日立はAX事業にどう臨む? 徳永CEOの話から「成長につなげるための勘所」を探るWeekly Memo

企業はAIトランスフォーメーション(AX)にどう取り組めばよいのか。日立のAX事業に臨む姿勢から、その勘所を探る。

» 2026年06月22日 14時00分 公開
[松岡 功ITmedia]

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 日立製作所(以下、日立)の経営トップである徳永俊昭氏(代表執行役 執行役社長 兼 CEO)が、投資家・アナリスト向けの事業説明会で、AIトランスフォーメーション(AX)事業戦略について明らかにした。この説明会で、最も注目すべきは「日立のAX事業に臨む姿勢」だ。多くの企業がAXに取り組む上でも当てはまることだと思うので、今回はこの話を取り上げたい。

徳永CEOが「AIは脅威でなく成長機会」と語る理由

 「われわれにとってAIは脅威ではなく、成長の機会だ」

 徳永氏は、同社が2026年6月10日に開催した「Hitachi Investor Day 2026」において、AX事業戦略について説明する際にこう切り出した(図1)。

日立製作所の徳永俊昭氏(代表執行役 執行役社長 兼 CEO)(筆者によるキャプチャー)
図1 AIは脅威か?成長機会か?(出典:「Hitachi Investor Day 2026」説明資料)

 「AIは今、急速な進化を続けている。やがては既存のビジネスモデルを崩壊させるのではないかとの話をよく聞くようになった。しかし、私の答えは明快だ」

 冒頭の発言は、この“答え”として述べたものだ。そして「その理由を説明する」として、次のように話した(図2)。

図2 AIがもたらす、さらなる成長機会(出典:「Hitachi Investor Day 2026」説明資料)

 「日立が注力する事業領域であるエナジー、モビリティー、インダストリーのお客さまにおいては今、フィジカルAIの実装によって生産性の向上やイノベーションの創出に向けた取り組みが急拡大している。一方で、フィジカルAIの実装は、AIがサイバー空間を飛び出し、現実世界に直接影響を与えることを意味している。AIの誤りによって、設備や機器が停止するかもしれない。製品の品質不良が多発するかもしれない。すなわち、フィジカルAIとは元来、大きなリスクを伴い、安全な実装は難易度が極めて高いものだ」

 「しかし、そのフィジカルAIの特性こそが、日立に大きな成長機会をもたらす。フィジカルAIの安全な実装のためにはIT(情報技術)、OT(制御・運用技術)、プロダクト(製品・設備)の全ての技術と知見を高度に融合させる必要があるからだ」

 さらに、図2の右上に記されているデジタル領域においても「AIがもたらす変化に直面している」として、次のように述べた。

 「コーディングやモジュールテストなどの単純作業は、AIによる代替が急速に進んでいる。しかし、それ以上にお客さまの既存のITシステム資産をいわば“AIレディー化”する。このモダナイゼーションの需要が急拡大している。そして、ここではDSS(Digital Systems & Services)事業部門がこれまでに開発を手掛けた1万5000に及ぶ稼働中のITシステムが、日立が優先的にアクセスできる巨大な市場となって、将来の成長を確固たるものにしている」

 では、日立は4事業部門それぞれにおいて、AIがもたらす成長機会をどのようにつかむのか。徳永氏はまずエナジー、モビリティー、インダストリーの3事業について、次のように説明した(図3)。

図3 エナジー、モビリティー、インダストリーの3事業の成長へのアプローチ(出典:「Hitachi Investor Day 2026」説明資料)

 「IT、OT、プロダクトの全ての技術と知見を相互に融合させて日立の優位性を存分に発揮できるミッションクリティカル領域へのフィジカルAIの実装によって、社会インフラを継続的にアップデートし、成長していく」

 その成長へのアプローチとして、同氏は次の2つを挙げた。

 「一つは、旺盛なインフラ更新需要に支えられ、今も拡大を続ける巨大なプロダクトインストールベースが日立には存在する。このインストールベースを日立だけがアクセスできるフィジカルAIの実装フィールドとして現場の運用・保守の高度化を実現し、お客さまに価値を提供する」

 「もう一つは電力、鉄道、産業などのインフラ事業を営んでいるお客さまにおいては、競争力の維持と向上のために継続的な運用の高度化が絶対条件だ。一方で、多くのお客さまが加速度的に進化を続けるAI技術をいかにして事業に取り込むかという課題に直面している。この課題に対し、日立はIT、OT、プロダクトのそれぞれのエンジニアで構成する『フィジカルAI FDE』(FDE:Forward Deployed Engineer)チームで応える。日立のフィジカルAI FDEチームは、お客さまの運用現場に入り込み、フィジカルAIの実装を進める。また、ここで重要な点は、FDEが現場で培った知見やデータモデルを(日立の社会インフラ向けAIソリューションである)『HMAX』へと集約して、他の業種やお客さまへ横展開することだ。これによって、労働集約型ではない、スケーラブルな成長を目指す」

高収益率の新たなデジタルインフラ企業へ

 一方、デジタル事業については「日立は大規模ITシステム資産のモダナイゼーションを通じて、お客さまの業務のAXを推進し、成長する」としている。徳永氏は図4を示しながら、成長へのアプローチとして次の2つを挙げた。

図4 デジタル事業の成長へのアプローチ(出典:「Hitachi Investor Day 2026」説明資料)

 「一つは、日立はこれまでお客さまと共に多くのITシステム開発に取り組んで来た。その数は先述したように現在稼働中のシステムだけでも1万5000に及ぶ。そして今、これからITシステム資産のAIレディー化を進めるモダナイゼーション需要が急拡大している。なぜなら、お客さまの業務を支えているITシステムに最新のAI技術を取り込んで業務プロセス改革やサービス強化を実現することが、お客さまにとって急務となっているからだ。DSS事業部門は、国内3万5000人のSE(システムエンジニア)がAIを活用して自らの生産性を向上させ、お客さまのモダナイゼーションニーズに応えている」

 「もう一つは、お客さまは今、最新のAI技術とミッションクリティカルなITシステム開発の知見を有し、AXを長期にわたってサポートするパートナーを求めている。日立は先進のAI技術と日立独自のナレッジを有するFDEが、AnthropicやGoogle、Microsoft、OpenAIなどのAIエコシステムパートナーと連携して、お客さまの要望に応える。日立のFDEがお客さまのシステム部門と一体になって、高信頼で高品質なAXを進める。また、その成果を日立独自のアセットへ還元し、他のお客さまのAXを支援する」

 徳永氏は日立が目指す姿について、次のように述べた。

 「日立は今、エナジー、モビリティー、インダストリー、デジタルの4事業に注力して、デジタルセントリック企業への変革に取り組んでいる。この4事業において現時点で21兆円のバックログ(未処理案件)を積み上げている。ただし、これは単なる受注残ではない。これは日立が今後、AIを実装し、データを収集して、新たな価値を創出するための巨大なデジタライズアセットへと転換される。そして、そのデジタルアセット上で日立が提供するHMAXなどのサービスを、社会インフラの安定稼働に必要不可欠なOS(オペレーティングシステム)へと進化させる。お客さまが社会インフラを運用する際のOSとして組み込むと、データの蓄積が進み、それによってAIの精度が上がり、OSとしての提供価値が一層向上する。結果として、これが強固な参入障壁の構築にもつながるものと考えている」(図5)

図5 日立のめざす姿(出典:「Hitachi Investor Day 2026」説明資料)

 「私は社会インフラのOSの提供を通じて、日立をリカーリング(継続課金)モデルによって長期に安定して高収益率を生み出し続ける企業へと変革したい。新たなデジタルインフラ企業になるべく尽力したい」

AIを成長機会につなげるための手立てとは?

 以上が、徳永氏のAX事業戦略についての説明の概要だ。この説明で筆者が注目したのは、冒頭でも述べたように戦略の内容もさることながら、その前提となるAX事業に臨む姿勢だ。それは、同氏が最初に強調した「AIは脅威でなく成長機会」ということだ。この姿勢を企業全体としてとれるようにすることが非常に大事なのではないか。

 ただし、見方を変えるだけでこの姿勢はとれない。それぞれの企業でAIを自らの成長機会につなげるための手立てを考え、それを企業全体で進める実行力が必要だ。その手立ては企業によって異なるところも多々あるだろう。だからこそ、アグレッシブに動いて自らの手でつかみ取っていかなければならないのではないか。

 その手立てとは何か。徳永氏の「成長へのアプローチ」の話がヒントだろう。すなわち、自らの強みをAXによってさらに生かすことである。

 企業にとって、AXはDX(デジタルトランスフォーメーション)をさらに高度化した取り組みといえる。では、何を高度化できるのか。一言でいえば、「経営」だ。経営の質を高められるのだ。

 徳永氏の話を聞いて、そう感じた。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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