顧客の膨らむ要望にいかに対処すべきかやる気を引き出すプロジェクト管理(6)(2/2 ページ)

» 2008年09月04日 12時00分 公開
[安達裕哉トーマツ イノベーション]
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機能を捨てさせる

 本プロジェクトで「やる」ことが決まれば、次は「顧客に機能を捨てさせる」ことを考えなくてはなりません。

 なぜならば、たいていの顧客は「機能はあればあるほどよい」と思うことが多く、システムは「結果として役に立たない機能が満載」になる可能性が高いからです。

 また、役に立たない機能で、しかも技術的には難しいことの実装が重なると、プロジェクトに大きな支障をきたします。

 では、どのようにすれば「顧客に機能を捨てさせる」ことができるのでしょうか。ここで重要なのは、「その機能を捨てさせるためには、一段上位から考える」ことです。

 下の図1を見てください。

ALT 図1 その機能が本当にシステムに必要なのかは、一段上位から考えると判断しやすい(出所:トーマツ イノベーション)

 全体の中での割合や変化率によって、次のように考えるべきなのです。

1%未満→ ないものとして考える
5%程度→ あるものとしてとらえるかを検討
10%以上→ あるものとして考える

 例えば、「ある帳票が追加で必要である」との要求が顧客からあったとします。この場合、帳票の必要性の是非についてのみ議論すると、「この帳票を使う人はいる」「いや、それでも使う頻度は少ないはずだ」などと、話がまとまりません。

 そこで、「このサブシステムにはこの帳票が本当に必要か」と、問題を一段高いところから眺めることで、「実は、ほかの帳票で代用可能だ」「ほかの帳票と比べて、優先度が低いので後回しにしよう」など、顧客に冷静に判断してもらうことが可能になります。

 さらに、「いま議論している対象の重要度はどのくらいか」を判断するための枠組みとして、1・5・10ルールというものがあるのです。

 顧客がなかなか要求を捨ててくれない場合、「全体の中で、使用(出現)頻度は何%くらいですか?」と聞いてみてください。1%以下であれば、顧客も捨てることをためらわないはずです。逆に、10%以上の場合、この要求をのまなければ後で大問題となる可能性が高く、要求を採用すべきであるといえます。

明文化と合意

 さて、ここまでくれば、要求の明文化と合意は目前です。しかし、ちょっと待ってください。最後に大事なことがあります。それは「変更管理をきちんと行う」ことです。変更管理が正確に行われていなければ、せっかくの努力が水泡に帰してしまいます。

 下には変更管理の一般的手順を示します。この中で最も大切なのは、「変更要求の評価」と「変更要求の認可」です。すなわち「この変更は重大な変更なのか」「この変更は誰が許可するのか」を判断できるようにしっかりと手順にしておくことです(図2)。

ALT 図2 このように、変更要求に対して手順をきちんと定めておくことは重要である(出所:トーマツ イノベーション)

 小さな変更であれば、現場の判断でも問題ないかもしれませんが、大きな変更であれば上長や責任者に判断を仰ぐ必要があります。この選択を間違うと、最後に「鶴のひと声」で仕様がひっくり返ることがあるのです。

 変更管理の重要性を認識することが、明文化と合意の鍵となることを、忘れてはいけません。ここまでのプロセスをまとめると、次のような図3になるでしょう。

ALT 図3 要件定義の概要はこのようになっており、下位のあいまいな要求をいかに上位の明確な要求へとしていくか、この過程が用件定義ともいえる

筆者プロフィール

安達 裕哉(あだち ゆうや)

トーマツ イノベーション株式会社 シニアマネージャ

筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。



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