追加された「内部統制Q&A」の注意点SOX法コンサルタントの憂い(11)(4/4 ページ)

» 2008年08月29日 12時00分 公開
[鈴木 英夫,@IT]
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評価範囲外から重要な欠陥が発見された場合は?

【問58】発生可能性の低い内部統制の不備

(問58) 重要な欠陥とは、財務報告に重要な影響を及ぼす可能性が高い内部統制の不備であり(基準II 1(4))、内部統制の不備のうち、一定の金額を上回る虚偽記載、または質的に重要な虚偽記載をもたらす可能性が高いものとされている(実施基準II 12ロ)。従って、内部統制の不備について、金額的重要性または質的重要性の要件に該当する場合であっても、重要な虚偽記載の発生可能性が低いものは重要な欠陥にならないと考えてよいか。

(答え抜粋) 内部統制の不備の評価に当たっては、金額的重要性または質的重要性の要件に該当する場合であっても、重要な虚偽記載の発生可能性が低いものは重要な欠陥にならないものと考えられる。

◆筆者の分析

これは微妙ですね。「不備について、金額的重要性又は質的重要性の要件に該当する場合であっても、重要な虚偽記載の発生可能性が低いもの」とは、例えば何を指すのでしょうか?


【問59】影響が発生する可能性と発生確率の関係

(問59) 実施基準では、監査人は、「(業務プロセスに係る内部統制の不備がどの勘定科目にどの範囲で影響を及ぼすか検討し、)検討された影響が実際に発生する可能性を検討する。その際には、発生確率をサンプリングの結果を用いて統計的に導き出すことも考えられる」(実施基準III 4(2)4ロ)という記載があるが、この場合の「影響が実際に発生する可能性」と「発生確率」は同義ととらえてよいか。また違う場合は重要な欠陥とはどのような関係にあるのか。

(答え抜粋) 「発生確率」は「影響が実際に発生する可能性」を考慮する際の判断要素の1つではあるが、必ずしもそれに限定されるものではないと考えられる。例えば、「発生確率」が高い場合であっても、検出された例外事項の大きさ・頻度、原因、ほかの内部統制との代替可能性に留意して、リスクの程度を把握した結果、「影響が実際に発生する可能性」が低いと判断されるときには、重要な欠陥に該当しないと考えられる。

◆筆者の分析

これが、前問58の例になっているかもしれません。


【問61】複数の勘定科目における不備

(問61) 実施基準において、「集計した不備の影響が勘定科目ごとに見れば財務諸表レベルの重要な虚偽記載に該当しない場合でも、複数の勘定科目に係る影響を合わせると重要な虚偽記載に該当する場合がある。この場合にも重要な欠陥となる。」(実施基準II 3(4)2ハ)との記載があるが、この複数の勘定科目に係る影響を合わせると重要な欠陥に該当する場合とは、具体的にはどのような場合が想定されているのか。例えば、評価範囲に含まれない福利厚生費に係る不備の影響も合算しなければならないのか。

(答え抜粋) 例えば、1つの勘定科目が業種などの特性によって、2つの勘定科目に分割されていると考えられるような場合には、重要な欠陥の判断に際して、実質的に1つの勘定科目として評価することが適当であり、そうした場合には、複数の勘定科目に係る影響を合わせて重要な虚偽記載に該当するかを判断することになるものと考えられる。

◆筆者の分析

海外の子会社など、国によって勘定科目が決められていて、連結のときにはそれを親会社の勘定科目に読み替えたり、合算したりする作業をする例などが当てはまります。


【問63】経営者が評価結果を表明しない場合の監査上の取り扱い

(問63) 経営者は、必要な評価範囲の内部統制の評価手続を完了できず、その影響が重要である場合には、評価結果を表明できないと考えるが、そのような理解でよいか。このとき、評価を実施した範囲において、重要な欠陥が判明している場合には、当該重要な欠陥の内容などを内部統制報告書に記載すべきか。

なお、この場合には、監査人は、重要な監査手続きを実施できないため、監査報告書において意見を表明しない旨を記載することになるのか。また、当該重要な欠陥については監査報告書において追記情報の記載をすることになるのか。

(答え抜粋) 経営者が評価を実施した範囲において、重要な欠陥を識別している場合には、財務報告に係る内部統制が有効でないことは明らかであることから、内部統制報告書において、実施できなかった評価手続きおよびその理由を記載した上で、「重要な欠陥があり、財務報告に係る内部統制は有効でない旨、およびその重要な欠陥の内容およびそれが事業年度末日までに是正されなかった理由」(基準II 4(5)3)を記載することになる。

◆筆者の分析

これは、事前の予想どおりです。


【問67】評価範囲の外から重要な欠陥が発見された場合の取り扱い

(問67) 経営者は、基準および実施基準に準拠して決定した評価範囲について評価を実施したが、内部統制報告書を提出した後に、結果的に、当該評価範囲の外(例えば、その売上高が連結ベースの売上高のおおむね3分の2程度に入らない連結子会社)から重要な欠陥に相当する事実が見つかった場合には、内部統制報告書に記載した評価結果を訂正しなければならないのか。また、この場合、監査人が内部統制監査報告書において無限定適正意見を表明していたときには、監査意見も訂正しなければならないのか。

(答え抜粋) 1.経営者が、基準および実施基準に準拠して決定した評価範囲について評価を実施している場合においては、内部統制報告書を提出した後に、結果的に、評価範囲の外から重要な欠陥に相当する事実が見つかったとしても、内部統制報告書に記載した評価結果を訂正する必要はないと考えられる。

(注)実施基準では、重要な欠陥の判断指針(例えば、金額的重要性として、連結税引前利益のおおむね5%程度)は、不備が重要な欠陥に該当するか判断する際に用いられるものであり、評価対象とする業務プロセスを決定する際に用いる指針として示したものではないことに留意する必要があるとしている(実施基準II 1 2)。従って、例えば、連結ベースの売上高などのおおむねね3分の2程度に入らない連結子会社の売上高などが重要な欠陥の判断指針である連結税引前利益のおおむね5%程度を超えたことをもって、直ちに当該連結子会社の業務プロセスを評価対象に追加することは求めていない。

2.また、この場合において、監査人は、内部統制監査報告書において無限定適正意見を表明していたとしても、監査人の監査意見を訂正する必要はないと考えられる。

3.なお、当該重要な欠陥に相当する事実が見つかった事業年度においては、評価範囲の決定に際して、当該事象に十分留意する必要があるものと考えられる。

◆筆者の分析

これは、1つ安心できる材料ですね。売上高の3分の2に入らない連結子会社を監査する監査法人から「重要な欠陥の指摘」があることも予想されますから、その際には、このQ&Aを“葵の御紋”として使えるようになりました。


結局これだけでは安心できない

 ここまでいろいろ書きましたが、実はまだ安心できません。

 日本公認会計士協会は、「監査・保証実務委員会報告第82号−財務報告に係る内部統制の監査に関する実務上の取扱い(平成19年10月24日)」という文書で、会員の公認会計士の監査を縛っています。この取り扱いは、「実施基準」や「Q&A」よりも厳しい内容となっているので、企業の日本版SOX法担当者泣かせです。

 例えばQ&Aでは、「監査人は、経営者が評価において選択したサンプルを利用する場合において、経営者が評価において選択したサンプル以外に、必ず、別のサンプルを抽出しなければならないということはない」としていますが、会計士協会の取り扱いでは、「内部監査の利用については、企業が実施している内部監査の状況を評価すること」が求められています。

 また、評価に際して検討すべき内容については、監査基準委員会報告書第15号「内部監査の実施状況の理解とその利用」に準拠することが適切と考えられており、内部監査が利用可能であると結論付けた場合でも、次の事項に留意することを求めています。

  1. 監査人は自らの監査意見について責任を負うものであり、その責任は内部監査を利用することによって軽減されるものではない
  2. 内部監査から間接的に入手した監査証拠は、監査人自身が同様の監査手続きを実施することにより直接入手できる監査証拠よりも監査証拠としての証明力が弱い

としています。つまり、実施基準やQ&Aで金融庁の考えが発表されても、実際に監査をする監査人が日本公認会計士協会の考えを優先する可能性があるのです。この点に注意が必要でしょう。

Profile

鈴木 英夫(すずき ひでお)

慶應義塾大学経済学部卒業、外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務める。

2004年から、同社のSOX法対応プロジェクトコーディネータ。現在は、フリーのSOX法・日本版SOX法コンサルタント。プランナー・オブ・リスクマネジメント、内部監査士。神戸商工会議所登録エキスパート。

著書:「図解日本版SOX法」(同友館、共著)

近著:「日本版SOX法実践コーチ」(同友館、共著)

連絡先: ai-risk330@jttk.zaq.ne.jp

Webサイト:http://spinel3.myftp.org/hideo/ai-risk.htm


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