
従業員の出退勤データや個人情報は、企業のコンプライアンスにおいて最も重要な情報の一つです。近年、働き方改革やリモートワークの普及に伴い、クラウド型(SaaS)の勤怠管理システム導入が加速していますが、その一方で「セキュリティは本当に大丈夫か」という不安の声を耳にすることもあります。
万が一情報漏洩やデータの改ざんが発生すれば企業の社会的信用は大きく失墜します。もちろん従業員からの信頼も地に落ちます。本記事では、勤怠管理システムに潜むセキュリティリスクを整理し、個人情報保護法などの法的要請も踏まえながら、安心してシステムを選定するために「何をチェックすべきか」という具体的なポイントを解説します。
この1ページでまず理解!勤怠管理システムの主な機能、メリット/デメリット、選定ポイント|人気・定番・おすすめ製品をチェック
目次
なぜ今、勤怠管理システムのセキュリティが重要なのか
勤怠管理システムは単なる出退勤の日時記録ツールではありません。従業員の個人情報や給与計算の基礎となるデータを扱う、企業の根幹を支えるシステムです。では、なぜこのシステムにもセキュリティ対策が強く求められるのか、その背景には3つの理由があります。
膨大な「個人情報」を取り扱うリスク
勤怠管理システムが扱うのは、氏名、所属、従業員番号だけではありません。出退勤時刻、残業時間、休暇取得状況といったデータは、それ自体がセンシティブな個人情報です。さらに、給与計算システムと連携する場合は、基本給や手当、銀行口座情報など、より機密性の高い情報への「入口」ともなり得ます。
これらの情報が外部に漏洩すれば、従業員に直接的な被害が及ぶだけでなく、企業は深刻な信用の失墜と法的責任を問われることになります。
リモートワーク普及によるアクセス経路の多様化
従来のオフィス内だけで利用するオンプレミス型システムとは異なり、クラウド型の勤怠管理システムは、インターネット環境さえあればどこからでもアクセスできる利便性が特徴です。
しかし、この利便性はそのままセキュリティリスクの増大につながります。自宅のPC、カフェの公衆Wi-Fi、個人のスマートフォンなど、アクセス経路が多様化・複雑化することで、企業が管理しきれない領域から不正アクセスやマルウェア感染の脅威にさらされる可能性が高まっています。
個人情報保護法における「安全管理措置」の義務
2022年4月に施行された改正個人情報保護法では、企業が個人データを取り扱う際の「安全管理措置」がより一層厳格化されました。企業は、データの漏洩、滅失、毀損を防ぐために、技術的・組織的な対策を講じる義務があります。
勤怠管理システムをSaaSで利用する場合は特に、サービス提供事業者任せにするのではなく、導入する企業自身も「どのようなセキュリティ対策が講じられているか」を把握し、適切に選定・監督する責任があります。
勤怠管理システムの主なセキュリティリスク
勤怠管理システムを運用する上では、具体的にどのような脅威が存在するのでしょうか。リスクは大きく「外部」「内部」「障害」の3つに分類されます。
外部からの脅威(不正アクセス・情報漏洩)
最も警戒すべきリスクが悪意ある第三者による外部からのサイバー攻撃です。例えば、脆弱性を突いた不正アクセス、ランサムウェア(身代金要求型ウイルス)によるデータ暗号化、フィッシング詐欺による管理者IDの窃取などが挙げられます。
これらの攻撃により、従業員の個人情報リストが丸ごと盗み出されたり、勤怠データが破壊されたりする可能性があります。
内部の脅威(不正打刻・データ改ざん)
セキュリティの脅威は外部要因だけではありません。内部、すなわち従業員・内部関係者による不正も大きなリスクです。具体的には、同僚による代理打刻、過去の出退勤データの改ざん、残業時間の不正申告などが挙げられます。
これらは単なる服務規律の問題ではなく、放置すれば人件費の不正な流出や、労働基準法違反(例:36協定違反の隠蔽)といったコンプライアンス問題に直結します。
システム障害(データ破損・サービス停止)
攻撃や不正だけでなく、システム自体の障害もリスクです。例えば、サーバダウンによるサービス停止で全従業員が打刻できなくなったり、ハードウェアの故障やアップデートの失敗によって過去の勤怠データが破損・消失したりするケースが考えられます。
特にクラウド型サービスの場合、事業者都合のサービス停止、データセンターの被災(地震、火災、停電など)も想定し、事業継続計画(BCP)の観点からも対策が求められます。
セキュリティ対策で失敗しないための選定ポイント
では、これらの多様なリスクから企業と従業員を守るためには、勤怠管理システム選定時にどのような点をチェックすればよいのでしょうか。重要なポイントを「インフラ」「機能」「運用」の3つの側面に分けて解説します。
【インフラ】通信・データの暗号化 (SSL/TLS)
まず基本となるのが、通信とデータの暗号化です。PCやスマートフォンからクラウドサーバへデータを送信する際、通信が暗号化(SSL/TLS化)されていなければ、途中で盗聴される危険があります。
また、サーバに保存されている勤怠データそのものが暗号化されているかも忘れずに確認しておきましょう。
【インフラ】データセンターの堅牢性・バックアップ体制
クラウドサービスは、ベンダーが管理するデータセンターでシステムが稼働しています。そのデータセンターが、地震や火災などの災害に耐えうる堅牢な設備(耐震・免震構造、自家発電装置など)を備えているかを確認しましょう。
加えて、データのバックアップ体制も重要です。「毎日自動でバックアップが取得されているか」「国内の複数拠点でデータを冗長化(二重化)しているか」は、データ消失リスクに備える上で必須の確認項目です。
【機能】アクセス制限(IPアドレス・端末認証)
外部からの不正アクセスを防ぐ機能として「アクセス制限」は非常に有効です。例えば「オフィスのIPアドレスからのみアクセスを許可する」といったIPアドレス制限機能があれば、社外からの不審なアクセスを根本的に遮断できます。
また、リモートワークで利用する場合は、会社が許可した特定のPCやスマートフォン端末のみを認証し、それ以外のデバイスからの利用を禁止する端末認証機能も有効な対策となります。
【機能】多要素認証(MFA)への対応
IDとパスワードだけの認証は、パスワードの使い回しや漏洩によって容易に突破される可能性があります。これを防ぐのが多要素認証(MFA)です。
ID・パスワード(知識情報)に加え、スマートフォンアプリに送られるワンタイムパスワード(所持情報)など、複数の要素を組み合わせて本人確認を行うことで、セキュリティレベルを飛躍的に高めることができます。
【機能】不正打刻を防止する認証方法(生体認証など)
内部の不正打刻リスクに対しては、打刻方法そのもののセキュリティ強化が必要です。ICカードやパスワード入力は、貸し借りによる代理打刻が容易に行えてしまいます。
これを防ぐためには、指紋認証、静脈認証、顔認証といった「生体認証」や、スマートフォンのGPS情報を利用した打刻など、本人以外が打刻できない仕組みが効果的です。
【運用】第三者認証(ISO27001、Pマーク)の取得
ベンダーがどのようなセキュリティ体制を構築・運用しているかは、外部からは見えにくい部分です。そこで客観的な判断基準となるのが、第三者認証の取得状況です。
- ISO/IEC 27001 (ISMS): 情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格。
- ISO/IEC 27017: クラウドサービスに特化した情報セキュリティの国際規格。
- プライバシーマーク(Pマーク): 個人情報の取り扱いが適切であるかを評価する日本の認証制度。
これらの認証を取得しているベンダーは、情報管理に関して一定水準以上の体制を整備・運用している証左となります。

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