連載
» 2002年02月23日 12時00分 公開

SCMコンサルティングの現場から(1):何のための需要予測システムか?

[南野洋一,@IT]

<今回の内容>

  • SCMを導入した経験から
  • コンサルティングの進め方
  • あなたの会社のSCM定義は何か
  • SCMの受け入れ準備


SCMを導入した経験から

 「SCM」は、この2、3年ほどで一般的な“言葉”として浸透してきました。ツールの紹介や、導入における考え方や方法についてのセミナーや書籍も増えてきています。この連載では書籍などで提供されている基本的なSCMに関する知識の部分は割愛し、SCMコンサルタントとして私自身が経験したことを中心に解説していきます。

 私が現在、所属する会社は、製造業界へのERP導入やSCMツールの導入、そのほかのITツールを活用したコンサルティングを実施することをメインとして掲げています。私自身も過去、3社のSCMシステム導入に携わりました。精密機器の組み立て系2社と食品系1社です。そこで今後、数回に分けて過去から現在進行業務を含めて、私自身が経験したことを中心に導入のポイントなどを紹介していく予定です。

 ちなみにSCMツールのソフトウェアメーカーとしては、以下の会社が有名どころです。

コンサルティングの進め方

まず顧客のプロジェクトマネージャとの話し合い

 システム導入に際して、コンサルタントが最初に行うことは顧客との話し合いです。顧客企業のプロジェクト担当者と、方針についての打ち合わせを綿密に行います。

 SCMツール導入の目的・狙いは、会社によってまったく異なります。例えば、組織変更を行いたいが、現実にはなかなかできない。そこでSCMツールの導入を口実に、BPRの推進と同時に組織変更をしよう──といった考えがプロジェクトマネージャにはあるかもしれません。あるいは全国にある中継倉庫の数を減らしたいが、シミュレーションもうまくいかないため、SCMツールを導入して具体的に検討することを考えているかもしれません。

顧客企業のメンバーとの合宿

 プロジェクトマネージャの考えに基づき、私たちは1泊2日の合宿を行います。対象者は、今後コアのメンバーとしてともに業務を推進していく方々です。

 主な目的は、

  1. SCMツールの導入を顧客企業の社内に告知すること
  2. メンバーと顕在化・潜在化している問題点を共有すること

の2点です。アジェンダとしては、「その会社にとって何が問題なのか」「原因は何か」「対応策はあるのか」など、さまざまな視点から検討を進めていきます。

 この合宿におけるディスカッションがうまくいき、SCMツールの導入に関してメンバー間で統一的な認識を持つことができれば、その後もプロジェクトは良い方向へ進むでしょう。

 次に個々の担当者からヒアリングを実施します。ここでは、業務フローのヒアリングを行います。

 コンサルタントは社員ではありませんから、個々の業務内容の細かいことは1つ1つ聞いていかなければ分かりません。他方、社員も社内のすべてを知っているわけではありません。コンサルタントと社員メンバーの双方が、その会社の現状を正確に知ることが大切です。ここをおろそかにすると机上の空論でプロジェクトを進めることになり、判断ミスが生じます。

 SCMツールのインプリテーションを行うための現状の把握には、作業として“業務フローの作成”を行う形になります。ここで作成した業務フローは、SCMツールを導入・運用した場合、どのように業務フローが変更されるのかを検討する際にも用いられます。構築後の運用をきちんと視野に入れておかなければ“動かないコンピュータ”になってしまうので、ここもおろそかにはできません。

あなたの会社のSCM定義は何か

 ひと口に「SCM」といっても実際の個別ソリューションとしては多岐にわたります。これをあいまいにしたままでは話が食い違うばかりです。話をするうえで、SCMの“意味”“定義”をきちんと確認しておく必要があります。

 あなたの会社の「SCM」の定義は何でしょうか。SCMで何をしたいのでしょうか?

 需要予測を行うことがSCMですか。それとも、倉庫や営業所への在庫を補充することも行うのでしょうか。実績データを取得するため、販売先との共同作業のことをいっているのでしょうか。また、原材料や資材を購買する取引先との情報の共有を含めて行いますか。

 SCMを導入する目的や用途は企業によってさまざまです。一般的にSCMと呼ばれているものに対して、個々の企業が導入しようとしているSCMシステムがどの部分で、何を目的にしているかを明確に位置付ける必要があります。

 以下に記載することは、全体中の需要予測に焦点を当てたものです。需要予測の位置付けや、全体像は下の図を参照ください。

ALT 図1 基本的なSCMシステム

 主に需要予測を行うときに気になる点をいくつか挙げてみます。

在庫の圧縮

 SCM導入目的としてよく聞くのが、「在庫を減らしてキャッシュフローの改善をする」といったものです。新聞や雑誌などの記事を見てもそのような発表が報道されています。例えば「キユーピー」の記事には次のように記載されています。

キユーピーは早ければ10月中にも需要予測システムを稼働させ、サプライチェーン・マネジメント(SCM)を本格化させる。(中略)これによって1999年時点の平均で22日分持っていた製品在庫を、来年は12日分に、さらに2003年には10日分まで削減することを狙っている。

(日経情報ストラテジー 2001年12月号)

 1日分の在庫金額がいくらか分かりませんが、おそらく相当のキャッシュフローの改善につながることでしょう。しかし、この記事の文面には「キャッシュフロー」という文字はありませんから、経営レベルでのSCM推進だということは分かりづらいかもしれません。

 製造業はモノを作ることが仕事なので、現場は「生産性向上=生産力増強」になりがちです。しかし、いくら工場で生産してもそれが売れない製品であれば、在庫になるだけでコストが回収できず、経営を圧迫することになります。経営の視点からすれば、現金(キャッシュ)化されない在庫を減らすためのソリューションとして、SCMに期待するわけです。

 データが少し古くなりますが、具体的にコンパックとデルの例を示して説明します。

 1998年3月にコンパックは第4四半期の利益が当初の見通しを大幅に下回り、ほぼゼロになると発表しました。理由はパソコン需要を読み誤り、作り過ぎのために流通在庫が90日以上も溜まってしまったからです。そして4月に入るとコンパックは在庫調整のためヒューストンの本社工場を2週間休業すると発表しました。これは、仮に本来1カ月で現金化される(消費者に販売される)と想定していたならば、さらに2カ月経たないと現金化されないということを意味します。

 パソコンという製品はご存知の通り、“CPU”や“ディスプレイ”“ハードディスク”などさまざまな部品があります。これらは自社の工場で製造するのではなく、部品メーカーから購入してくるものです。90日の在庫ということは、部品の支払いが製品の販売前に発生してしまうことになります。在庫が多く発生すればするほど、収入がないまま支払いのみが発生し、企業の財務状況を圧迫して行きます。場合によっては銀行からの借入金が必要になってくるかもしれません。

 次にデルの場合です。デルは1998年始めには、部品メーカーに支払う8日前にはキャッシュが入ってくるようになりました。つまり事業運転資金はお客さまが出してくれることになります。このような資金繰りの改善の最大の要因は、棚卸回転率の改善です。デルはこの当時、35回という回転率でした。これは、在庫日数で見ると、11日間に過ぎません。

  • 生産しても売れなければ、在庫になるだけで現金化されません
  • 在庫のための倉庫代も掛かります
  • 売れなくても、部品メーカーから請求はきます

 話の焦点からずれますが、デルについて寄り道を。デルはBTO(Build to Order)を行っています。簡単にいうと部品段階までは見込み生産で手配しておき、最終組み立ては顧客からの受注情報により行うというものです。ほかのコンピュータメーカーの多くは、製品の需要予測を行い、製品としての見込み生産を行います。ここでの注目点は部品メーカーです。デルから注文がくる部品は、いま現在、顧客が要求しているものとなります。ほかのコンピュータメーカーはあくまでもある時期に自社で予想したデータを元に部品メーカーに発注しています。さて、部品メーカはどちらの受注情報に重きをおくでしょうか。もちろん前者のデルです。デルは生産方式からも同業他社との差別化を行い、部品メーカーを味方につけたからこそ、このようなキャッシュフローの改善が可能になったのです。

製造リードタイムの短縮

 話を戻します。SCM導入の目的としては、製造リードタイムの短縮もあります。

 例えば、いままでは月に1回の製造部門と販売部門との会議(製販会議とか需給調整会議などと呼ばれています)があり、そこで、翌月や翌々月の生産品目や生産数を決めていたとします。そこに、「需要予測」のシステムなどを導入し、週次で運用できれば、会議も週に1度行うことができ、より市場の状況に応じた生産体制を取ることができるでしょう。

 もちろん、それを行ううえでは、材料や資材などの確保、生産部門の対応がどこまでできるかなど稼働までの道のりは遠いでしょう。しかし、各業界の最大手と呼ばれるところは、それを行っているのです。

 例えばシャープでは海外の工場に対して以下を進めようとしています。

国内で取り組んできた液晶テレビなどの家電製品のSCM(サプライチェーン・マネジメント)を、アジアや欧米など13の海外製造拠点と20の海外販社で展開し始めた。 週単位で製造量を調整し、来年3月までに海外販社の発注から入荷までのリードタイムを、北米やアジアで1.5カ月、欧州で2.5カ月とそれぞれ2カ月短縮。これにより販社を含めた製品在庫量を約0.6カ月にする経営目標を達成する考え。

(日経情報ストラテジー 2001年8月号)

SCMの受け入れ準備

ベースになるデータがそろっているか?

 需要予測を行う場合、「正確な工場出荷データや、販売データがきちんとそろっているかどうか」が重要です。予測は、過去の実績から計算ロジックにより求めることが大原則です。この実績データがないとシステムは動きません。

 そして、その実績データが「何年分あるか」という点も重要です。ある程度信頼できる予測を出すには、2年間以上の履歴が必要です。また、季節性のある商品──例えば冬にしか販売しないもの(“セーター”や“お汁粉”など)ならば、年間を通じてのデータがありません。これも最低2シーズン分の実績が必要です。

 2年間以上の実績データを集めることには、目的が2つあります。1つはパターンを把握すること。もう1つは主な要因の関係式(個別要因)を発見することです。

 具体的には以下の要素について把握します。

  1. 季節性/夏型冬型などの年間変動
  2. トレンド性/増加基調・減少基調・安定基調など
  3. 循環性/景気の影響
  4. 無作為性/偶発的なアクシデントの影響
  5. 個別要因/広告・販促・価格設定・競合関係など

 上記の要素をできるだけ正確に判断し、未来の予測につなげるためにも2年以上の履歴が必要になります。

 また、過去のプロモーション実施時の実績数値があれば、さらに精度が上がります。例えばテレビコマーシャルを放映している時期、プレゼントキャンペーンを行っていた時期の成果実績がどうであったかがつかめていれば、その後同様の活動を実施しようというとき、増産すべきか否かといった形で参考になります。

 意外に重要なのが実績数値の単位です。用意された数値は金額でしょうか、ケースでしょうか、それとも個数でしょうか。いまの実績データの単位は何でしょうか。金額は予測と関係ありません。もし金額を出したければ、換算すればよいだけなのです。

 材料発注のことまで考えると、「どのような切り口で見るか」という点にも留意したほうがよいでしょう。「容器で見るか、それとも中身で見るか」といったようなことです。基本的には、予測結果は、決まった切り口でしか見ることができません。そのため、要件を決定する際の重要な事柄の1つとなります。

 以下はある販売担当者の言葉です。どのような業界の方か、分かりますか。

担当者の1人は「最近は単価を安くするために海外で生産していたが、そうすると発注から店頭に並ぶまでに1カ月以上かかってしまい、2月のキャンプに間に合わない。単価は少し高くなるが、日本国内でつくれば半月で仕上がる。とにかく1日でも早く2人の商品を販売するのが先決」と生産コストを抑えることよりも、売り上げ促進を狙う。

ZAKZAK 2001/12/17)

 発言の主は製造業の方ではありません。阪神タイガースのキャラクターグッズ担当者です。2人というのは、星野監督と田淵コーチのことで、この2人のキャラクター人形についての言葉です。

 新しい外的要因が生まれて、いままでの需要予測が外れてしまいました。販売機会を逃さないようにするため、その対策として海外生産を行わずに国内の生産拠点で製造を行おう──という考えですね。

 SCM導入をちゅうちょされている企業も多いかもしれません。一方、すでに導入している企業は、試行錯誤しながらも良い結果を出すべく努力をしています。その努力はすぐに結果には結び付かないかもしれませんが、データやノウハウの蓄積を通じて、ある日大きな差となって表れることでしょう。バスに乗り遅れないようにするためにも、少しずつでも具体的な検討をされるのはいかがでしょうか。

Profile

南野 洋一(みなみの よういち)

ITコンサルタント。前職で1993年から社内システムをノーツやオラクル、SAPを用いて構築を行う。当時はバブル経済が崩壊した時期で人員削減が行われる中、BPRを主眼においた仕組み構築に取り組んだ。その後、システムコンサル系の企業に移り、製造業中心にSCM導入に従事。社内改革業務に取り組んでいる。ときには人材不足気味な中堅企業の情報システム部門の雇われマネージャを務めている


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