中国人の日本型開発アプローチに対する本音は?オフショア開発時代の「開発コーディネータ」(16)(3/3 ページ)

» 2006年03月16日 12時00分 公開
[幸地司,アイコーチ有限会社]
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今後のあるべき姿

 オフショア開発を語るうえで、中国のローカルルールは知っておきたいものです。筆者の知る限り、中国国内のシステム開発で、日本と同等か、それ以上に詳細な仕様書が作られているという習慣は聞いたことがありません。ただし、仕様変更や手戻りの責任分担について、中国では一方的に受託側が負担するケースが少ないのです。もし、追加費用を払わないなら、作業をストップすると警告します。

 アメリカでも、IT導入プロジェクトの半数近くが破たんしているというデータを見たことがあります。中国や米国では、いい意味でも悪い意味でも、発注者と受注者は対等な関係です。しかし、今後、中国オフショア開発の更なる発展のためには、いくつか改善すべき点が残されています。

 現在でも、日本には、「中国に開発を依頼したら、不具合さえも直してもらえない」といったイメージが根強く残っています。また、無理やり中国に保守メンテさせるよりも、「自前でやった方が安くて早い」という会社も多いです。そもそも、中国オフショア開発が終了した途端、プロジェクトの中心メンバーがいないこともあり、「結局は作り逃げ」だと、憤慨する日本企業を数多く目撃してきました。これでは双方にとってメリットはないでしょう。

 また、日本側が中国の「作り逃げ」を気にし過ぎるあまり、中国に平凡な仕事ばかり与えていると「日本の案件は簡単でつまらない」といって、知的で野心的な若い技術者のやる気を一気にそいでしまう恐れがあるのです。

 これまで考察した日本と中国の本音を踏まえて、オフショア開発で日本側開発アプローチを採用する際の注意点をまとめます。

・日本側

  すべての中国人(特に若手プログラマ)が日本式開発アプローチを理解するのは不可能だという前提で中国に発注する。

・中国側

  仕様変更の対応に嫌悪感を隠さない中国人(特に若手プログラマ)のネガティブな思考パターンを知り、真っ先に社内の雰囲気を変えること。日本でも中国でも、個人攻撃は無意味である。企業文化が変わらなければ何も変わらない。

 中国オフショア開発で成功するためには、日本式の押し付けだけでは限界があります。一方で「郷に入れば郷に従え」とばかりに、中国式一辺倒にしてもうまくいきません。教科書的な答えとなりますが、私たちは第3の新しい企業文化を創造していくべきです。

 いま、現場で悩みを抱えている人にとっては、「机上の空論」だと憤慨するかもしれませんが、世界的に業績を伸ばす多国籍企業(GEやJ&J)に目を向けると、彼らは国や個人の価値観よりも、企業文化・理念を優先させていることが分かります。そして、“Think globally,Act locally”に徹しています。これがグローバルに活躍する企業や個人に共通する成功法則でしょう。


 さて、2004年9月から始まったこの連載も、いよいよ今回が最終回となります。いままで、お付き合いくださってありがとうございました。オフショア開発時代の「開発コーディネータ」と銘打った本連載ですが、主に中国の話題を中心に、関係者の皆さまが日ごろから感じている疑問や誤解に対して、事例をふんだんに交えながら具体的に回答してきたつもりです。

 近日公開予定の新連載では、さらに話題を広げ、装いも新たに中国オフショア開発全般に関する話をコラム形式でお届けしたいと思っておりますので、お楽しみに!

筆者プロフィール

幸地 司(こうち つかさ)

アイコーチ有限会社 代表取締役

沖縄生まれ。九州大学大学院修了。株式会社リコーで画像技術の研究開発に従事、中国系ベンチャー企業のコンサルティング部門マネージャ職を経て、2003年にアイコーチ有限会社を設立。日本唯一の中国オフショア開発専門コンサルタントとして、ベンダや顧客企業の戦略策定段階から中国プロジェクトに参画。技術力に裏付けられた実践指導もさることながら、言葉や文化の違いを吸収してプロジェクト全体を最適化する調整手腕にも定評あり。日刊メールマガジン「中国ビジネス入門 〜失敗しない対中交渉〜」や社長ブログの執筆を手がける傍ら、首都圏を中心にセミナー活動をこなす。

http://www.ai-coach.com/



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