さて、われわれが目にするHDコンテンツの多くは、1080iのハイビジョン放送だ。これに対して次世代光ディスクに収められるのは1080p。より高精細な画が期待できる。しかし、現行のハイビジョン放送でも、フィルムソースのハイビジョン放送では、輪郭が甘くボケ気味で、細かなディテールが見えないと感じている人も多いのではないだろうか。
これはインタレース放送だからという理由も当てはまるだろうが、一番の原因はフィルムの持つ解像度を生かし切れていないから、というのが理由だとも考えられる。
テレシネ変換はリアルタイムにコンソールから処理可能に設計されているため、1コマは1/24秒、もしくは1/30秒単位で瞬間的にスキャンしながら動作している。テレシネ変換装置には、光電管センサーを用いたものとCCDセンサーを用いたものがあるそうで、前者は色再現性、後者は解像感に優れるそうだ。いずれにしても、フィルムの持つ解像感をデジタルで完全に再現するまでの性能はない。
しかし、一部の映画では、Digital Intermediate(DI)という考え方で制作され始めている。DIは、現像したオリジナルネガフィルムに対してコマごとに高精細フィルムスキャンを行い、フルデジタルで後工程のすべてを処理。完成後にデータをポジフィルムにダイレクト出力するというものだ。これにより、シアター上映用リリースプリント、デジタルシネママスター、さらにダウンコンバートしてHDマスターとSDマスターと、4つのマスターが単一のデジタルマスターから作成される。そんなワークフローが取り入れられているのだ。
テレシネ変換もフィルムスキャンの一種だが、映画業界ではリアルタイム処理の場合をテレシネ、非リアルタイムでコマごとにスキャンする処理をフィルムスキャンと、狭義の意味で言葉を使い分ける。
高解像フィルムスキャンを行うと、色のダイナミックレンジが広がり、より高い解像度でのデジタル化も可能になる。高解像フィルムスキャンのコマを、適切なアルゴリズムでHD解像度まで縮小すると、HDテレシネ変換で得られるよりも、はるかに情報量の多い美しい映像が得られるというわけだ。
松下電器系のポスプロであるDigital Video Compression Corporation(DVCC)で技術を担当する末次圭介氏は「私は過去8年間、35mmフィルムからはHDテレシネ以上の画質は絶対出せないと信じ、力説してきたが、すっかり覆されてしまった。一日中見ていても飽きないほどの高画質だ」という。近年では、“パイレーツ・オブ・カリビアン”が、DIの手法を用いて制作されているとか。
われわれが見ているハイビジョン放送のHD映画が、まだまだHDTVフォーマット本来の可能性を生かし切れてはいないというのも当然というべきか。次世代光ディスクに関しては、政治的な動きや数字としての容量ばかりが語られがちだ。しかしながら、大きく向上し始めている映画のデジタル化品質に追随し、今後の10年を支える基礎技術としてオリジナルソースの品質を生かせるプラットフォームでなければならないことを忘れてはいけない。
Blu-rayとAODの争いの中では、どこまでの容量、どこまでの画質が必要なのか? という議論も出てくる。そうした議論の中にあって、制作者たちの“画”に対するコダワリと思い入れは、欠かせない要素だと率直に感じた。
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