超短期開発を支える7つのエッセンスエクスプレス開発バイブル(1)(3/3 ページ)

» 2008年09月22日 12時00分 公開
[西村泰洋(富士通),@IT]
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「どうすればやれるか」、家造りは顧客起点の文化

 さて、“家造りの文化”とシステム開発を対比してみると、前者における7つの特徴が、そのままシステム開発の反省点、改善点として、生かせそうなことが理解できたのではないかと思います。システム開発に適用するために、もう一度、簡単にまとめておきましょう。

システム開発に適用すべき、“家造りの文化”のエッセンス

 提案と選択
顧客の要望をイチから聞き出すのではなく、既存の案件や事例を提案し、選択してもらう
専門性
システム開発はもちろん、顧客企業の業務についても深い知識を持つ“プロフェッショナル”として接する
誰もが分かるドキュメント

説明は写真やイラストを中心的に使い、文字は付加情報として使う。顧客にとって必要な情報以外は最小限の説明にとどめる
現場討議を基本とする

システムを使って作業を行う“業務の現場”に実際に出向き、進捗などを打ち合わせする
全員参加型

重要な打ち合わせには、プログラマやエンドユーザーも含めて、主要メンバー全員が参加する
モジュール化
モジュール化を進める。目的のシステムを開発するうえで、顧客が“部品”として認識しやすいモジュールをそろえる
徹底した顧客起点〜どうすればやれるかの文化〜
コストやリスク面で顧客の要望と折り合わなくとも、「どうすればできるか」徹底的に考える

 これら7項目は“スピーディかつシンプル”なシステム開発のコツ、すなわち「SEやプログラマにとって、無駄がなくシンプルな手法」であり、「顧客からみても、シンプルで理にかなっている」開発を実現するためのポイントとなります。“家造りの文化”でシステムを開発するとは、まさしくこれらを実践することなのです。

 特に最後の「徹底した顧客起点」は重要です。筆者の家造りの経験でも、「駐車スペースに石を敷いて石畳風にしたい」と建築業者に依頼をしたところ、提示されたコストが予想に反して高かったため断念しようと思いました。しかしその意思を告げたところ、建築業者から「カラーセメントを敷いてから石のような模様をつける方法もありますが、いかがですか?」という提案をもらい、コストもかなり下がったのでそれを採用しました。

 最近のシステム開発の現場では、損益が悪かったり、リスクが高い案件に関しては、「お断りする」、または「降りる」ということをたびたび耳にします。特にこの傾向は大手ベンダほど強くなっていると思います。しかし、仮に条件が厳しくとも、顧客起点に立っていれば、まず「どうすればやれるか」を考え、簡単に降りるようなことは避けられるはずです。

 ここに紹介した7つの特徴は、家造りに限らず、さまざまな業態に通じる顧客対応の鉄則であり、顧客と事業者をつなぐ汎用的なアプローチともいえます。つまり、冒頭で申し上げたように、システム開発といっても、基本的なセオリーはビジネス一般と何ら変わることはないのです。むしろ専門性が高い業務であるだけに、常に基本を省みる姿勢が大切なのかもしれません。

開発手法は他山の石?

 今回は“家を造るようにシステムを開発する手法”は実際に活用できることと、そのための7つのポイントを紹介してきました。

 ちなみに、筆者はこれら“家造りの文化”を取り入れた開発手法を、通常のウォーターフォールと区別する意味で“エクスプレス開発手法”と呼んでいます。「エクスプレス」の由来は、特急のようなスピード感と、以前在籍していた日本通運(NIPPON EXPRESS)のEXPRESSを掛け合わせたもので、筆者が命名しました。

 実は、日本通運で物流の業務とシステム構築に携わっていたときには、これがごく一般的なやり方だと思っていました。もっといえば、「開発手法」であると認識したこともありませんでした。ただ、冒頭で紹介した外資系企業との事例のような、短納期の開発案件が頻発していたため、それに答えるべく、“家造りの文化”をヒントに活用できる部分は最大限取り入れ、短納期化を図り続けてきただけなのです。ですから、筆者が勤務していた日本通運の方々と話していても、エクスプレス開発手法を「開発手法」ととらえている人はいません。

 しかしその後、通常のウォーターフォールに触れるにつれて、「決して一般的ではない」ことが分かってきました。そこでノウハウを改めて整理し、エクスプレス開発手法と命名してみたのです。結局、開発手法とは現場の必要に迫られて、自然と編み出されるものなのかもしれません。それゆえに、複数の異なる手法を経験してみなければ、「開発手法」として認識できないものでもあるのかもしれません。

 従って、次回からは“家造りの文化”のエッセンスをどうシステム開発に生かしていったのか、皆さんが追体験できるよう、事例を通じて具体的に解説していきます。それによって、日々、あらゆるイレギュラーが発生する現場のニーズに答えられるような、現実的なヒントを提供していきたいと考えています。CIOなどの経営幹部、システム開発に携わっている方、ITビジネス関係者の方、またビジネスのやり方を変えてみたいという方々など、より多くの皆さんにとって参考になれば幸いです。

筆者プロフィール

西村 泰洋(にしむら やすひろ)

富士通株式会社 マーケティング本部フィールド・イノベーションプロジェクト員。物流システムコンサルタント、新ビジネス企画、マーケティングを経て2004年度よりRFIDビジネスに従事。RFIDシステム導入のコンサルティングサービスを立ち上げ、数々のプロジェクトを担当する。@IT RFID+ICフォーラムでの「RFIDシステムプログラミングバイブル」「RFIDプロフェッショナル養成バイブル」などを連載。著書に『RFID+ICタグシステム導入構築標準講座』(翔泳社/2006年11月発売)などがある。


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