第5章 エクスペリエンス・システム 〜顧客満足度を左右するエクスペリエンス〜eCRM実現のためのメソドロジー入門(5)(2/2 ページ)

» 2001年05月23日 12時00分 公開
[松尾順,@IT]
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[2]「パーソナライゼーション」と「カスタマイゼーション」

 高い経験価値を提供し、満足客を生み出すための製品はどうやって作り出されるのでしょうか。すなわち、そうした製品を作り出すのがエクスペリエンス・システムというわけです。ここではこのエクスペリエンス・システムをどのように設計すべきかということについて説明します。

「パーソナライゼーション」と「カスタマイゼーション」

 エクスペリエンス・システム設計のキーワードは、「パーソナライゼーション」と「カスタマイゼーション」です。パーソナライゼーションとは、顧客を個人として識別・特定することです。これまでのように「顧客全体」という十把ひとからげでも、「20代男性」といったレベルでもダメです。「鈴木一郎さん」といった個人レベルで顧客を把握しなければなりません。

 そのうえで顧客1人1人の異なるニーズに対応して製品やサービスをアレンジすることが必要です。これがカスタマイゼーションです。製品やサービスは、顧客個人を識別して、カスタマイズすることによって高い経験価値を持つのです。

 実際のシステム設計は、この2つのキーワード、パーソナライゼーション、カスタマイゼーションを基本思想におき、「ステージング施策」に落とし込んでいくことになります。

 ステージング施策とは『経験経済』で明らかにされている方法論であり、「経験」という価値を「観客」である顧客に提供する行為です。ステージング(上演する)という言葉で表されているように、「演劇的モデル」によって顧客に価値を提供することです。

まつおっち先生の“ココがポイント”

優れたエクスペリエンスを提供するためには、まず顧客を個人として捉えなければならない(パーソナライゼーション)。そして、1人1人の異なるニーズに対応した製品やサービスを提供することだ(カスタマイゼーション)


「演劇的モデル」にのっとった製品の経験価値化

図2 『経験経済』による演劇的モデル 図2 『経験経済』による演劇的モデル

 この演劇的モデルとは、製品やサービスはパフォーマンスである、という考え方をするということです(図2)。

『経験経済』では次のように演劇とビジネスとを対比しています。

  • ドラマ=戦略:Strategy
  • 台本=過程:Process
  • 劇=仕事:Work
  • パフォーマンス=提供物:Offering

 そして、経験を演出する「キャスト(配役)」として、従業員が重要な役割を果たすことになります。ステージング施策の具体的な展開については、ここでは詳しくは触れませんが、ぜひ『経験経済』をお読みいただければと思います。

 これまでの議論をまとめると、エクスペリエンス・システム設計とは、このような演劇的モデルにのっとり、製品の経験価値化を図るための統合された仕組みづくりである、ということになります。

エクスペリエンス・システムを支援するIT施策

 最後にエクスペリエンス・システムを支援するIT施策についてお話ししましょう。eCRMという視点から対象をインターネットに絞って考えると、いわゆる「レコメンデーション・エンジン」に該当するソフトウェアが中心的な役割を果たします。

 レコメンデーション・エンジンによって、個々のサイト訪問者を特定し(パーソナライゼーション)、顧客の性別・年齢・職業といった基本特性、過去の購買履歴やサイト上の行動履歴に基づき、最適な情報や製品を取捨選択して表示する(カスタマイゼーション)が可能になるからです。

 この分野で代表的なソフトは「ブロードビジョン」ですね。もちろん、ほかの多くのCRMソフトウェアもパーソナライゼーションやカスタマイゼーションの機能を持つモジュールを開発していますので、導入にあたっては各社製品の比較検討が必要となります。

 さて、次回、第6章では、顧客との関係づくりの総仕上げともいえる、「サービス・システム」についてお話しする予定です。

まつおっち先生の“ココがポイント”

「レコメンデーション・エンジン」を導入することで、パーソナライゼーションやカスタマイゼーションが可能になる。多くのCRMソフトウェア製品がそうした機能を搭載している


※本文中に「まつおっち先生の“ココがポイント”というコーナーがでてきますが、「まつおっち先生」とは、筆者の松尾氏が仲間内では“まつおっち先生”と呼ばれて いることに由来しています。
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