CGMが切り拓くマーケティングの未来Web 2.0マーケティング・イノベーション(3)(2/2 ページ)

» 2008年06月27日 12時00分 公開
[森田進,ストラテジック・リサーチ]
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リスクリテラシーの重要性

マーケティング効果と裏腹の風評リスク

 Web 2.0の登場以降、Web活用の位置付けは上から下へと一方的に情報が流れる情報発信としてのメディアから、人と人をつなげ、横から横へと情報が流れるコミュニティ・メディアへと変化している。企業マーケティングにとってインターネットが欠かせない大切なメディアになりつつある現在、これまでの情報発信メディアとしてのWebに対する認識は改める時に来ている。従来のように階層的にコミュニケーションチャネルを形成しながらその末端に消費者があるのではなく、消費者同士が「弱い紐帯」を介して横に連携し合ってコミュニティを自然発生的に形成し、影響力を増すにつれ、従来よりも高い水準の顧客ロイヤリティを獲得できるようになってきているのだ。

 ただし一方で、リスク要因も高まっている。その1つとして、これまであいまいに放置されてきた「情報の真実性」という問題が挙げられよう。

 例えば、主にメディア広告を中心に情報を受け取っていた前世代の消費者に比べ、現代の消費者は広告よりも真実に近いと確信できる情報でないとなかなか受け入れなくなってきている。しかしCGMといえど、必ずしも消費者に正確な情報伝達が行われているとは限らない。多くの消費者の意見の中には、顔の見えない無責任なユーザーの誤った口コミ情報も混在していることが多く、ときには企業にとってマイナス評価となるような情報がウイルス伝染のようにあっという間に広がってしまうリスクがある。真実性と裏腹にあるいわゆる「風評リスク」は、いまやどの企業にとっても無視できるものではない。

 Web 2.0時代に入り、横から横へと情報が流れるコミュニティ・メディアが隅々まで浸透しているいま、情報の発信という行為においては、これまでと違った意味で注意を払わなければならない。CGMでは、ちょっとしたことが原因でマイナス評点が与えられてしまい、さらにうわさがうわさを呼んで増幅しながら広まってしまうのだ。口コミ効果やバイラル効果という願ってもないマーケティングの機能は、両刃の剣でもある。活用次第では大きなチャンスを作り出すツールであるが、同時に極めて大きなリスクに転化する可能性もある。CGMでは、ちょっとしたことが原因でマイナス評点が与えられてしまい、さらにうわさがうわさを呼んで増幅しながら広まってしまうのだ。

 こうしたジレンマを無視したり、たとえその口コミ情報(風評や噂)が真実でなかったとしても法に訴えて処理したり、もみ消しを図るなどCGMユーザーを敵に回すような対処をとることは、かえって逆効果になる可能性がある。企業がWebを通じて消費者と接する際には、情報、特に評価にかかわる情報は自らコントロールできないものと認識しておくべきだろう。たとえ風評であっても、握りつぶそうとしない方が賢明だ。

 Web 2.0では、デジタルリテラシーよりもむしろこうしたリスクリテラシーが重要な意味を持つ。リスク対策に当たっては、「謙虚さ」「率直さ」がとても重要になってくるだろう。

消費者はコミュニケーションを求めている

 消費者は「消費という行為」から「生活の質」に関心がいくようになったが、消費者が求めているのは広告のメッセージでもメディアのコンテンツの面白さでもない。「コミュニケーションの充実」と「消費行動の納得性」の方を重視し出している。Web 2.0の浸透以降、その傾向は強まりこそすれ、弱まることは考えられない。興味や関心が顕在化すればいつでも情報にアクセスし、関連する情報だけでなくそうした関心・テーマと連なる何らかのクロスコミュニケーションを求めている。

 Web2.0 を導入する企業にとっての今後の課題は、消費者が求めるコミュニケーションコンテンツに沿ったメッセージの在り方を探索し、そのための対話的な運用システムを整備すること、加えてそうした構造を整備した後のリスク対策であろう。

筆者プロフィール

森田 進(もりた すすむ)

経営・ICTコンサルタント。ストラテジック・リサーチ代表取締役、「産・学・官リサーチセンター」主宰、国際印刷大学校客員教授。バランスト・スコアカード、ITガバナンスをはじめとする各種経営・公共モデルの導入支援、オントロジ工学、セマンティックWeb、Webサービス論の研究および白書監修。そのほか、SaaS、ナラティブ・テクノロジなど多岐にわたって探求を深める。著書に、『新たなビジネスモデルの覇者ASP』『複雑適応系と電子市場・電子取引』、訳書に『Webサイト完全マスター』ほか。論文に「eラーニングと物語論(ナラティブス)」「バランス・スコアカードの発展、枠組みの再構築」ほか多数。

産・学・官リサーチセンター: http://www.x-portals.com/


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