BTO生産方式によるメーカーとサプライヤの関係SCMコンサルティングの現場から(7)(2/2 ページ)

» 2005年01月20日 12時00分 公開
[南野洋一,@IT]
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BTOモデルの狙い

 さて前述のような、パソコンの商品構成(パーツの組み合わせ)を顧客に決定してもらい、これを生産していくビジネスモデルのメリットは何でしょうか。

1.パソコンメーカーのメリット

 組み立てメーカーにとっては、不良在庫削減が大きな狙いです。

 従来型の生産量事前計画モデルでは、需要とのミスマッチ──作り過ぎ(不良在庫の発生)と欠品(販売機会損失)の懸念が常にあります。完成品在庫の過不足だけでなく、パーツレベルでも在庫・供給不足による製造機会損失や、逆に発注し過ぎによる大量デッドストックの発生などの可能性もあります。

 パソコンは足の早い商品です。CPUが古いというだけで商品が売れない可能性があります。また、差別化も難しいため、競合他社に比べてスペックが低いと“値崩れ”が起こりやすくなります。事前計画モデルでどんどん完成品を組み立てるというのは、売れるHDD、メモリ、ドライブに売れないCPUを付けて、トータルでは売れない商品をせっせと作っていたということも考えられるわけです。この状況を乗り切るために、BTOモデルへの取り組みがあるといえます。

 一方で、最大公約数的な商品モデル──ほぼ確実に売れるモデルも存在するため、事前計画モデルとBTOモデルを折衷したハイブリッドなスタイルを志向しながら、メーカー各社は日々の需要/生産データをインプット項目として収集し、それらを活用して利益最大化の努力を行っています。

2.サプライヤのメリット

 サプライヤも生産計画を策定するために、さまざまな需要予測を行っています。しかしながらサプライヤは最終顧客との接点が少なく、パソコンメーカーから提供される“予測”と自社の過去実績を基に需要予測を行わなければなりません。そのため、最終顧客から離れれば離れるほど予測精度は低下していく傾向にあります。

 サプライヤにとって、一番確度の高い情報は何でしょうか? それはBTOを行っているパソコンメーカーからの“発注情報”です。この発注情報は、事前計画型のパソコンメーカーに比べて考えれば、ほぼリアルタイムといえる鮮度の高いデータです。このデータを基本にして生産計画を考えていきます。

 BTOメーカーの発注情報は、パソコン完成品の実売状況──すなわち実販売データとパラレルであると考えてよいものです。ということは、あるメーカーでこれだけ売れているのであれば、他社でもこのくらいは自社パーツの需要があるはずだといった推測の可能性が見えてきます。つまり、サプライヤはBTOメーカーから“実際の発注”のほかに、“新鮮なマーケット情報”を受け取っているのです。これは大きな経営情報といえるでしょう。

モジュール型商品の今後

 そもそもパソコン──パーソナル・コンピュータという商品は、個人のニーズや趣味で仕様を決定していくものなのかもしれません。今後、「フルオーダーに近い商品」と「基本機能にオプションで一部パーツが追加・変更できる商品」という提供形態になっていくかもしれません。そうなると商品開発の基本的な考え方は、“プロダクトアウト”ではなく“マーケットイン”で進めていかなくてはならないでしょう。

 また、このような市場ニーズに(システム的、損益的に)うまく対応できないパソコンメーカーは随時撤退せざるを得ないのではないでしょうか(逆に、低価格を武器に強いノーブランドメーカーが出てくることは考えられます)。

 生産数量が決まっている場合の例としてパソコンを取り上げましたが、利益を上げるためにはこうした作り方は徐々に時代遅れになってきているのかもしれませんね。

profile

南野 洋一(みなみの よういち)

ITコンサルタント。前職で1993年から社内システムをノーツやオラクル、SAPを用いて構築を行う。当時はバブル経済が崩壊した時期で人員削減が行われる中、BPRを主眼に置いた仕組み構築に取り組んだ。その後、システムコンサル系の企業に移り、製造業中心にSCM導入に従事。社内改革業務に取り組んでいる。ときには人材不足気味な中堅企業の情報システム部門の雇われマネージャを務めている


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