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ソニーの隠し球は、家から飛び出す「Location Free」2004 International CES

» 2004年01月08日 22時03分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 CESの開幕前日となる1月7日、ソニーがプレスカンファレンスを実施し、多くの新製品やサービスを発表した。今年も多くの新製品やプロトタイプを展示しているソニーだが、中でも“黒いBlu-ray”と“Location Free”の新デバイスが目を引いた。

photo オープニングは「QRIO」のダンス。今回は走らなかった

 「QRIO」のダンスで幕を開けたカンファレンスでは、4月より北米で開始するオンライン楽曲販売サービス「Connect」をはじめ、北米版「スゴ録」、MDの新規格「Hi-MD」など多くの新製品やサービスが相次いで発表された。昨年は“ソニーショック”など業績不振が話題になることの多かった同社だが、ソニー社長兼グループCOOの安藤国威氏はむしろ楽観的な見通しを示した。安藤氏は、戦後の日本で「3種の神器」「3C」などと呼ばれた家電製品があったことを紹介したあと、「今、新しい3種の神器と呼べるのはPDP、DVDレコーダー、そしてデジタルカメラ」として、ソニーのビジネスが時流に合ったものであることを強調した。

photo Connectのデモ画面。Connectは、1曲あたり99セントという価格の「iTunes Music Store」対抗のサービスだ。ただし、日本では「他のレコード会社と共同運営しているレーベルゲートが存在するため、Connectの展開は予定していない」(同社)

インターネット越しの「LocationFree」

 続いて登場したSony Americaのシニアバイスプレジデント、ティム・ボクスター氏が紹介したのは「ニューコンセプトのロケーションフリーテレビ」だ。

photo ニューコンセプトのLocationFreeテレビ。ちなみに「LocationFree」はソニーの登録商標

 この新製品は、「ベースステーション」と12インチのタッチパネルスクリーン付きディスプレイ端末、そして5.8インチ画面の「パーソナルビューア」で構成されている。ベースステーションにはTVチューナーとMPEG-2エンコーダが内蔵され、無線LANを通じてディスプレイやビューアに映像を配信する仕組みだ。

 無線LANはIEEE 802.11a/b/gのトリプルスタンダードに対応。家電製品がデュアルバンドの無線LANを標準サポートするのは初めてだという。

photo シンプルなデザインの「パーソナルビューア」。WEGAをミニチュアにしたようなイメージだ

 ベースステーションには、チューナー用のアンテナ端子のほか、外部入力端子と赤外線経由でAV機器を操作できるAVマウス端子が装備されている。つまり「HDDレコーダーなどを接続しておけば、ディスプレイから操作が可能になる」。また、ディスプレイにはフォトアルバムや電子メール、Webブラウザといった機能も盛り込まれた。

photo 12インチディスプレイの側面にはメモリースティックスロットやEthernetポートが並ぶ

 仕様を見ると、無線LAN規格の違いこそあれ、その機能は同社の「エアボード」と共通していることがわかる。ただし、大きく異なるのが、ディスプレイやパーソナルビューアを外に持ち出して、インターネット経由で自宅のテレビやビデオが視聴できるという点だ。セキュリティなど技術的な詳細は明らかにされなかったものの、ソニーの「LocationFree」が守備範囲を拡大したことは確かだ。

 ボクスター氏によると、この新製品は2004年の遅い時期に発売する予定だという。国内発売の時期は未定だが、展示機の完成度を見る限り、そう遠い話ではなさそうだ。

photo 12インチディスプレイは“着せ替え”も可能

BD-ROMプレーヤーを初公開

 展示会場では、そのほかにも多数の新製品やプロトタイプが展示されている。もっとも、前述の「スゴ録」のように、新製品の多くは日本で先行発売されているものが多い。全くの初公開といえるものは、Location Free TVのほかに3点あった。

 その1つは、再生専用のBlu-ray規格「BD-ROM」とプレーヤーのプロトタイプだ。BD-ROMは、HD画質のパッケージメディア──つまり“ポストDVDビデオ”を狙う新しい規格。間もなく「Ver1.0」が発行される予定となっている。CESでも1月8日に「Blu-ray Founders」のカンファレンスが予定されており、そこで詳細が明らかになるはずだ。

photo 「BD-ROM」対応Blu-Rayプレーヤーのプロトタイプ。外観は現行レコーダーと同じだが、真っ黒に塗装されていた。同社によると、製品化は2005年になるという
photo BD-ROMのメディア。カートリッジを使わない“ベアディスク”だ。片面一層、片面2層の2種類が展示されていた

 もう一つ、光学ドライブの新しい展示が2層メディア対応のDVD+RWドライブだ。こちらもプロトタイプだが、製品化されれば、一般PCユーザーでも2層メディアをハンドリングできるようになるわけで、注目度は高い。

photo 2層メディア対応のDVD+Rレコーダー

MDの復権をかけた「Hi-MD」

 最後の一つは、日本でも同時発表されたMDの新規格「Hi-MD」だ。Hi-MDは、現行MDとの再生互換性を保ちながら、記録ビット長を短くするなどして約2倍の高密度化を実現した新規格。音声圧縮技術には、新たにATRAC3plusを採用したほか、非圧縮のリニアPCMにも対応する。

 Hi-MDは、ファイルシステムにFATを採用したため、MDを汎用ストレージメディアとして利用できるのも特徴だ。つまり、PCとHi-MD対応機器をUSBケーブルで接続すれば、Hi-MD対応機器を外付けHDDやフラッシュメモリと同様に利用できることになる。「たとえば、通勤時間には音楽を聴き、オフィスではPCにつなげて仕事用のファイルを保存。そのまま自宅に持ち帰るといった使い方ができる」(ソニー)。

 同時に開発された「Hi-MD」規格専用のディスクは、「DWDD」(Domain Wall Displacement Detection、磁壁移動検出方式)と呼ばれる高密度記録技術が盛り込まれ、従来のMDと同じサイズながら1Gバイトの容量を持つ。これにより、1枚のメディアで実に最大45時間もの楽曲(ATRAC3plus、48Kbps)を記録可能だ。また、現行のMDメディアもHi-MD対応機器で再フォーマットすることにより、Hi-MDメディアに早変わりする。この場合、80分メディアなら約300Mバイト、音楽は最大13時間30分(48Kbps時)を記録できる。

photo 左が「Hi-MD」のメディア。右が現行の80分MD

 著作権保護技術にはOpenMGとMagicGateを採用。PCに蓄積した楽曲ファイルは、ソニーのジュークボックスソフト「SonicStage」(2.0以降)を使ってチェックイン&チェックアウトする形になるため、Hi-MD対応機器にはSonicStageが同梱される。

 なお、同時に発表されたHi-MD対応機器は、ウォークマンタイプ4種類(いずれもオープンプライス、実売3万−4万5000円前後)と「サウンドゲート」(6万円前後)がラインアップされており、米国では4月から、日本は一足遅れて6月に発売される予定だ。

 一時期はカセットテープに変わるポータブルな音楽メディアとして普及したMDだが、最近はシリコンメディアやHDDを使ったオーディオプレーヤーに押され気味。Hi-MDは、そんな状況を変えるためにソニーが投入する切り札といえそうだ。なお、同社は「他社へのライセンスも検討中」と話しており、追随するメーカーが現れる可能性も高い。

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