ITリーダーは“未来へ向けたビジネス基盤”を創出せよガートナーと考える「明日のITイノベーターへ」(1)(2/2 ページ)

» 2011年07月01日 12時00分 公開
[@IT情報マネジメント編集部,@IT]
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クラウド時代、IT部門は革命家になれなければ消滅の危機も……

三木 ただ、話を現在の状況に戻しますと、日本企業の戦略的なIT活用が遅れているとはいえ、ここ1〜2年で企業のITインフラに仮想化技術がこれだけ導入されたというのは、これはこれで大きな進歩だと思います。

「クラウドの浸透とは、言い換えれば“IT部門に対する潜在的な不満を解消してくれる可能性”を、ユーザーがクラウドに見い出している、ということなのでは?」――三木泉

亦賀氏 確かにそうですね。しかし一方で、仮想化の次のフェイズ、すなわちプライベート・クラウドへの移行が見えていない企業も多いように思いますね。そもそも「クラウドとはいったい何で、それを使って何を目指すべきなのか」ということが分かりにくいのだと思います。

 例えば、クラウドの中にIaaS(Infrastructure as a Service)がありますが、これは単に仮想化されたインフラではなく、サービスとしてITリソースを提供するものです。しかし、ここで、そもそも「サービス」の概念を理解できていない人がまだまだ多いと言えます。私はそういう方には、「とにかく本物と思えるパブリック・クラウドのサービスを一度使ってみてください」とアドバイスしています。そうすると、まずは、だいたい「ああ、こういうことができるものなんだな」ということを理解していただけると思います。インターネットが世の中に登場した時も、書籍などだけを読んでもほとんどの人がインターネットが何か理解できなかった。実際に使い始めて、理解が進んだと考えられます。クラウドも同様であると考えます。

三木 体感してみればおのずと分かる、というわけですね。一方で私は、クラウドがクローズアップされた背景には、企業ITのエンドユーザーに「IT部門の存在意義があまり理解されていなかった」という事情もあるような気がしています。何か頼んでも、なかなか対応してくれない、案件の優先順位を盾に取って、なかなか動いてくれない――ユーザーは、こうしたIT部門に対する潜在的な不満を解消してくれる可能性を、クラウドに見い出しているのではないでしょうか?

亦賀氏 そうですね。その点を考えると、企業のIT部門にとって、クラウドサービスはある意味脅威になる側面はあるでしょう。従って、これからプライベート・クラウドを目指す企業のIT部門は、一種のサービスプロバイダになるわけです。そして、サービスプロバイダとしてのIT部門が、ユーザーニーズに合わせて、パブリック・クラウドやプライベート・クラウド、あるいは両方を併用したハイブリッドな形態でサービスを提供していくわけです。

 ただし、ユーザー部門や経営層は常にIT利用コストの削減を追求しますから、コスト削減だけをやり続ければ「もうIT部門は要らないのではないか」ということにもなりかねません。ですから、これからのIT部門は、コスト削減だけではなく、企業の成長や革新を達成するための“武器としてのIT活用”を実現する「革命家」のような役割を目指すべきと考えています。

三木 そうした“革新”は情報活用が一つの鍵となるわけですが、そう言えばガートナーさんも最近、「ビッグ・データ」という考え方を打ち出されていますね。社内に蓄積されたトランザクションデータだけではなく、社外に存在する膨大な量のデータも収集し、迅速に処理・分析することで、「ビジネスのあらゆる局面における意思決定を効率化・高度化しよう」というコンセプトだと理解していますが、これはもう少し具体的に言うとどういうことなのでしょうか?

亦賀氏 この「ビッグ・データ」とは、大げさに言えば「世の中にあるデータ全て」を駆使してビジネスに役立てるということです。単に社内にある業務データを活用しましょうというレベルとはスケールも内容も異なります。「世の中にあるデータ」とは、例えば「TwitterやFacebook、その他ネット上に存在するさまざまなデータ」をも含みます。要するに「世の中に存在し、リアルタイムに生まれ消えていくデータ」のことです。

 コンピュータがかつてない性能とキャパシティを獲得した今、「ビジネスを経験や勘だけで進めるのではなく、データを駆使することで、ビジネスをより包括的かつ論理的に捉えられ、今まで以上に、より迅速に正しい判断ができるのではないか」といったことが業界で議論され始めています。世の中の不透明感が増している昨今、過去の経験や勘だけにもはや頼れなくなっていることも、こうした議論の機運を高める背景にあると言えます。これは、“社内にあるデータと既存業務と安価なITの組み合わせ”の議論ではありません。“時代に即した発想ややり方でグローバルビジネスで勝ち抜く”ための議論であると言えます。

クラウド時代、ITインフラには無限の可能性が満ちている

三木 ところで、亦賀さんのご専門はITインフラですが、最近「ITインフラはすべてクラウドサービスに移行してしまうのではないか?」という声をちらほら聞くようになりました。そうした見方も踏まえて、企業のITインフラが担う役割は、クラウドの登場によって今後どう変化していくと思われますか?

亦賀氏 先ほどもお話ししたように、これからはテクノロジがビジネスを駆動する時代であると考えられます。これはすなわち、ITインフラがビジネスを駆動するということでもあります。

「クラウド全盛時代になれば、ITインフラは既存のビジネスの範囲を超えていくこともできる。ITインフラがけん引する形で、新たなビジネスが生まれてくる可能性もある」――亦賀忠明

 ITインフラの上に人、モノ、金に関するすべての情報が載ることで、企業全体を支える重要なビジネス基盤になるわけです。グローバルビジネスを展開していく上では、こうしたインフラは必須になります。

 さらにパブリック・クラウドの技術を使えば、ITインフラは既存のビジネスの範囲を超えていくこともできます。従って、ITインフラがけん引する形で、業界の垣根を超えた新たなビジネスが生まれてくるかもしれません。

三木 そうした考え方を発展させていくと、「企業のITインフラを社内に持たなくてもいいではないのか、すべてが社外にあってもいいのではないか」という考え方も出てきます。

亦賀氏 確かに、10年後ぐらいにはそういう考え方が主流になっているかもしれません。ただし全てのITインフラを社外に置くとなると、競合他社との差別化が図りにくくなります。全ての企業が全て同じ武器を持って戦うということはあり得ますが、いつの時代でも、それを超えようとする人々は現れます。完全に丸投げといった発想では、いざ、競争の軸が変わった際に、対応できなくなってしまいます。企業は「丸投げは企業の生命線に関わる問題となる可能性がある」ことを常に忘れてはなりません。そもそも企業は優秀な人材を採用しているはずですから、こうした人たちに、より企業競争力を付けるための仕事をしてもらうことは、経営者として当たり前のことです。

「持つか、持たないかという二元論ではなく、やはり目的に応じて使い分けるのが現実的だ。例えばシステム間の情報連携も社内にシステムを持っていた方が早く済む」――三木泉

 このことからすれば、クラウドについては、企業は「全てを社外に」といった安易な発想をやめ、自ら競争力を高めるための実践を行う必要があります。日本では誤解されているようですが、欧米では、丸投げ的なパブリック・クラウドよりも、自らクラウドの基盤を作りサービス提供するプライベート・クラウドの方に投資しようとするユーザーが多い状況です。一方、ここでは二者択一の議論ではなく、双方があることを前提に、社内のプライベート・クラウドと社外のパブリック・クラウドを目的に応じて使い分けてITインフラを構築するのが現実的だと思います。

三木 そうですね。異なるシステム間で情報の連携を図る場合にも、社内にITインフラを保有している方が迅速に対応できますしね。

亦賀氏 結局、文房具のようなツールとして使われるITなら、どんどん社外に出してもいいという発想は理解できますし、妥当であると考えます。しかし、ITを経営の武器としてとらえた場合は、社内に置くか、社外に置くかは慎重に検討する必要があります。全ての武器を外から調達して戦争を戦っていては勝ち目はないでしょうし、かといって全てを社内で調達するのでは投資がかさみます。いい武器があっても使う人にそれを使う能力がなければ、宝の持ち腐れとなってしまう。その辺りのバランスを取る必要がありますし、最終的には自分たち自身で、「自社の戦いには、どのような武器が必要なのか」を考えていくことが最も大事です。

三木 最後に、次世代のITやビジネスを担う若い読者の方々に向けて、今何に注目し、どういうことを考えていくべきか、提言をいただければと思います。

亦賀氏 日本では往々にして、細かいことにこだわりすぎて、そしてその細かいことを達成したことで満足してしまうように思います。でも特に若い方々には、もっと大局的な観点から物事を考えてほしいと思います。

「エンジニアは、今まで誰も考え付かなかったことを考えよう。技術は後から付いてくる」――亦賀忠明

 私は、エンジニアは夢を形にする人たちだと思っています。逆に言えば、そうであれば、まずはエンジニアは夢を持つべきでしょう。これからのグローバル時代では、新しいことにチャレンジする起業家精神が重要になってきます。

 今目の前にあるものだけを見て、今あるビジネスの要請に応じて言われたものを作っているだけでは、これからは通用しません。大変化が起こっている昨今、業務の人が全てを知っているかどうかは分からないのです。今まで誰も考え付かなかったこと、ニーズはあるものの解決策がまだ世の中にないもの、そういうものを掘り起こすための新しい発想やアイデアが重要になってきます。

 確かに職人的な技術力もエンジニアにとっては大事ですが、努力と才能次第でいくらでも後から付いてきます。大事なのはその前提条件、「夢を持つこと」です。過去の成功体験、前例主義は、時に重要ですが、変化を前提にした場合は、逆に、大きな足かせとなります。時間は未来に向かって動いているのですから、特に若い人々には、ぜひ未来へ向けた発想と取り組みに邁進してもらいたいと思います。

企画:@IT情報マネジメント編集部

構成:吉村哲樹


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