第3章  マーケティング・システムeCRM実現のためのメソドロジー入門(3)(2/2 ページ)

» 2001年04月18日 12時00分 公開
[松尾順,@IT]
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[2]マーケティング施策を立案するには

 ここから、非顧客を見込み客に換えるシステム要素、「マーケティング施策」の解説に入ります。ただし、本連載では、マーケティング施策を立案するにあたっての拠り所を示すのが目的であり、具体的なマーケティング・アイデアを披露するわけではありませんのでご了承ください。

4つのコミュニケーション・スペクトラムを利用しよう

 マーケティング施策とは、広告代理店や販促・イベント会社などが扱う、広告・プロモーション領域に関連することだと考えていただくと分かりやすいでしょう。

 拠り所としては、マーケティング理論の基本中の基本、コミュニケーション・スペクトラムが役立ちます。これは、見込み客が購入に至るまでには「4つのコミュニケーションの段階がある」という考え方です(図2)。

4つのコミュニケーション・スペクトラム 図2 4つのコミュニケーション・スペクトラム

 4段階とはいっても、非顧客は、順序正しく「知名」から「理解」、「理解」から「確信」、「確信」から「行動」へと移行するわけではありません。製品の名前を初めて聞いたにも関わらず、ともかく購入してしまうという方もいるからです。

 大事なことは、非顧客の特性や他社と比較した自社製品の特性を踏まえたうえで、非顧客に対して、どのようにアプローチしたら効果的・効率的に「見込み客化」できるのかをとことん考えることです。

まつおっち先生の“ココがポイント”

「知名」「理解」「確信」「行動」という異なる段階にある非顧客の特性と自社製品の特性とを照らし合わせたうえで、どこに焦点を絞って有効なコミュニケーションを図っていくかを決定しよう


「Yahoo!Cafe」にみるマーケティング施策

 具体事例で説明しましょう。2001年3月末、東京・原宿に「Yahoo! Cafe」という(リアルの)店舗がオープンしました。スターバックス・コーヒーとの共同運営のようですが、店内には光ファイバ、ADSLなどに接続されたパソコンが置かれ、会員登録をすればだれでも無料でネット・サーフィンができます。

 ポータルサイトの最大手であり、インターネット・ユーザーで知らない人はいないほどのお化けブランド、“Yahoo! Japan”が、原宿にリアル店舗を開いた目的は何でしょうか?

あるいは、この店舗をマーケティング・システムとして見るとどうでしょうか。これは私の推測も入りますが、当店舗は、カテゴリ・ノン・ユーザーを見込み客に変換するマーケティング・システムといえるのではないでしょうか。

 つまり、10〜20代の若年層で携帯電話は使っているがパソコンはこれから、というパソコンのカテゴリ・ノン・ユーザー(インプット)に対して、パソコンを使ったインターネットの楽しさを実体験してもらうと同時に、Yahoo!の知名度を高めることによって、将来、彼らがインターネットを始めたとき、その入り口(ポータル)としてYahoo!を利用する見込み客(アウトプット)を増加させるのが狙いだというわけです。

 既存のネット市場においては大半のシェアを握っているYahoo!としては、これ以上他社ユーザーを自社ユーザーに変換させることより、これからの新規ユーザー、すなわちカテゴリ・ノン・ユーザーをマーケティングの主対象とし、知名度を上げるためのマーケティング施策を打つのは当然のことだといえますね。

まつおっち先生の“ココがポイント”

自社にとって望ましい「見込み客」を創造するためのマーケティング施策を立案する際には、非顧客の特性、および競合他社と比較した自社製品のポジショニングを踏まえ、コミュニケーション・スペクトラムの4つの段階(知名、理解、確信、行動)のどこに焦点をあてるべきなのか、を明確にしておく必要がある


マーケティング・ツールへの理解も深めよう

 さまざまなマーケティング・ツールが4つのスペクトラムの各段階にどの程度効果があるのかについては、きちんと把握しておくことが重要です。

 このあたりの詳細はマーケティングの教科書をごらんいただきたいのですが、例えば「バナー広告」は、あの限られたスペースではせいぜい商品名や短いキャッチコピーしか表現できません。とすると知名度向上という効果を主に期待すべきで、「理解」「確信」「行動」といった段階に対する効果をあまり期待すべきではない、ということがお分かりだと思います。

 ですから、Webサイトに誘導するという「行動」を表す「クリック率」が低いからといって、「バナー広告は効果がない」と結論づけるのは早計でしょう。

 また、これもコミュニケーション理論の基本中の基本ですが、適切なメディア・ミックスを組み立てるということが重要です。マーケティング・システムとして自社が理想とする見込み客を創造するためには、バナー広告や電子メール広告、あるいはWebサイト上での広告などをどのように適切に組み合わせればいいのか、オンラインメディアとオフラインメディアをどう使い分ければいいのか、をきちんと考えるということです。

まつおっち先生の“ココがポイント”

個々のマーケティング・ツールへの理解だけでなく、それらをどう組み合わせるかという「メディア・ミックス」についても考える必要がある


IT施策で活用できるソフトウェアには何があるか

 それでは、マーケティング・システムを支援するIT施策、具体的にはどんなソフトウェアが利用できるのか、についても触れておきましょう。

 非顧客を見込み客に変換するマーケティング・システムの機能を支援するソフトウェアの領域を「マーケティング・オートメーション(MA)」と呼びます。非顧客のデータをDB化し、一連のマーケティング施策を実施した結果、顧客の状態がどのように変化しているか(例えば知名度や理解度、購買意欲の向上の度合い)を捕そくし、その変化に応じて次にどのような施策を打てばいいのか、を立案する手助けをしてくれるソフトウェアです。

 通常、マーケティング施策は、ある予算枠の中で一定の期間内に行われるため、マーケティング・キャンペーンと呼ばれています。従って、このキャンペーン期間内での顧客データとマーケティング施策・予算を管理することが、マーケティング・オートメーションの中心的な課題であり、特に「キャンペーン・マネジメント」と呼ばれます。

 マーケティング・システムは、セールス・システムなどほかのシステムと比較すると、最もIT(情報技術)の適用が遅れている分野だといえるでしょう。セールス・システムを支援する「セールス・フォース・オートメーション(SFA)」や顧客へのサービス・システムを支援する「カスタマ・サービス・オートメーション(CSA)」ではさまざまな業種・規模の会社での導入が進められ、その成果についても多数の事例が報告されています。

 しかし、マーケティングという領域では、顧客になる前の消費者という、膨大なデータを扱わなければならないうえに、各種広告・プロモーション施策は状況に応じて頻繁に変更されるため、ソフトウェアでの管理が難しいのです。

 この領域をカバーするソフトとして最も知られているのは、‘E.piphany’ですが、日本では2001年3月に活動を開始したばかりです。そのほかのSiebel、Vantive、Pivotal、BroadVisionなど、ほとんどのeCRMパッケージ製品ソフトにもキャンペーン・マネジメントの機能が装備されていますが、導入事例として公開されているものはほとんど見当たらず、これからようやく普及しはじめる段階にあるといえるでしょう。

まつおっち先生の“ココがポイント”

ほとんどのeCRMパッケージ製品ソフトには「キャンペーン・マネジメント」機能が付いているが、マーケティング領域をソフトウェアで管理するのはそう簡単なことではないので、導入状況としてはまだまだこれからといったところである


さて、次回は見込み客を購入客に変換する「セールス・システム」の解説です。お楽しみに。

本文中に「まつおっち先生の“ココがポイント”というコーナーがでてきますが、「まつおっち先生」とは、筆者の松尾氏が仲間内では“まつおっち先生”と呼ばれて いることに由来しています。


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