ERPで「見える化」も実現!ERPリノベーションのススメ(3)(2/2 ページ)

» 2008年08月11日 12時00分 公開
[鍋野 敬一郎,@IT]
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視点を変えれば、ERPの活用法はさまざま

 その機能をフル活用している企業はごくわずかですが、ERPには数多くの機能が搭載されています。各機能を少し見方を変えて補完・拡張してみると、実にいろいろな使い方ができます。例えば、需要予測やシミュレーション機能はありませんが、モノの動きをきめ細かく管理把握する機能はあります。プランニング機能やBI機能はありませんが、統合データベースで時系列にデータを管理する機能はあります。

 すでにERPやBIを使っているのなら、紹介事例のように、ETL/EAIを組み合わせるだけで、「モノの見える化」を実現するサプライチェーン・コックピットを、わずか3カ月間で構築できてしまうのです。図1のように、ERPに限らずほかのシステムとも連携して、情報の“水回り”を改善し、あらゆるシステムの機能をいっそう向上させる方法も考えられます。

システム構成を、住宅のリノベーションにたとえると……
図1 水回りを改善するように情報導線を見直し、各システムでデータを再利用する

 ERPをベースにさまざまなシステムを構築する際のポイントは、本当に必要な機能だけにフォーカスすることです。その点、紹介事例では、各拠点におけるモノの所在を本社でリアルタイムに把握できれば良いだけでした。ですから、各拠点におけるモノの情報を集める手段と、これを時系列に統合管理する仕組みさえあればよかったのです。しかも、ERPとBIはすでにあったので、要はデータを確実に収集する仕組みだけが必要だったわけです。

 また、図2のように、ETL/EAIを使って各国の拠点におけるデータベースと連携し、ERPとBIで管理・分析する方法もあります。このようにERPをベースに足りない機能を補っていくことで、コストパフォーマンスの高い情報共有の仕組みをいろいろ考えることができるのです。

図2 ETL/EAIを使って、各国の拠点におけるデータベースと連携し、ERPとBIで管理・分析する方法もある。ERPをベースに、いまあるシステムを使ってデータを再利用する方法を考えてみよう。自社の状況を知り尽くした社内関係者で検討すれば、データや既存システムの活用法はまだまだあるはず

 システムに求める要件を最小限に絞り、今あるシステムを上手く活用する方法を、もう一度考えてみてはいかがでしょう。その際、社外コンサルタントやベンダよりも、業務状況を知り尽くした社内関係者の方が長けているはずです。すぐに外部に頼るのではなく、まずは自社内で有効活用を徹底的に考えてみることをお勧めします。

 なお、ETL/EAIは、高機能なものよりもシンプルで高速なものを選ぶのがポイントです。安価であればなお良いと思います。大容量高速処理が可能であればあるほどその利用価値は高いのです。高機能なものはパフォーマンスや価格面からあまりお勧めしません。

いまあるものを有効に使う「知恵」が不可欠

 企業経営では、ビジネス環境の変化によって経営方針が変わるのは良くあることです。しかし経営方針の変更にあわせてシステムの変更を柔軟に行う企業はまだ多くありません。状況が変わっているにもかかわらず、当初の計画に従って粛々とシステム導入を行っていたり、いまこそ“見える化”しなければならない情報を、レポートに入れていなかったりすることが多いと思います。

 しかし、そうなりがちなのは「システムの変更や改善とは、すなわちリプレースや新規導入のこと」といった固定観念に縛られているゆえではないのでしょうか。創意工夫する姿勢さえあれば、情報システムはビジネスの環境変化に強力かつ効果的に対応する手段として、徹底的に活用できるのです。

 これはある意味、工場などの製造現場と同じです。工場では工作機械や治具に手を入れて、標準仕様では作れないモノもノウハウとアイデアでどんどん作ってしまいます。

 余談ですが、筆者の父はリタイアする以前、中古工作機械販売商社におりましたが、お客さまの評価の高い営業とは、「工作機械を安く売ってくれる人」ではなく、「その機械の標準仕様では作れないものを作っている、ほかのお客さまを知っている人」なのだそうです。

 「最新の機械で良いモノを作るのは当たり前。それよりも、機械を有効活用するための裏ワザを知っていることや、中古機械でも必要なものを作れる知恵を持っている。そんな人を知っていることが、お客様からの信頼と評価に繋がる」ということでした。

 “知恵”の貴重さがうかがえる話です。目的の実現に、必ずしも新しい仕組みを使う必要はなく、むしろいま手元にあるものを再利用する方が良い場合も多いのです。

ERPに限らず、情報システムはもっと“使える”

 日本がモノづくりに関しては世界トップクラスであることに、皆さんも異論はないと思います。しかし「モノづくりのためのシステム活用」については、まだまだトップクラスとはいえないと思います。それはおそらく、システムというモノを上手に再利用することができていないからかもしれません。

 今回、紹介したETLやEAIは、単なる「システムやデータを繋ぐためのシステム」としてではなく、「今あるシステムを再利用、有効活用するための再生手段」という視点でとらえました。ERPも含めて、既存システムや技術には、少し視点を変えるだけで、実に幅広い利用価値があるのです。

 本連載「ERPリノベーション」では、スクラップ・アンド・ビルドではなく、良いシステムを長く、上手に、すり切れるまで使うことを目指したいと思います。

筆者プロフィール

鍋野 敬一郎(なべの けいいちろう)

1989年に同志社大学工学部化学工学科(生化学研究室)卒業後、米国大手総合化学会社デュポン社の日本法人へ入社。農業用製品事業部に所属し事業部のマーケティング・広報を担当。1998年にERPベンダ最大手SAP社の日本法人SAPジャパンに転職し、マーケティング担当、広報担当、プリセールスコンサルタントを経験。アライアンス本部にて担当マネージャーとしてmySAP All-in-Oneソリューション(ERP導入テンプレート)を立ち上げた。2003年にSAPジャパンを退社し、現在はコンサルタントとしてERPの導入支援・提案活動に従事する。またERPやBPM、CPMなどのマーケティングやセミナー活動を行い、最近ではテクノブレーン株式会社が主催するキャリアラボラトリーでIT関連のセミナー講師も務める。


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