見えるビジネスモデリングITアーキテクトを探して(16)

2007年2月に開催されたデブサミ2007の中から、アーキテクトセッション「ビジネスモデルを極める! (4+1)×1ビューで見える化する」の内容を紹介する。

» 2007年04月05日 12時00分 公開
[構成:唐沢正和,@IT]

 2007年2月14〜15日の2日間、東京・目黒雅叙園で「Developers Summit 2007(デブサミ2007)」が開催された。このイベントは、技術者コミュニティとの連携から生まれた総合ITカンファレンス。今回は「デベロッパーがビジネスを刺激する――時代はWeb 2.0+Enterpriseに」をテーマに、さまざまなセッションが行われた。この中からアーキテクトセッション「ビジネスモデルを極める! (4+1)×1ビューで見える化する」の内容を紹介する。

 「デブサミ」は、技術者コミュニティを中心軸に据えたイベントとして2003年2月にスタート。さまざまなジャンルの「コミュニティ」リーダーが企画した、実際的・現場的学びの場を提供するIT技術者のためのカンファレンスとなっている。

 今年は、「デベロッパーがビジネスを刺激する――時代はWeb 2.0+Enterpriseに」をテーマに、ソフトウェア開発者(デベロッパー)が抱える幅広い開発ジャンルの課題に応えるセッションを多数用意。Web 2.0サービスを設計・実装・プロジェクト推進していくための実践的解を提供した。

 セッションは、「アーキテクト」「開発テクノロジー」「開発プロセス」「プロジェクトマネジメント」「ベンチャー&カスタマーズオピニオン」「マーケティングテクノロジー」というテーマごとに分けられ、ソフトウェア開発者はそれぞれの目的に合ったセッションに参加した。

 今回はその中から、アーキテクトセッション「ビジネスモデルを極める! (4+1)×1ビューで見える化する」の内容を紹介する。このセッションでは、豆蔵・取締役会長/アジャイルプロセス協議会会長/情報処理学会ソフトウェア工学研究会主査の羽生田栄一氏と、システムビューロ代表/日本物理学会正会員の内田功志氏が、“(4+1)×1ビュー”をベースにした実践的なビジネスモデリング手法を詳しく解説した。

ビジネスとITシステムで異なる「ビジネスモデル」の意味

羽生田氏:

 まずは、「ビジネスモデル」の持つ意味について考えてみたいと思います。「ビジネスモデル」は、いろいろな場面で使われる言葉ですが、ビジネスの世界での意味と、ITシステムの世界での意味は少し異なっています。世間で一般的にいわれている、ビジネスの世界での「ビジネスモデル」は、どうやったらうまく利益が手に入るかという仕組みのことを指します。

ALT 豆蔵・取締役会長/アジャイルプロセス協議会会長/情報処理学会ソフトウェア工学研究会主査の羽生田栄一氏

 具体的には、「What/Why:どんな価値を/なぜ提供するのか」「For Who:誰に対して提供するのか」「How:どのように提供するのか」「With What:どんな経営リソースと組み合わせて提供するのか」「How Well:どう工夫すればビジネスにできるのか」「How Much:どの部分でどう儲けるのか」――この6つの視点がきっちり組み合わさって、それぞれに明確な答えが提示されている場合に、それをビジネスモデルと考えることができます。

 一方、ITシステムの世界でいわれている「ビジネスモデル」は、事業や業務全体をトータルに、専門的に表現したモデル記述のことを指します。ITを使ったシステムによって、ビジネスをサポートするメカニズムを作ることで業務を改善することがその目的になります。ここでポイントになるのが、構築したシステムが本当に業務の役に立っているかどうか。それを確認する手法として知られているのが「4+1ビュー」です。

 これは、システムの構造を「論理的ビュー」「コンポーネントビュー」「プロセスビュー」「配置ビュー」という4つの観点で整理し、最後にシステムの使い方を決める「ユースケースビュー」の観点から、実際にシステムをシナリオに合わせて走らせてチェックしていくという手法になります。

 このように、ビジネスとITシステムの「ビジネスモデル」は、一見それぞれ違った構造を持っていますが、この2つの世界をブリッジする手法として注目されているのが“(4+1)×1ビュー”という考え方で、ビジネスの世界における6つの視点を、システムの世界の「4+1ビュー」という観点で整理することで見える化したものです。

 実際に、それぞれを関連付けてみると、基本の4つの観点として、「With What」が「論理的ビュー」「For Who」が「コンポーネントビュー」「How」が「プロセスビュー」「How Well」が「配置ビュー」、そして「What/Why」が+1の「ユースケースビュー」に相当します。さらに、それぞれのビューにおいて、どれだけのコストが発生して、どんな価値を生み出せるのかという視点を常に意識する意味で、「How Much」が×1として加わって“(4+1)×1ビュー”となります。

 このように、ITシステムという狭義のビジネスモデルが、突き詰めると業務やビジネスの総合的な判断にも使えることが分かってきたのです。

6つのステップによるビジネスモデリング手法

内田氏:

 ここからは、“(4+1)×1ビュー”をベースにしたビジネスモデリング手法について具体的に説明していきたいと思います。

ALT システムビューロ代表/日本物理学会正会員の内田功志氏

 まず、ビジネスモデリングの流れを見ると、(1)BSC(バランス・スコアカード)により戦略マップを作成する、(2)ビジネスステータスを評価する、(3)ビジネスアクターとビジネスユースケースを識別する、(4)ビジネスユースモデルを作成する、(5)ビジネス分析モデルを作成する、(6)有効なシステムを識別(ビジネス設計モデルを作成)する――という6つのステップを経て、実際のシステム開発に入っていきます。

 これは、IBMのRUP(Rational Unified Process)をベースに、経営分析の手法として確立しているBSCの戦略マップなどを利用してカスタマイズしたビジネスモデリング手法です。順を追って、詳しく見ていくと、「(1)BSCによる戦略マップの作成」では、まず、企業のビジョンを明確にするために、内部環境と外部環境を分析します。同様に、Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)を分析する「3C分析」という方法もありますが、いずれかの方法で3年後、5年後のビジョンを策定していきます。

 次に「SWOT分析」を行います。ここでは、ビジョン策定で使用した「内部環境」から自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)を、「外部環境」から機会(Opportunity)と脅威(Threat)を導いて、クロス分析を行うことで基本戦略を明確にします。クロス分析では、SWOT分析で明確にした機会に対して強みを生かし、弱みに対しては脅威との組み合わせを回避します。また、弱みを強みに変えたり、強みを強化したり、脅威をチャンスに変えたりすることも検討して、最終的には基本となる戦略目標を導き出していきます。

 そして、それぞれの戦略目標を、「財務の視点」「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「学習と成長の視点」という4つの視点で分類して、各目標間の因果関係を明確にします。これが戦略マップになります。実際は、この後にBSCを細かく作っていきますが、今回のビジネスモデリング手法では、そこまでは必要ありません。戦略目標さえつかめれば大丈夫です。

羽生田氏:

 この戦略マップの部分を、“(4+1)×1ビュー”の視点で見ると、「財務の視点」が「How Much」、「顧客の視点」が「For Who」、「内部プロセスの視点」が「How」「How Well」、「学習と成長の視点」が「With What」になります。

内田氏:

 戦略マップが作成できたら、「(2)ビジネスステータスの評価」に入ります。ここでは、戦略マップで求められたビジネス目標を、ビジネスゴールという形にマッピングしていきます。そして、その中でビジネスルールを明確にしていきます。ビジネスの中で存在しているさまざまなルールをまとめていくのもビジネスステータスの評価になります。実際、ビジネスモデルそのものに影響を与えることにもなりますので、ここでしっかり洗い出す必要があります。さらに、組織をチェックして、現在、本社や支社にどんな組織があるのか、組織構造はどうなっているのかを割り振って明確にします。

羽生田氏:

 ビジネスルールや組織のチェックは、自分たちがこれから考えていこうと思っているITシステムや業務向上に対して、関係者がどんな目的意識でお互いコラボレーションしようとしているのか、あるいは対立しているのかを分析して、周辺環境との境界線を認識するために必要です。

内田氏:

 次が「(3)ビジネスアクターとビジネスユースケースの識別」です。ビジネスアクターとは、ステークホルダーを含め最初から組織の外側に存在しているオブジェクトのことです。これは、人であったり組織であったり、外部のシステムであったりします。また、ビジネスユースケースは、対象のビジネスアクターに対して提供されるさまざまなサービスのことを指します。

 ビジネスユースケースには、大きく分けて「コア」「戦略」「サポート」という3種類があります。「コア」は、ビジネスが中心となるユースケース。例えば商品を販売する、製品を製造するなど。特に、お金を払ってくれる人に対しての直接的なサービスが「コア」なビジネスユースケースになります。それに対して、「戦略」は、戦略的な目的で用意されるビジネスユースケース。例えば、商品の開発、セキュリティポリシーの作成、ビジョンの策定など。「サポート」は、外部的にサポートするユースケースになります。例えば機材を購入する、入金を処理するなどが挙げられます。

 そして、識別されたビジネスユースケースの内容1つ1つに対して、具体的にどんなビジネスワークフローになるのかをまとめていく作業が、「(4)ビジネスユースケースモデルの作成」になります。実際には、アクティビティー図を使って、ビジネスユースケースを実現するために、誰が、何をするのかを明記していきます。

 次の「(5)ビジネス分析モデルの作成」では、作成されたビジネスユースケースモデルを基に、どんなビジネスオブジェクトがワークフローの中に存在するのかを抽出して、それらがどんな振る舞いをすればビジネスユースケースが実現するのかを定義します。ビジネスオブジェクトには、ワークフローの中に現れる人の部分となる「ビジネスワーカー」と、モノや概念部分に当たる「ビジネスエンティティ」の2つがあります。

 最後に、「(6)有効なシステムを識別」します。具体的には、ビジネスワーカーが行っている作業をITシステムに入れ替えたり、ビジネスワーカーの作業効率を上げるためにITシステムを活用するなど、ビジネスゴールとの整合性を見ながら、予算も含めて、どの部分をシステム化すれば有効であるかを識別していきます。そして、ここを入り口にしてシステム開発に移行し、システムの要求、分析設計、実装、テストへと作業を進めていくことになります。

羽生田氏:

 今回紹介した“(4+1)×1ビュー”をベースにしたビジネスモデリング手法は、ITシステム開発を行う際の1つの地図作りといえます。自分がどんな目的で、何のためにITシステム化の作業をやっているのかを確認するために活用するとよいでしょう。システム開発段階に移行した後も、このビジネスモデリング手法で策定した戦略マップを振り返りながら、ITシステムを開発する目的と有効性を常に意識していくことで、意味のないシステム開発を防ぐことができるはずです。

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