前回は、BPMのサイクルは「分析」「改善」「導入」「運用」という4種類のステージで構成されていることを説明した。今回は、前半部分となる「分析」と「改善」について具体的な事例を挙げて解説する
BPMのサイクルは「分析」「改善」「導入」「運用」というステージで構成されているということを前回ご説明しました。
「分析」というフェイズでは、一般的に「現状のプロセスを解析し、“改善のビジョン”に向けて“どう改善すれば成果が上がるのか”ということを見極め、改善するプロセスの方向性を作り上げていくという作業」を行います。「改善」の下準備のフェイズと考えてください。
これを実際に行う場合、プロセスをマッピングするツールなどを使うことで、ビジュアル的にプロセスを整理しやすくなります。こういったツールには、プロセスをマッピングすることで、「コスト」「時間」「掛かる要員数」「待ち時間」「遅延時間」などをプロセス全体とタスクごとに算出する機能があり、ボトルネックとなるポイントの解析ができるようになっているものがあります。
もちろんこういった数値を算出する機能を使う場合は、事前にコストや時間の算定根拠となる情報を設定しておくことが求められます。要員の時間単価や環境コスト、タスクの待ち行列情報や時間ごとによる仕事量の負荷変移情報などです。多くのBPMツールは改善するプロセスをシミュレートする機能があり、これらの情報を使うことで、簡単に改善前と改善後の分析数値を比較検討することができるようになっています。
設定できる情報の種類や量・範囲は、利用するツールによってさまざまです。最小限の設定項目で分かりやすくシミュレートすることを目的にしたツールもあれば、ち密に項目や情報を設定することで、きめ細かなシミュレートを行うものなど多様なツールが各社から提供されています。使う立場では、目的に合わせてどういったスタイルのシミュレート機能を実装しているツールが一番適しているかを検討する必要があります。もちろん、目的にフィットするコンセプトを持ったツールを選ぶことが重要ですが、視覚的に利用しやすく、理解しやすいものであることも重視すべき点です(ツールの選択基準については、今後ご紹介いたします)。
ここでの重要なポイントは、冒頭に書いた「改善のビジョン」に当てはまる基準値や目標値を明確に設定することが必要だという点です。よくKPI(キー・パフォーマンス・インジケーター)という言葉を耳にしますが、「目指すべき目標を達成するための基準となる項目は何なのか?」、また「その基準の値がいくつになればいいのか?」ということを明確にすることをいいます。このKPIの設定によって、もちろん改善の方向性も変わってきます。
具体的な事例を挙げると、「プロセス全体にかかる時間を短縮したい」という目的と「プロセスに掛かるコストを下げたい」という目的のように、ある意味相反するような方法論が必要となる複数の目的が掲げられる場合があります。
しっかりと「どちら(どの目標)を優先するのか?」「目標とする数値はいくら か?」を明確にしないと適切な改善方針を出すことができなくなります。
ある製薬会社2社の風邪薬におけるSCM(サプライチェーン・マネジメント)における考え方の違いの事例をご紹介いたします。
A社の戦略:購入者は常用しているお気に入りブランドがあるものの、いったん、違うものを使うとそのブランドに継続的に乗り換える。つまり“欠品をさせない”ことに重点を置くことを最優先にSCMを考える。
B社の戦略:物流コストを抑えることを最優先にSCMを考える。
どちらが正解ということではなく、企業戦略によって同じ“風邪薬”を対象にしても目標とすることが変わってきます。目標と方法論が違えば当然、プロセスの改善方法も異なったものになってきます。
次の「改善」というフェイズは、「分析」のフェイズにおいて方向付けた変更後のプロセスに対して、実際に“運用するための仕組み”を設定していきます。「改善」で計画したプロセスを実装するフェイズと考えてもよいでしょう。
“運用するための仕組み”とは、プロセスに含まれるタスク(ステップという場合もあります)ごとに、ツールが保有している自動化機能を設定していくことをいいます。ツールによって自動化の機能はさまざまです。「職能/役職/個人名など組織情報を利用したステップの自動送信機能」「タスクの遅延管理機能」「タスクの迂回条件の設置機能」「タスクの代理承認機能」「データベースへのアクセス機能」「情報のファイル化(PDFやExcel、Wordなど)機能」などさまざまあり、最近のツールでは、日本の文化の特色でもある複雑な組織体系とプロセスの仕組みにも十分対応できる機能を備えているものがたくさんあります。
ここで重要なことは、前の「分析」のステップで方向付けたプロセスの在り方を実現していく過程において、実稼働レベルでの実現可能性を視野に入れた設定をすることです。
実際のシステム(組織やビジネスモデル、プロセス)のパフォーマンスや利便性などは、前の「分析」のフェイズでは考慮されていません。このフェイズで外的要因、環境変数(というより実際の組織の運用レベルとか情報リテラシーとかいった状況)やシステムの可用性や信頼性なども十分に考慮するということです。
BPMという概念では、必ずしもツールを使うことに固執しているわけではありません。しかし、前述したような「分析」「改善」のステップにおける作業を行う上でツールを上手に使えば、BPMのサイクルを効率よく回していくことができるようになります。1つのツールをBPMのプラットフォームとして標準化することは、親和性を確保していくうえで重要なことですが、場合によっては複数のツールをうまくサイクルの中にマッピングした方が効率性を高める場合もあるでしょう。
林 計寿(はやし かずとし)
神戸市生まれ。ビジネスマネジメントに関する造詣が深く、ITを有効的に活用するコンサルテーションを多業種の多くの企業に対して手掛ける。「ソフトウェア開発工程管理」に関する講演多数。IT・マネジメントなどに関する執筆活動を行う。日本システム監査人協会会員No.871。アルティマスジャパン株式会社代表取締役社長 兼 CEO(〜2004年9月)を経て現在に至る。
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