仮想化最大の利点はビジネスのスピードアップ──パイオニア特集:実用フェイズに入った仮想化(5)(2/2 ページ)

» 2009年09月18日 12時00分 公開
[内野宏信,@IT情報マネジメント編集部]
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運用管理を効率化し、コストメリットを最大化する

 そうした仮想化のコストメリットを生かすために、さまざまな工夫も施している。例えばストレージ運用の効率化だ。同社では複数のサーバで1つのストレージを共用するストレージ専用ネットワーク、SAN(Storage Area Network)を構築・運用している。ただ、SANとサーバを接続するための高速なデータ転送方式、ファイバチャネルには高額な専用ケーブルが必要となる。

 そこで「BtoBシステムのように、高パフォーマンスが要求されるシステムならファイバチャネル経由で、社内システムなど比較的重要度の低いものなら、従来のIPネットワークが使えるiSCSI経由で、といった具合に、システムの重要度に応じて両者を使い分けている」(中村氏)

ALT 「仮想化のメリットを享受するためには、すべての面にコスト意識を徹底させるべき」と語る小澤氏

 また、Linuxを使ってきたことを受けて、従来から使用しているNTTデータのオープンソース運用管理ツール「Hinemos」を仮想環境にも対応できるようカスタマイズした。「1つのホストOS上で、どの仮想サーバ、どのアプリケーションが稼働 しているのか」ツリー状に可視化する仕組みを低コストで構築した。これにより、仮想マシンのリアルタイムでの移動、稼働停止、新規立ち上げ、リブート、バックアップまで、すべてをGUIでコントロールしている。

 小澤氏は、「仮想化のコストメリットを生かすために、運用管理製品も総所有コストの安いオープンソースの製品をベースに、必要な機能だけをそろえることを考えた。仮想化のメリットはビジネスのスピード向上とコスト削減。単に導入するだけではなく、すべてにおいて“無駄を作らない心掛け”が大切だ」と指摘する。

適切なリソース管理が、仮想化のメリットを引き出す

 これを受けて中村氏は、「仮想化技術を賢く活用するためには、リソースの一元管理体制の確立と、管理者の技術力・知見が不可欠だ」と力説する。同社の場合、小澤氏のチームが仮想環境を一元管理し、仮想サーバやアプリケーションなどの構成をすべて把握しているほか、新規システムの構築案件についても、どの程度のリソースを用意するか、最終的な判断は小澤氏が行っているという。

 「仮想サーバを簡単に用意できることは、仮想化の長所であり欠点でもある。ユーザーが自由にサーバを用意できるようでは、即サーバの乱立につながる。リソースを有効活用し、コスト削減につなげられるか否かは、ホストサーバの管理者の判断にかかっている」(中村氏)

ALT 「仮想化技術の導入後も、きめ細かくリソースを管理しなければメリットが半減してしまう」と語る中村氏

 例えばシステムを新規構築する際、従来はストレージに20Gbytesのリソースを使っていたとしても「機能要件を考えれば10Gbytes でも十分」といった場合もある。逆に、ユーザーから「パフォーマンスが出ない」といった相談を受けることもある。

 「そうした際、大雑把にリソースを割り当てるのでは仮想化した意味が半減してしまう。リソースの全容量を把握し、最適な配分を考えなければ、リソースの有効活用もコスト削減もできない。また、最適な容量を判断するためには、アプリケーションとシステム基盤、両方に対する知見と技術力が必要だ。すなわち、一元管理体制の下、きめ細かなマネジメントができるか否かが仮想化のメリットを引き出す最大のポイントといえる」(中村氏)

仮想化対応製品の発展に期待

 同社では今後も管理体制を強化しつつ、仮想化技術を有効に使っていきたいという。例えば現在、仮想サーバを稼働させながら瞬時に別の物理サーバに移動させられる「Live Migration」機能を物理サーバのメンテナンスに利用しているが、仮想化技術はディザスタ・リカバリについても実現手段の候補になりうるとみている。

 仮想化関連製品に対する期待もある。例えば同社では以前からIBMのAS/400を使用し、マイクロコードを使って1つのCPUリソースを論理的に区分することで、複数のOSを起動可能とする仮想化技術「LPAR(Logical Partition)」を使ってきた経験を持つ。これを受けて中村氏は、「LPARの信頼性・安定性を知っているユーザーも多いことを考えれば、x86チップがリソースを分割するためのマイクロコードを持たないことは、仮想化技術が浸透するにつれて課題とみられていくのではないか。ハードウェアに限らず、今後、より本格的に仮想化技術に対応した製品が登場してくると、活用の可能性は大きく広がるはずだ」と分析する。

 中村氏は、「仮想化技術はこれから本格的な活用が始まる分野。無償のソフトウェアも存在し、コストを掛けずに有効な使い方を研究することもできる。弊社としても仮想化の可能性を探り続けていくが、導入企業が増えるにつれて、より効果的に活用できる環境がさらに整っていくはずだ」と、今後の展開に期待を寄せる。

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