まずは、社内有能PMのPMノウハウを抽出し、それを組織的に共有する方法の考案と合意形成までを支援することとなった。第1段階は、指折りレベルの有能PMのPMノウハウをえぐり出し、その結果の可能性を検討するところまでである。
まず第1 SI事業部の有能PMであるF氏にインタビューを行った結果、そのPMノウハウが次のようなものであることが明らかになった。
F氏に高い成果を出し続ける秘けつを聞いたところ、彼は「お客さまが放棄していることもやる」のだと発言した。彼は常日ごろ周囲にもそのようにすべきだといい続けているそうである。そうすれば必ずお客さまの信頼を勝ち得ることができるため、後は思うようになるというのである。
とはいえやみくもにお客さまの放棄したことを拾っていってもうまく行かないため、さらに具体的な行動レベルの事例をインタビューし、PMノウハウをえぐり出すことに成功した。下記は経営トップへのプレゼンテーション用のフォーマットである。
PMノウハウ:自己のミッションが顧客の期待を上回る | ||||||||||||||
概要 | 顧客の複数部門の合意が必要な要件に関して、顧客情報システム部門PMが調整をあきらめた場合も、自ら関係部門に目的を聞き出し、合意できるレベルのシステムビジョンを想定する。想定されたシステムビジョンの達成課題について、顧客情報システム部門PMをできる限り説得し、自社で対応できるものは実施する方向で提案を行う。 | |||||||||||||
背景と価値 | 顧客情報システム部門PMは、利害関係の異なる複数部門の調整が必要な場合であっても、往々にしてその努力を怠り、安易に要件を声の大きな部門の要求どおりにしようとしたり、八方美人的に決めたりする。これは本質的な顧客の利益につながらないばかりか、最終的な対応では当社も必ず譲歩を求められ、予期せぬ問題につながる。本PMノウハウはこのリスクを防ぐ価値がある。 | |||||||||||||
成功要因 |
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技術・知識 |
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プロセス |
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第2 SI事業部のG氏からは「協力会社責任者との1対1の対話」というPMノウハウを、アウトソーシング事業部のH氏からは「仮説と事実に基づく検証による障害特定」というPMノウハウをえぐり出すことができた。
PMノウハウ:協力会社責任者と1対1の対話を持つ | ||
概要 | 協力会社責任者と1対1の対話を定期的に持つことで、公的な場では発言がはばかられる、人のレベルや体制に関する問題を、相互に指摘し合う。これによりフォーマルな場だけでは得られない問題に関する情報を早期に……(次回以降で解説) |
PMノウハウ:仮説と事実に基づく検証による障害特定 | ||
概要 | 障害報告の第1報を受けた時点から、障害原因に関する仮説を考えられる限り立てる。各仮説を裏付ける、あるいは消去するために事実情報を獲得しながら仮説の絞込みを行う。仮説の検証に当たっては厳格に事実に基づいてのみ行い、決して担当者の単なる報告や予測での絞り込みは……(次回以降で解説) |
このようなPMノウハウは、E社内では誰も知らなかった。誰もが「彼は特別」と思っており、かつ例えばF氏本人も漠然と「お客さまが放棄していることもやる」べきであるとして、そうした考え方で部下を育成しようとはしていなかったからである。
しかし、これらのPMノウハウは、メソドロジのフレームワークを用いることで、フォーマットやプロセスに落として説明することができるのである。
E社では、経営会議において、数名の指折りレベルのPMから抽出されたPMノウハウについての評価を行った。経営会議では、「PMノウハウそのものにパワーがあること」「体系化できること」の2点から、すべての有能PMからPMノウハウを抽出し、一般PMに移植する検討を開始するように決議された。
プロジェクトの体制は、事務局を本社プロジェクト管理部に設置し、有能PMの人選や抽出されたPMノウハウの評価などを各事業部長が担当することとした。
プロジェクトの目的は、短期にPMノウハウを一般PMに移植し、赤字プロジェクトを撲滅することである。
次回は、有能PMから抽出されたPMノウハウの結果について見ていこう。
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▼大上 建(だいじょう たける)
株式会社プライド 取締役 チーフ・システム・コンサルタント
前職で上流工程を担当する中、顧客の利用部門は必ずしも「開発すること」を望んでおらず、それを前提としないスタンスの方が良いコミュニケーションを得られることに気付き、「情報の経営への最適化」を模索することのできる場を求めてプライドに入社。株式会社プライドは、1975年に米国より社名と同名のシステム開発方法論の日本企業への導入を開始して以来、これまで140社余りの企業への導入支援を通じて、情報システム部門の独立自尊の努力を間近に見てきた。
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