吉崎氏は新ブランドであるBluStellarの重点戦略について次の3つを挙げ、その内容を以下のように説明した。
1つ目は、「AIをフル活用したビジネスプロセス変革」だ。構想策定からサービスデリバリー、運用・保守まで、全てのプロセスにAIを活用することで、従来型のSIから進化し、顧客価値の最大化を図る。コンサルティングサービスにおいては、データサイエンスの知見を活用して顧客の構想策定を実施するAIコンサルタント約100人を配備して戦略コンサルタントを強化するとともに、経営アジェンダの解決にデータサイエンスを融合させることで、スピーディーな実装を目指す。また、AI活用によるプロセスの高度化は、デリバリースピードと生産性を高め、顧客への迅速な価値提供を実現する(図4)。
2つ目は、「AIとセキュリティをキーとした先端テクノロジーの集約」だ。NECは業務プロセスの変革を実現するAIと安全・安心な社会基盤の運用に欠かせないセキュリティをキーテクノロジーと捉え、125年の歴史で培われた先端テクノロジーをBluStellarに集約し、高度なサービスへと変換して顧客に提供する。研究開発とビジネスの連携を強化することで、市場投入スピードを加速する(図5)。
3つ目は、「オープンなエコシステムによる共創」だ。共創を通じた新たな市場価値創出に向けて、グローバルハイパースケーラーとの戦略協業や共創パートナープログラムなど、約400社のパートナーとビジネスを強化・拡大する。グローバルハイパースケーラーとの戦略協業においては、2025年に向けて社内にDX人材を1万2000人とすることを目指し、さらに人材を育成する。社内ノウハウを基にしたDX人材育成プログラムを提供する約420社、約3万人以上の顧客とともにデジタル浸透を進める(図6、図7)。
その上で、吉崎氏は「当社は2019年にDX専任組織を立ち上げ、他社に先駆けてDXオファリングを提供開始した。その後、戦略コンサルティングのアプローチやグローバルアライアンスを推進するとともに、NEC Digital PlatformやDXを推進する全社横断組織を整備してきた。BluStellarはそうしたこれまでの当社のDXに向けた取り組みの集大成をブランド化し、新たなステージへと前進する決意を示したものだ」と力を込めた。
「集大成」という言葉が気になった筆者は会見の質疑応答で、「BluStellarにおいて拡充すべき点はもうないのか。あるとしたら何か」と聞いた。これに対し、森田氏は次のように答えた。
「フレームワークは出来上がったが、中身の進め方としてどうメリハリをつけていくかがこれからのポイントだ。その大きな要素となるのはスピード感だ。グローバルで競争力のあるテクノロジーをしっかりと育てる一方で、オープンなエコシステムにおいてそれぞれの強みを生かしたパートナー連携がこれから非常に大事になる。その意味では競合他社とも共存できるし、競合がパートナーになるかもしれない。DX市場はそれだけ大きいということだ」
この森田氏のコメントはベンダーにとどまらず、DXに取り組むユーザーにも当てはまるだろう。
最後に、今回の話から、企業(ユーザー)がDXを成功に導く要件を3つ挙げたい。
1つ目は、AIをフル活用したビジネスプロセス変革だ。BluStellarの重点戦略の1つ目に挙がっていたもので、今後の経営改革においてこの取り組みが最も効果的なのではないか。
2つ目は、オープンなエコシステムによる共創だ。これもBluStellarの重点戦略の3つ目に挙がっていたもので、企業は今後、社内のDXにとどまらず、自らのビジネスにおいてもDXを進める必要に迫られることを見越しての取り組みだ。自らの将来像をどれだけ想像できているかが問われることになる。
3つ目は、全社横断組織によるDX推進だ。森田氏が図2を示しながら話した内容がポイントだ。企業にとってDXの推進は全社的な取り組みでなければならない。この点は本連載でも繰り返して指摘してきたことだが、まだまだその認識が十分に広がったとは言い難いので、改めて強調しておきたい。
こうしてみると、今回のNECの話は、DXに取り組む企業にとっても「映し鏡」となるところがいろいろとありそうだ。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
富士通とNECの最新受注状況から探る 「2024年度国内IT需要の行方」
富士通、NEC、NTTデータの最新受注から探る「2024年国内IT需要の行方」
「生成AIで一発逆転は可能だ」 DX“後進”企業こそ得られるメリットを解説
“生成AI依存”が問題になり始めている 活用できないどころか顧客離れになるかも?Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.