ベトナム人との違いを受け入れ、先入観に気付こう世界のオフショア事情(7)(3/3 ページ)

» 2009年05月25日 12時00分 公開
[霜田寛之,Global Net One株式会社]
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先入観や前提の違いを認識する習慣をつける

 オフショア開発とは、違う国の会社にシステム開発を発注することをいいます。つまり、他国の人と協業することを意味します。

 「そんなの当たり前じゃないか」と怒られそうですが、私たちが普段の生活で外国人と接するときは先入観を持って考える癖があり、それを意識する必要があります。

 日本である大学が留学生寮を建てようとしたところ、周囲の住民から苦情があったそうです。「留学生がいると犯罪の危険性が高まる。もし建てるのであれば、建物の周りにフェンスを張り、いつでも出入りが分かるように、常に明るく建物を照らしておいてほしい」と。

 それぞれの国を代表するような頭脳の持ち主である留学生が来る場所だというのに、まるで拘置所のような扱いです。この例は「外国人=犯罪を犯す」という思考です。「そのようなおかしいことがあるのか」と感じられるかもしれませんが、意外と当事者になってしまうと分からないものです。

 逆に、例えば日本語が流暢(りゅうちょう)な在日留学生がいたとして、その人に「私はあなたを日本人と思って接します」という一見思いやりのある言葉をかけたとしても、それはそれぞれの国の固有性を否定する意味にもとられかねません。

 外国人介護士の受け入れ開始に代表されるように、開かれた国になるにつれ、生活の中でも多様な人種と共生していく必要性が高まってきます。日本人としては、個人個人の認識を高め、外国人とのよりよい付き合い方が求められてきます。

 以下の例は、考え方の違いを認識できていなかった例です。

ALT ベトナムのIT企業の様子

 あるベトナム人が来日するということで、成田空港から連れてきたときの話です。彼女にとっては初めての先進国です。ベトナムでは歩行者が道路を横断するのに、信号を使いません。バイクと車の流れにゆっくりと突っ込むことで、向こうが避けてくれます(車はあまり避けませんが……)。

 日本にいたために、そのベトナムの習慣を意識していませんでした。そして、赤信号で私だけが立ち止まりました。しかし、当然日本の習慣を知らない彼女はどんどん歩いて、車が走る道路に向かっていきます。危うく難は逃れましたが、この件は私の認識不足と、「周りの人がみんな立ち止まっている赤信号なので、彼女も立ち止まるだろう。いわなくても分かるだろう」といった私の無意識的な判断があったに違いありません。

 また、「メーリングリストの機能を実装したい」という日本側の要望に対して、ベトナム側では違った機能の見積もり(と実装の開始まで)をしてしまったことがありました。

 なぜなら、日本でのメーリングリストとは「グループ加入者全員が相互にメールを送信しあうもの」という定義が一般的ですが、少なくとも英語ではそのほかに、いわゆるメールマガジンのような意味もあります。そのメールマガジンの機能として、見積もりを提出してしまったのです。しかし、これはどちらかというと言葉の問題であるため、問題の根は浅いといえます。

 こういった表面的な行動に現れる違いは比較的認識しやすいのですが、考え方の違い、先入観などはなかなか気付きにくいものです。

 例えば日本に1度も来たことのない外国人になりきります。または、プログラム内部の知識の少ないテスト専門要員になりきります。次に、ゼロベースでいろいろな疑問を持って読み返してみます。「少し不自然な処理方式だけど、なんでこの仕様になったのだろう?」「例外的なものは見過ごされていないだろうか?」「この仕様の目的は何だろうか?」と。自著『標準テキスト オフショアプロジェクトマネジメント【SE編】』(技術評論社)でも、コミュニケーションや仕様書の伝達方法について、可能な限り多くのチェックリストを盛り込みました。

 その際の注意点ですが、もちろん話の簡略化のためや、個々の人について場合分けして考えられない場合、それにその国独自の文化や宗教などが大きな影響を与える場合に、大まかなくくりの中で「○○人はこうだ」ということもあります。

 しかし、多くの場合は「(その人の意見では)○○人はこうである(傾向がある)」というくらいに考えた方がよいでしょう。それが事実なのか、意見や推測なのかも判断が必要です。本連載を読む際もまた例外ではありません。

これからのブリッジSE像

 数千人規模の有名中国IT企業のエース級ブリッジSEであるS氏は、オフショア受託側のブリッジSEの将来像をこのように語ります。

「これからのブリッジSEの定義自体が変わっていくと思っています。いまのブリッジSEの役割は、プロジェクトの橋渡しをし、プロジェクトマネジメントもします。単純な通訳だけではなく、難しい仕事です。ただし、日本で数年間仕事をして、日本語を話せるようになり、そして中国・インド・ベトナムなどの祖国に帰ってオフショア側のチームメンバーとなる人が、これからより増えていきます。そうすると、遠隔地間の言葉の問題は、だんだんと少なくなっていくのではないかと思います。そうなると、そのプロジェクトごとの橋渡しだけではなくて、もっといろいろな役割に拡大していった方がよいと思っています。つまり、プロジェクトにおける橋渡しではなく、日本の会社と中国の会社の橋渡しとして、例えば発注量の調整や発注量を増加していただけるような話し合いをしたり、いろいろな案件の状況や意見を聞き出したりといったことまでする、ということです。また、離れた場所にいるだけでは非常に難しい範囲までを担当し、ビジネス全体の拡大の推進役となる、ということを意味します。もちろん通常の案件ごとのブリッジ業務もできたうえでの話です」(Global Sourcing Review、2009年2月号、オフショア大學刊)

 どこまでも前向きで上昇志向の旺盛な、オフショア側人材の代表的な性格です。

 彼の能力からいくと、彼自身は何でもできるスーパーマン的な立場になれる可能性は十分にあります。また、現在のブリッジSEの業務を、より多くの人にこなせるようになるであろうことが言及されています。

 ベトナムも含め、オフショア受託側の国では、日本向け人材の教育に非常に熱心に取り組んでいます。そのため、高級人材も年月を経るに従って、増加していくことでしょう。

 ただし私は、ベトナム・中国などのオフショア受託国では、10年後も経験の浅い初級プログラマ層が、いまと同様に大量にいると考えています。

 もちろん高級人材は増えていきますが、初級プログラマが学校から輩出されるスピードが何倍も勝っています。であれば、10年後もやはりオフショア側の初級プログラマとの仕事をいかにうまくできるか、という日本側の課題も存在しているでしょう(とはいえ高級人材も育つので、いまとは少し違った形態になる可能性があります)。

 従って、受託側の国と日本の、双方の人材が成長することで、より高いレベルの形態に成長していくことができると考えています。

筆者プロフィール

霜田 寛之(しもだ ひろゆき)オフショア大學 講師

Global Net One株式会社代表

日立ソフトにおいて、ベトナム最大手ソフト開発企業とのブリッジSEとしてオフショア開発プロジェクトに参画。現地ベトナム人の人間性の体験や優秀なエンジニアたちとの出会いを通してベトナムの可能性と魅力に取りつかれ、Global Net One株式会社を設立。

ベトナム活用のメリット、注意点をより多くの日本企業とシェアしてオフショア開発を成功に導くために、ベトナムに特化したオフショア開発コンサルティングやオフショアベンダ情報の提供と選定支援、ベトナム進出サポートなどを行う。

オフショア大學ではプロジェクトへの影響要因としてのベトナムの地域特性、文化特性について教鞭(きょうべん)を執る。

 ベトナムIT企業総合マッチングサイト:http://outsource2-vietnam.net/

 Global Net One株式会社:http://www.globalnet-1.com/j/

 オフショア大學:http://www.offshoringleaders.com/


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