深い業務知識が、信頼できる金融システム構築の鍵IT担当者のための業務知識講座(8)(2/2 ページ)

» 2012年03月14日 12時00分 公開
[杉浦司,@IT]
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金融業における「組織の使命」とは?

 ところで、「信用を与える」という行為は、資本主義社会において不可欠な機能であるとともに、誤った信用供与がバブルを生み出し、資本主義社会自体を破綻させてしまうことは誰もがご存じだと思います。

 信用を与えるべき者には惜しみなく支援し、信用を与えるべきではない者は厳格に拒絶する――こうした「目利き」を行うことこそ、社会基盤たる金融業が果たすべき組織の使命と言えます。

 ただ、土地や建物といった「担保物件の有無」や、「社長個人からの連帯保証の取り付け」といった従来的な審査では、ますます多様化・高度化する個人や企業の活動に対応していくことができません。例えば、GoogleやFacebookの創業者も設立時はまだ大学生でした。彼らに対して日本の金融機関ははたして信用を与えることができたでしょうか。

 金融業においては、事業計画や商品企画といった「未来のお金を生み出す可能性」を評価する力を、社会動向に応じて常に強化し続けることが求められているのです。

金融業でも“仕入れ”や“販売”が重要――金融業の主要業務

 では、ここで金融業の主要業務を簡単に紹介しておきます。

■営業

 金融業においても営業活動は欠かせません。銀行では融資先である顧客に対してだけではなく、「現金」を集めるために、預金者に向けた営業も重要になります。現金を“製造”するのは日本銀行だけですから、営業活動によって、信用の元となる現金を“仕入れ”なければならないのです。

 ただ、証券会社や保険会社では、金融商品に対する専門知識がないと営業しようがありませんから、

営業担当者は証券外務員や保険外交員、フィナンシャルプランナーといった資格を持つことが不可欠になっています。SI事業者が金融機関の営業支援システム構築を受託する場合も、IT要員に金融商品知識があることが大前提になります。

■預金(仕入れ)

 前述のように、銀行における預金、証券会社における有価証券の引き受けなど、金融業においても“仕入れ”に当たる業務があります。ただし、仕入れた現金や有価証券は、在庫として保管しておくのではなく、資産運用によって価値を高めることが不可欠となります。この資産運用に失敗すると支払い能力に不安が生じ、社会に金融不安をもたらすこともあるだけに、金融業者にとって非常に重要な業務と言えます。

■貸し付け(販売)

 銀行の「貸し付け」や証券会社の「有価証券の売り出し」、保険会社による「保険商品の販売」などが、金融業における販売業務に当たります。ただ、金融商品の販売は、通常の商品売買やサービス契約と異なり、免責事項や罰則など契約条項が多数あるため、事務手続きが煩雑です。売り先に信用を与えることになるため、事前の与信審査も厳しく、一般企業のように注文書一枚では済みません。

 個人との契約では個人情報保護など法的要求事項への対応や、実印の押印など厳格な本人証明も不可欠となります。一方で、ATMでの振り込め詐欺や、ネットバンクでのフィッシング詐欺など、非対面での販売時におけるセキュリティ対策の重要性も高まっています。

■為替

 為替は、現金を移動させず、送金や振り込み、手形、小切手を利用して決済させる銀行業務です。特に、代金支払いや資金移動など、ATMによる為替サービスは、企業間取り引きのスピードに大きく寄与しています。海外企業との取り引きでは、為替サービスを利用できなければ、そもそも貿易業務が成り立ちません。ATM以外でも、例えばパソコンを利用したインターネットバンキングなどがありますが、このようにIT利用との関連性が高いことは為替業務の特徴の1つと言えるでしょう。

金融業におけるIT利用上の課題

 ネットバンクや電子マネーなど、金融業におけるIT利用は拡大の一途をたどっていますが、ここでは大きく2つのことが課題となっています。1つは情報セキュリティの担保です。大手銀行や保険会社、クレジット会社などで顧客情報が漏えいしたり、預金者がインターネットバンクを装ったフィッシングサイトで暗証番号をだまし取られるといった事件が後を絶ちません。

 2つ目は、安全かつ安定的なシステム運用です。銀行の合併やシステム入れ替えなどの際に、大規模なシステム障害が報じられることがありますが、個人や法人の区別なく、電子商取引が当たり前になっている現在、信頼できる情報システムの開発・運用の重要性はますます高まっていると言えるでしょう。

 前者の情報セキュリティ対策では「業務知識とセキュリティスキルに優れた要員確保」と「システム開発・運用における全社的な品質保証」の2つが鍵となります。金融システムを内製していることで有名な長野県の八十二銀行では、情報システム部員に現場業務を経験させるなど、業務知識の獲得を何よりも重視しています。

 一方、品質保証面では、システムの企画・設計段階から、情報セキュリティ面の要件や仕様について慎重に考慮しておくことが不可欠となります。また、ハードウェアやソフトウェアの調達やインストール、運用オペレータの採用基準、入退室管理、バックアップ媒体の管理など、多方面に細心の注意を払う必要があります。


 次回は学校や塾など「教育サービス業」を紹介します。

著者紹介

杉浦 司(すぎうら つかさ)

杉浦システムコンサルティング,Inc 代表取締役

京都生まれ。

MBA/システムアナリスト/公認不正検査士

  • 立命館大学経済学部・法学部卒業
  • 関西学院大学大学院商学研究科修了
  • 信州大学大学院工学研究科修了

京都府警で情報システム開発、ハイテク犯罪捜査支援などに従事。退職後、大和総研を経て独立。ファーストリテイリング、ソフトバンクなど、システム、マーケティングコンサルティング実績多数。


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