ソニーが静岡のソニーディスクテクノロジで行った説明によると、BD-ROは(現時点では)1.1ミリのディスク基盤に2層の記録層を作った後に保護層用フィルムを貼り付けるという。1層目を作る行程は、基本的にDVDと同じだ。ではもう1層は、どうやって作るのか?
3層以上のDVDでは、スピナーでUV硬化樹脂を広げてスタンパに当ててから紫外線を当てる手法が検討されていると書いた。BDでも基本的には同じ方法が採られているが、スピナーを用いることはしない。
その代わり、ゼリー状に半分固まっているUV硬化樹脂を2つのフィルムでサンドイッチした両面テープのような素材を用いる。このフィルムの片側を剥がし、2層目を生成したディスク基盤に載せる。もう片方のフィルムも剥がしてからスタンパの上に置いて、紫外線で固めると2層目の凹凸の出来上がり。あとはスパッタリングすれば2つの記録層となり、残りの行程は保護層用フィルムを貼り付ける1層ディスクと同じだ。
ポイントは、液体のUV硬化樹脂ではないところ。液体のUV硬化樹脂はニッケルスタンパから剥がれにくいが、ゼリー状のものならば、ニッケルスタンパでがそのまま利用可能なる。その結果、アクリルスタンパを作る射出成型装置を使う必要がなくなるわけだ。
静岡でのソニーの説明では、ゼリー状の接着シートに関して多くが語られなかったが、ひとつのディスク基盤に、複数の記録層を積み重ねる製造手法はこれまで多くの企業が取り組みながらも、コストダウンや歩留まり向上を図れなかった分野である。ゼリー状シートを使った行程とシートそのものの品質が、2層BD-ROの歩留まりを大きく左右しそうだ。
もう1つ、BD-ROの歩留まりとコストに影響する要素が、保護層用フィルムの品質である。HD DVD陣営が指摘するように、通常の高分子素材はフィルム延伸の行程で複屈折特性が強くなる。この特性を抑え込んだ保護層用フィルムを低コストで製造することは、たとえば液晶パネルのコスト低減にも寄与するなど、さまざまな応用分野があるため、いくつもの企業が研究開発を行っている。
ただ、リンテック(帝人化成)などの材料メーカー関係者によると、低複屈折材料の開発は現在大きく発展している過程。現在、保護層用の低複屈折フィルムは高コストだが、延伸しても高分子の鎖が伸びきらないよう、スペーサーとなる素材を混ぜることで、ローコストかつ複屈折のない保護層用フィルムが近いうちに製造可能になるという。
前回の記事で示したように、ソニーによるとBD-ROの歩留まりは1層で70%以上、2層は60〜70%の間だという。この値を信じるなら、単純に1層あたりの歩留まりの掛け算になっていない(掛け算になるなら、2層ディスクは50%程度の歩留まりになる)ため、記録層生成以外、おそらく保護層を形成する行程、あるいは保護層用のフィルムの品質が原因で歩留まりが落ちていると想像できる。
ソニー静岡のBD-RO製造ラインを見学したことのある独立系の光ディスク製造装置メーカー技術者は、「われわれ業界の目で見ると、歩留まりや製造サイクルを量産レベルまで上げるには、きびしいラインだった」と懐疑的な意見もある。
「BD-ROはまだ規格化されていないため、静岡工場では物理的にディスク作れるものの、物理特性、電気特性、信号特性評価するところまでは至っていない。まずはROMの物理規格ができて、それからでないと、BD内部でも量産性の評価はできないだろう。PTEマスタリングは方式としてユニークで有望な手法だが、あと1〜2年は研究開発を頑張る必要ある。また最終的な歩留まりは保護層フィルムが握っている」(同氏)。
しかし、現段階での問題はいくつか抱えながらも、トンネルの先は見えたのかもしれない。Blu-ray Disc Foundersを構成する13社のうち、松下電器、フィリップス、ソニーの3社が、1層BD-ROのコストをDVD以下にする見通しが立ったことを発表した。筆者が取材したソニーの製造設備だけであれば、あるいは半信半疑だったかもしれない。しかし、そこに別途製造工程を開発していた松下電器とフィリップスが加わり、製造コスト問題解決の見通しをアナウンスしたことで、リアリティがグッと増したといえるだろう。
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