速報記事で紹介したように、ソニーはディスク基板に紙を用いた初めての光ディスクを凸版印刷と共同開発した。発表文にある“紙化率51%”とは、ディスク全体の重量に対する比率で、51%を超えると各自治体のごみ回収基準で“紙類”の扱いを受けることができる。
この“ペーパーディスク”を開発したホームエレクトロニクス開発本部オプティカルシステム開発部門長の山本眞伸氏と、同開発部門2部の行本智美氏に話を伺った。
「あまりにポピュラーな素材を用いた光ディスクのため、ある人は驚き、別の人は驚かないが、発表前にもかかわらず学会筋からの反応は非常に高い」と山本氏。
同氏によると“ペーパーディスク”は1年半前、紙を用いた液体容器(カートカン)を見て、ソニー社内の技術者が開発を思い立ったのだという。CD-Rの開発で知られたその開発者は、近年の膨大な消費量へと増加したCD-ROM、CD-Rの状況を見て、光ディスクの環境適応性を向上させるために紙を用いた光ディスクの必要性を感じていた。
約1年前に凸版印刷に芯材となる紙の開発で契約を行い、半年前に出来上がった芯材を元に光ディスクの製造を目指してきた。実際にペーパーディスクの開発を行った行本氏は、Blu-ray Discの0.1ミリ保護層フィルムや、BD-ROM2層化実現の鍵と言われるゼリー状UV硬化シートの開発を行ってきた人物である。
実際のペーパーディスクは、紙製の芯材をフィルムでサンドイッチすることで補強し、片面に反射層や保護層を生成することで光ディスクとして仕上げる。補強後の強度はポリカーボネートを用いた通常のディスクとほぼ同じ。紙とポリカーボネートの比重はほぼ同じで、ディスク全体の重さも通常の光ディスクとさほど変わらない。
しかし、芯材が紙のため、容易にハサミでカットでき、データ廃棄時のセキュリティに優れるという長所がある。また、芯材のラベル面側にレーベルプリントを施せるため、デザイン面での自由度が向上することもメリットだという。
実際のペーパーディスクを見ると、紙ならではの微妙な凹凸が反射面にある。ペーパーディスク実現に関して「芯材の凹凸をいかに減らすかが重要だった」と行本氏は振り返る。
ペーパーディスクの容量は単層25Gバイト。この数字はBlu-ray DiscのROM規格と同じだ。2層化もポリカーボネートを用いた通常のBD-ROとほぼ同じ行程で実現可能という。ソニーは年内にもBDで利用可能なペーパーディスクのスペックを規格化し、他社への技術ライセンスを進めていく。
また、ペーパーディスクはCDやDVD、HD DVDなどでは実現できない。芯材が光を遮断してしまうため、保護層が厚い光ディスクでは紙化が不可能なためである(理屈からすれば、BD以外の0.1ミリ保護層ディスクにも応用は可能)。
実際にハイビジョン信号が記録されたペーパーディスクを、試作のBD-ROプレーヤーで再生するデモが行われたが、メディアの認識やコンテンツへのシーク速度など、通常のポリカーボネート製BD-ROと変わらない印象だった。
山本氏は「雑誌付属の光ディスクやプロモーション用に配布されるメディアなどに使ってもらいたい。またライトワンスのBD-Rもペーパーディスクで開発する。大量に消費されるライトワンスメディアの環境負荷を下げることが可能になる」と話す。
芯材に紙が利用可能になると、今度はレーベル面だけでなく信号面となる反射層にも印刷技術を応用できるのではないか?という欲も出てきそうだ。
「印刷とよく似た手法で、紙に直接信号を記録するアイディアは、実際に研究開発を行っている。実現には相当に高いハードルがあると想うが、将来は可能になるかもしれない」(山本氏)
製造コスト面はポリカーボネートを用いる場合よりも、若干安くなる見込みだという。「量産さえ進めば、CD-ROMとほぼ同等のコストまで落とすことができる」と山本氏。
気になる実用化の時期に関しては「3〜4年ぐらいがひとつのターゲットになる。現時点でもBDプレーヤーでの再生は行えているが、平滑性などは現在よりもさらに上がり品質が向上する。光ディスクとしての性能は、ポリカーボネート製と変わらないレベルにまでなる」(山本氏)という。
むろん、ペーパーディスクが世の中で一般的に流通するようになるためには、0.1ミリ保護層のBDなどが主流になる必要があるが、山本氏は「デザインの自由度が高くなることと、環境をキーワードに売り込みたい。また、大容量を記録できるため“容量あたりに必要な材料”という観点でも優れていると思うし、データ廃棄も容易な点をアピールしていきたい」と話した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR