NSSOLがSIの事業収益モデルの変革において、新たなキーワードとして掲げたTAM型のそれぞれの事業ポートフォリオは、今後どのように推移するのか。玉置氏は図5を示しながら、次のように説明した。
「当社としては2027年度までに、まずT型とA型の拡大に注力する。M型については2030年度に向けて着実に事例を増やす計画だ。これにより、2024年度では5%だったTAM型を2027年度には75%以上に引き上げていきたい」
つまり、今回の中期経営計画によって、同社は従来のSIからTAM型にビジネスモデルを変革しようとしている。
玉置氏はまた、中期経営計画の変革に向けた具体的な戦略として挙げた4つの関連性について、図6を示しながら次のように述べた。
「『事業収益モデルの変革』を実行するためには、オファリングによる提案プロセスを基本とする『顧客アプローチの変革』、抜本的な生産性向上および研究と事業の連携を強化する『技術獲得・適用プロセスの変革』、フロントラインの変革を支えるバックオフィスの効率化やデータドリブン経営の実現に向けた基盤システム刷新を含む『社内業務・マネジメントの変革』の3つが必要になる」
この4つについては先述したが、同氏ならではの表現だったので改めて記しておく。
こうした4つの戦略を実行する推進体制については、新たに図7のような取り組みを実施した。
「社長直轄の中期戦略実行マネジメントセンターを新設し、この統括組織をコントロールタワーとして変革のKPI(重要業績評価指標)をモニタリングし、個別施策の進捗(しんちょく)状況を可視化して早期の目標達成に注力する」(玉置氏)
要は、経営トップが陣頭指揮を執る全社活動ということだ。
ちなみに、NSSOLの新たな中期経営計画および2030ビジョンの数値目標としては、図8の通りだ。
最後に筆者の考察を述べておきたい。NSSOLの取り組みに見るSIビジネスモデルの変革は、「従来の個別SIから、自社の知見やアセットをベースに作り上げたベストプラクティスによるソリューションの提供へ」という印象だ。興味深いのは「自社の知見やアセット」の多くが従来の個別SIで培ってきたものということだ。
つまり、最も大事なポイントは「自らの強みを再認識し、それをどう生かしていくか」――。これはSIやDX支援を手掛けているベンダーにとどまらず、それらに取り組むユーザー企業にも言えることだろう。
さらに付け加えたいのは、その強みの再認識と活用を考えることを、経営トップがリードして全社活動とし、意識改革も同時に図ることが肝要だ。強みの再認識は従業員個々の自信にもなる。こうしたスタートをまだ切れていない企業が少なくないとも感じているので、改めて訴求しておきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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