IT技術者は上流に向けて飛翔せよ事例で学ぶビジネスモデリング(10)(3/3 ページ)

» 2012年09月29日 19時44分 公開
[林浩一(ディレクター),ウルシステムズ株式会社]
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5. ギャップを埋められるのはIT技術者

5.1. 上流で活躍できるIT技術者が必要-

 ユーザー企業の力を強化するためのキーになるのは、上流領域で活躍できるIT技術者だ。開発ベンダ側から協力するのか、ユーザー企業の情シス部門の一員として活動するのか、コンサルタントとして情シス部門を支援するのか、その形はどうであれ、4つのギャップを埋めることを期待できるのは、システム開発経験を十分に持つIT技術者だけだ。

・スキルのギャップを埋めるには

 システム開発の技術は日々進歩している。そんな中で、目的とするシステムの構築にどのような技術が必要とされ、そのスキルを持つ要員かどうかを見極めるには高い技術知見が必要だ。これは新しい技術の習得に日々の努力を継続しているIT技術者にしかできない。

・プロセスのギャップを埋めるには

 刻々と変化するプロジェクトにおいて、何が起きているのかを理解するには現場の体験が不可欠だ。IT技術者として、プロジェクト管理のスキルを持つことがプロセスのギャップを埋めるには必要だ。

・アクティビティのギャップを埋めるには

 ユーザーの業務を把握するには要件定義、特に業務要件定義のスキルが必要だ。業務現場でITが不可欠なものになってきていることもあって、この領域をIT技術者が行うケースは増えている。要件定義を行うためには、ITで何ができるのかを熟知しておく必要がある。

・ゴールのギャップを埋めるには

 ゴールのギャップを埋めるには経営層が何を求めているのかという目的を理解し、それにシステムの目的を合わせる必要がある。この領域にはこれまでIT技術者はあまりかかわっていない。また、IT技術者に期待されていなかった領域だったともいえる。しかし、ここが埋められない限り、結局ITを使ってビジネスを成功させることはできない。IT技術者がこの新しい役割を果たすためには、新しいスキルが必要だ。

5.2. 4つのギャップを埋める武器を身に付ける

 4つのギャップを埋めることのできるIT技術者になるためには、スキルのギャップを埋めることのできる技術力、プロセスのギャップを埋めることのできるマネジメント力、アクティビティのギャップを埋める要件定義力を磨きながら、日々の活動を通じてゴールのギャップを埋める力を蓄えていく必要がある(図5)。ゴールのギャップを埋めるために必要なスキルは、初回の稿で述べた標準言語JMLの習得だ。これは、必要な3つのスキルの頭文字を取ったもので、決してモデリングのための標準言語UMLのミススペルではない。

ALT 図5 日々の活動を通じてゴールのギャップを埋める力を蓄えていく

・Japanese

 ゴールのギャップを埋めるために前提となるのは企業トップの人たちとコミュニケーションができることだ。このために最も重要なのは日本語だ。正しく意味の通じる日本語が書けて話せなければならない。てにをは、係り受け、主語述語などがおかしいドキュメントなどを見ると、仕事ができるとは思ってもらえない。もちろん、敬語もちゃんと使えないといけない。これには、日ごろからの意識的な訓練が必要だ。仕様書などを書くときに、単に伝わればよいというのではなく、読みやすく理解しやすく書くにはどうしたらよいかを常に意識して取り組むことが大切だ。

・Money

 ビジネス上の狙いがそもそも何であるかを理解する力も前提として必要だ。ビジネスの理解のためには、「お金」に敏感であることが重要になる。ビジネスとはつまり、いかにしてもうけるかということだからである。ビジネスに関する感度を高めるためには、常日頃から世の中の経済動向に注意を払うとともに、自社やお客さま企業がどのような仕組みで利益を得ており、その中でシステムがどのような役割を果たすのかを関心を持って見ておくことが大切である。

・Logic

 そして、最終的にゴールのギャップを埋めるために必要になるのは、関係者を動かすことのできる説得力だ。このために有用な思考法がロジカル・シンキングである。ロジカル・シンキングをマスターすることによって、システムの目的を明確にし、ビジネス上の目的と整合させるにはどうすればよいのか、課題を見つけてその解決策を提示することができるようになる。

6. 上流領域に向けて飛翔せよ

 本当にIT技術者に上流工程、ゴールのギャップまで埋めていくことができるのだろうか? この問いには確信をもってイエスと答えることができる。この連載では、筆者の同僚たちに登場してもらった。彼らのほとんどは、IT技術者出身のコンサルタントだ。入社して初めて上流工程を経験してきたメンバーも多い。筆者には、コンサルティングや上流工程のプロジェクト経験しかない人よりも、優れた技術力や開発マネジメント経験を持つ人の方が活躍できているようにすら感じられる。

 腕に覚えのある技術者の皆さん、勇気を持って一歩踏み出し、上流領域に向かって飛翔しよう。 ビジネスとITのギャップに悩むユーザー企業があなたの活躍を待っている。

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