Google AgentspaceをはじめとしてマルチベンダーのAIエージェントを連携できるようにしたA2Aプロトコルについては、グーグル・クラウド・ジャパンの上野由美氏(上級執行役員 パートナー事業本部)が、図4に示すように「AIエージェント同士のやりとりが可能」「オープン」「フレームワークに依存しない」といった3つの特徴を上げながら、次のように説明した。
「AIエージェントのメリットを最大限に引き出すには、分断されたシステムやアプリケーションを横断して、多様なエージェントがエコシステム内で連携して動けるようにすることがこれから非常に重要になる。異なるベンダーのプラットフォームやフレームワークで構築されたAIエージェント同士が自律的に相互運用できれば、生産性向上の効果が大いに見込める。また、長期的にはコスト削減にもつながる。当社はA2Aプロトコルをそういう目的で発表した」
また、図4の右側に描かれた内容について、「A2AプロトコルはAnthropic(アンソロピック)のMCP(Model Context Protocol)を補完する技術でもある」と説明した。A2AがAIエージェント同士の連携に対し、MCPはAIエージェントと各業務ツールのデータセットを接続するオープンプロトコルとも言われているが、上野氏が「補完」という言葉を使ったことからも、A2AとMCPの関係については注視していく必要がありそうだ。
上野氏はまた、「A2Aプロトコルは、異なるベンダーのAIエージェント同士が自律的にコミュニケーションを取り合って安全に情報交換し、さまざまな業務の生産性向上に向けてアクションをとることができるように、現在グローバルで50社を超えるパートナー企業と共に開発、検証作業を進めている」と語った(図5)。
図5はGoogle Cloud Next 2025で示されたもので、業務アプリケーションベンダーをはじめ、エンタープライズIT分野の主要な企業が名を連ねているのが見て取れる。Google Cloudはパートナー企業の協力を仰ぎながら、2025年後半に完成版の提供を開始する構えだ。
同氏はさらに日本でのAIエージェント事業として、Google Agentspaceのパートナーエコシステムについて図6に示しながら、「当社はこの変革の時代を、志を同じくするパートナーの皆さまと共にAIがもたらす新たな未来を創造していきたい」と意欲を語った。A2Aプロトコルについてのパートナー企業との動きに関する言及はなかったが、図6に名を連ねる企業がA2Aプロトコルの展開において協力関係を築いていくものとみられる。
会見では、Google Agentspaceのパートナー企業として富士通とSCSKも登壇し、それぞれの取り組みを説明した。筆者は質疑応答で両社に対して「A2Aプロトコルは、マルチベンダーのAIエージェント連携技術としてデファクトスタンダードになると見ているか」と聞いた。すると、両社は次のように答えた。
「この分野はこれからどんどん進化するので、どんな技術がデファクトスタンダードになるかどうかはまだ分からない。当社もグローバルテクノロジーカンパニーとしてその可能性がある技術を生み出したいし、A2Aプロトコルのようにその可能性がある技術とは積極的にコラボレーションしたいと考えている」(富士通の岡田英人氏《SVP AI戦略・ビジネス開発本部長》)
「A2Aプロトコルのグローバルなパートナー企業として、有力な業務アプリケーションベンダーが名を連ねていることから、企業の業務システムにおけるAIエージェントの連携技術についてはA2Aがデファクトスタンダードになり得る。当社のPROACTIVEもERPなので、A2Aによって活用領域を広げていけるのではないかと期待している」(SCSKの菊地真之氏《執行役員 PROACTIVE事業本部長》)
両氏が言うように、A2Aプロトコルはデファクトスタンダードになり得る存在ということで今後、周りも動くだろう。ただ、マルチベンダーのAIエージェントを連携させて共同で作業させるためには、プロトコルの他に技術的にもビジネス的にも整備すべきポイントがある。
Google CloudはA2Aプロトコルのパートナーエコシステムによって、そうしたトータル的なソリューションをスピーディーに幅広く展開することで、AIエージェント市場をリードしていきたい考えだ。同社にとっては、それが生業とするクラウド事業で先行するAmazon Web Services(AWS)やMicrosoftを追撃する大きなチャンスにもなる。
A2Aプロトコルの登場によって、マルチベンダーのAIエージェント連携は大きく動き出した。これを企業はどう生かせるか。引き続き注目していきたい。
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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