストへのコメントを含めた登録」「メタバース空間との連携による視点の移動」「車両に設置されたビールサーバーの不具合の原因候補の抽出」といった3つの作業を実施する様子が披露された。なお、同ソリューションに使われている生成AIは、鉄道車両の設備保全に関する情報を回答するようカスタマイズが施されている。
生成AIについては、単なる業務の効率化にとどまらず、業務を高度化することへの期待も高い。今回のイベントでは、「生成AIがもたらすインパクト 生産性の革新と新しい働き方」として、日立の社内実践を例としたデモ展示もあった。日立が提供する「TWX-21」のサポ―ト業務に生成AIを組み合わせるデモが紹介された。
TWX-21は日立が提供する企業間取引プラットフォームのクラウドサービスだ。顧客数は8万5000社を超える。日々届く顧客からの問い合わせに対するサポート業務に生成AIを利用することで、サポート業務担当者がより短い時間で回答できるようになる。問い合わせの処理件数が増えることも期待できるという。
具体的には、過去の問い合わせや業務マニュアルを生成AIと連携することで、オペレーターが過去の類似例やマニュアルを調査する時間を短縮して迅速な回答につなげる。特徴としては、回答文を生成する際に参照するソースをマニュアルに限定しており、AIの回答でそのソースを明記できることだ。生成AIの利用に当たって懸念される、顧客データの流出を防ぐ他、「それらしく見えるが、誤った内容を含む回答」の発生を抑制する。
生成AIが回答文を提示する際は、マニュアルのどの部分を参照したかが付記される。オペレーターは参照先のマニュアルを確認することで、生成AIによる回答と併せて、より正確な情報を顧客に届けられる。
また、マニュアルがアップデートされた際は参照するデータベースを入れ替えることで、旧バージョンに基づいた回答文が生成されないようにする。
導入後は、オペレーターが回答しにくい内容についてエンジニアに判断をゆだねるエスカレーションの発生件数が減少することが期待されるという。
日立ではTWX-21における自社実践のノウハウを基に、顧客企業における同様の業務の効率化を提案していく計画を立てている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.